赤竜と牙翼
引っ叩かれた頬がヒリヒリする…。
勇者アルトスッポンポン事件から一晩たった。
ちなみにパーデス君は別の場所で赤竜の中間試験を受けていた為深夜に帰還したのだが、どうやら試験には合格したらしい。赤竜曰く
「パーデス様はまだまだ荒削りですが、潜在能力が非常に高く、いずれは偉大な魔族になるかも知れないです」
との事…本当かねぇ。
昨日は口をきいてくれなかったアルトだが、一晩たって冷静になったらしく
「はーさん…き、昨日は叩いちゃってすみませんでした。わ、わざとじゃ無かったのに…。僕はもう気にしていないのでハーさんも…忘れてください」
と、顔を真っ赤にしながら謝ってきた。
ヤレヤレである。
アルトが作った朝食の【八つ裂きニワトリと暴れ人参と悪魔ネギの肉野菜炒め】を四人…最近は赤竜も一緒に生活している…で食べ終わると、俺は一つの提案をした。
「昨日の中間試験で気がついたんだがな、アルト自身は着々とレベルを上げている。人間の尺度で言えばレベル50以上にはなってるんじゃないか。」
「ホントですか!」
「しかし問題は、やはり人間が生身で俺たち竜族とやり合うのは無理がある。今の革の鎧装備では…えーと…昨日みたいになりかねないな」
また顔を赤らめて下を向くアルト。
つられて俺まで照れくさくなる。
勘弁してくれ〜。
ちなみにアルトは今、下着の上に予備の革の鎧を着ている為、なにやらビキニアーマーみたいな出で立ちになっている。
予備のアンダーウェアが干してあった場所が覇王竜撃波の爆発に巻き込まれて消し飛んでいたのだ。
目のやり場に困る。
余談だが、俺たち竜族は真の姿はドラゴンだが、普段は人型なので美的感覚的には人間の異性にも…その…なんだ、、、ムラムラする。
べ、べつにアルトに特別な感情があるわけじゃ無いんだからね!勘違いしないでよね!ただの性欲なんだからっ!…とツンデレ風にモノローグを進めてしまうほどテンパり始めた俺は話を進めることにした。
「えー…ごほん!なので、今日からはアルトの武器と防具集める旅に出ようと思う。もちろん修行は終了という訳ではなく旅先でも時間を見つけて行うのでそのつもりでいるように。」
「武器と防具ですか。しかしハーさん、今この地下世界ミッドナイトにはもう武器屋も防具屋も鍛冶屋もほぼ無いと思うのですが…ハーさんの魔王軍が侵略しちゃったせいで!」
アルトがジト目で突っ込んでくる。
ぐぬぬ、ちくしょう。
「だーかーらー!魔王には勝手に祭り上げられただけだし、侵略も下っ端が勝手にやったんだから俺はしらねーっての!!」
「うわっ!ひどっ!引きますわ〜」
と、今度はパーデスが呟く。てめー後で覚えてろよ!
「かと言って人間を助けてやる義理も無いからな。魔王軍を倒して世界を救いたきゃとっとと強くなって俺と喧嘩した後に勝手にやれ!まあ喧嘩の後お前が無事かは知らないけどな!!」
かっこよく決めた俺のドヤ顔に対してアルトの反応が冷ややかなのは…見なかったことにしよう。
「ま、まあしかし今のアルト様に叶うのは魔王軍でも覇王竜様とドラゴン族くらいではないでしょうか。だいぶお力を付けましたから。」
「いやいやいやいや赤竜さん!この大魔神官パーデスもまだまだ妹弟子には負けないですよ!」
「うーむ、遠距離魔法戦なら分かりませんが近距離戦では厳しいかと…。」
「ガーン!!兄弟子の面目丸つぶれじゃないですか〜やだ〜!!」
「うるせー!!ごちゃごちゃうるせーよ話が進まねーだろ!!ゲキヒマ!!!」
「うそーん!?!?ギャーーース!!!」
チュドドドーーンッ!!
