朝食とコロッケ
地下世界ミッドナイトの太陽は太陽ではない。
月だ。
俺の故郷である地上世界アースグランドでは月とは太陽の光を受けてで輝くものだが、この世界の月は創造神ルナティックの魔力によって月単体でまるで太陽のような輝きと熱を放っている。
前の五つ刻から七つ刻に掛けて緩やかに明るくなり、後の七つ刻までその明るさを保ち、後の九つ刻迄の二刻の時間を掛けてゆっくりと暗くなる。
暗くなる、と言っても完全な闇になる訳ではなく地上世界で言うところの月明かり程度の仄かな明るさは放ち続ける。
ちなみに魔物は暗い時間の方が力を増す。
女神ルナティックの祝福の月光が弱いからだ。
先日この俺 覇王竜の弟子になった少女、勇者アルトの朝は早い。
まだ闇も明けきらない前の五つ刻頃に活動を開始し薪を集める。
その際に湧き水をくみ、食べられそうな野草や実も集める。
半刻ほどかけてそれ等を集め終わると朝食の準備に取り掛かる。
拾った薪に火系魔法のヒマで着火し、旅立ちの際にフルムーンの城下町で買い込んだ調理道具を並べる。
鍋、フライパン、包丁、まな板、調味料などなど…アルトの背負いカバンの中身はこれらで大半埋まっている。
準備か完了すると早速調理に取り掛かる。食材はこの付近に生息する魔物、鬼牛と人喰いイモがメインだ。まずは包丁で手早く鬼牛を捌いていく。
革(皮)の部分は固くて食べられないので(人喰いイモはこの革が素材の武器を喰っていたけどw)肉から革を剥がす。剥がした革は干してまとめておく。
何かと特産品に使われている鬼牛の革はルナティックの城下町にある道具屋でそこそこの値段で売れるらしい。
続いて肉を胸、モモ、臓器など部位ごとに解体する。ふむ、エグイなぁ…。
しかしそんな事は已にも介さずアルトは黙々と作業を進める。
孤児だったアルトを拾って育ててくれた老夫婦は足腰が悪く子供の頃からずっと料理を含む家事全般はアルトがやっていた。
その後老夫婦が他界し、居候先が勤め先の鍛冶