完全に八つ当たりで放った俺の火炎魔法はいつもどうりパーデスを丸焦げにして吹き飛ばした。
………10分後……
焦げて香ばしい匂いを放つパーデスに治癒魔法をかけながら話を再開する。
しかしこいつ俺のゲキヒマでも死ななくなったかぁ。
毎日赤竜のドラゴン形態に追い回されていただけあって体力と防御力が大分上がってるのか?
元大魔導なのに…。
「兎に角!今日からはアルトの武器と防具を調達する旅に出るぞ!」
「そうは言いますがハーさん、あては有るんですか?アルト殿の言う通り今この世界には鍛冶屋も武器屋もほぼ無いですよ?」
「安心しろ、アテは有る。先ずは勇者ナイトが300年前の戦いで使っていた盾を取りに行く。」
それを聞いた赤竜の顔が強張る。
「覇王竜様…しかし、あの盾が有る場所は…」
「まあ俺も正直気は乗らないが、背に腹は代えられねーからな。覚悟を決める」
「は、ハーさんが覚悟を決める場所って…いったい…!!」
焦げ臭い奴がガタガタ震えている。本当に焦げ臭い。まあ俺が焼いたんだが…。
「場所…てか面倒くさいのはそこにいるヤツだな…。」
地下世界ミッドナイト最北端の海ホーク海岸から南東へ5日程、フルムーン城から見ると北東の位置にその洞窟は有る。
鬱蒼と茂る大森林を抜け湿地帯に入って暫く進むと巨大な竜の石像が見える。
俺を讃えて魔王軍の魔族が造った物らしいが…勝手に造るなよ。
俺のドラゴンモードの姿を見た奴なんて数える程しか居ないだろうからほぼ空想の姿だな。
実際石像のドラゴンは俺とは似ても似つかない。
ともあれその【覇王竜様を称賛する石像】の裏手にかつての魔王軍前線基地、【マナカの洞窟】は存在していた。
「なんだかジメジメしていて居心地の良い場所ですねー、ここがマナカの洞窟ですかー」
パーデスのコメントが気持ち悪い。
かつての前線基地は、今は魔王軍に逆らう奴らを捉えておく牢獄として使われている。
…と、言っても今この洞窟に囚われているのはたった一人の人間だけだ。
洞窟の暗闇の中を松明を片手に進むと突き当たりに扉が見えてきた。
人のゆうに二倍はあろうかと言うその扉はとても牢獄の扉には見えない豪華で煌びやかな物に見える。
その手前に屈強な体躯の騎士然とした男が立っていた。
「よう牙翼、久しぶりだな。見張りごくろーさん。」
男の名前は牙翼と言う。
赤竜とは別の里の竜族で…何というか思い込みが激しく融通が利かないヤツだ。そして…。
「お久しぶりです覇王竜様!お待ちしておりました!それから赤竜っ!てめーも久しぶりだなクソがっ!田舎者のレッドドラゴンクセーと思ったらやっぱりテメーだったわクソがっ!」
「おやおや相変わらず品性の欠片も無い汚い言葉が良くお似合いですね牙翼。火炎も吹けずピヨピヨ飛ぶことしか能の無いワイバーン風情が!貴方如き覇王竜様の許可さえ有れば一瞬で消し炭にして差し上げられるのですよ?」
…そして…赤竜と仲がメチャクチャ悪い!
もともとレッドドラゴンとワイバーンは一族同士が不仲なのだが、こいつらの険悪さはその枠を遥かに超えている。
「あああんん!?田舎者竜がごちゃごちゃ五卓並べるなよクソが!耳が腐るわボケが!」
「貴方の声こそ気持ち悪いですよ〜!覇王竜様、どうかこの歩く騒音被害を始末する許可を!すぐ済ませますので!」
「上等だコラボケコラ!!返り討ちで八つ裂きにしてやるわボケコラ!!!」
「ごちゃごちゃうるせー!!二人ともいい加減にしねーと殺すぞ!!」
ビクッ!!
俺が苛立ち放った怒気に当てられ、赤竜と牙翼が凍りつく。
「「も、申し訳ありません!」」
ちっ!ビビっちまったか。面白くも無い。もっと反骨心があって向かって来る位じゃねーと暇も潰れやしない。
…と、違った違った。
今日の目的は…。
「とにかくだ!今日は預けてた【真月の盾】を取りに来た。とっとと持ってこい。」
真月の盾、又の名をフルキャンセルシールド。
勇者ナイトが300年前の大魔王討伐時に使用していた為【ナイトの盾】と呼ぶ者もいる。
元々この盾はどんな物理攻撃も防ぐ【ダメージブレイカー】と言うその時点でも伝説級の対物理最強盾だったのだが、創造神ルナティックが対魔法の加護を与え、さらに勇者ナイト所縁の異世界の神やら精霊やらが総動員して加護やら守護やらなんやかんや力を与えた結果、魔法 物理 ブレス 呪い 霊力 超能力 気功 自然現象 その他諸々何でも防ぐ最強の無敵盾になった。
実際かつての大魔王もナイトに全ての正面からの攻撃をこの盾で塞がれ、涙目になりながら横や後ろに回り込んで必死に戦っていた。
「いや、その真月の盾なんですが…我が主君の超絶可愛いフルムーン姫がえらく気に入ってしまい…部屋の壁掛けに…していたのですがその後鍋敷きになりまして、今最終的にカレー皿に」
ん??訳が解らない??
「つまり、その…我が主君の超絶ラブリーフルムーン姫が真月の盾を気に入ってしまい、壁掛けにした後、鍋敷きにし、さらにカレー皿に使用してます」
いやそれはさっき聞いた。聞いたうえで訳が解らない。
「いやいや!色々突っ込みたいんだけど、えっと、じゃあ伝説の盾って今…」
「カレー皿です!!」
「カレっ!?!?…あ、あと「我が主君の」って、お前の主君って俺だよな?」
「今の私は身も心もフルムーン姫様の騎士でございますっ!!!」
あああああっ!ダメだこいつ!また昔の悪い癖が出たあああああっ!!
牙翼は昔から何故か姫を護る騎士に憧れていた。
何かの書物で読んだ騎士と姫の恋物語をメチャクチャリスペクトしているらしい。
可愛い女や美しい女をみると「我が姫っ!」とか言いながら勝手に忠義を誓い仕えようとするのだ。
「確かに私は覇王竜様に仕える忠実なる僕でありました、、、が!フルムーン姫が魔王軍によってこのマナカの洞窟に幽閉されて来た日、一目見た瞬間!そう、その一瞬で我が心は姫に奪われたのでございますっ!」
なんでだーー!!!訳解らん!!
「そしてその日以来、姫の従者として!騎士として!身の回りの世話から警護まで全てこの牙翼が行っておりますっ!!」
「はっ…貴方如き粗野なワイバーンが身の回りの世話を語るとは片腹痛いですね〜」
おいこら赤竜まで対抗意識を燃やすな
「なんだとコラ!今俺は覇王竜様と喋ってんだぞコラ!三下執事如きが口挟んでんじゃねーぞ!」
「黙りなさい三下従者モドキ!もう我慢の限界です!!今すぐ焼き尽くして差し上げます!」
「てめーこそ今すぐ八つ裂きにしてやるぜ!」
またかよ…俺が苛立ち再び声を上げようとした時、不意に牢獄?の扉が開き凛とした声がした。
「お待ちなさい!牙翼!そしてそちらの執事の方!」
現れたのは歳の頃ならアルトと同じくらいの金髪の小柄な美少女、フルムーン王国現国王ナイト10世の娘【フルムーン・ド・エメラルド姫】である。
彼女は一歩前に踏み出すと最近では少女漫画でも聞かなくなったセリフを何のためらいも無く発した。
「二人とも!私の為に争うのはやめて!!」
硬直する赤竜。
一方牙翼は完全に状況が飲み込めずにキョトンとしている。お前の君主なんだろ?キョトンとするなよw
そして続けざまに輪を掛けて傍迷惑な一言を発した。
「二人の想いは受け取れないわ!だって私には…覇王竜様と言う運命の人が居るのだから!!」
牙翼とパーデス、アルトまでが一斉にこちらを物凄いびっくり顔で見る。
赤竜は「アッチャー」と頭を抱えた。
だからここには来たくなかったのだ。
…そう…なんの酔狂かこの人間の姫は、ドラゴンであり魔王である俺、覇王竜にゾッコンらしいのだ…
つづく…




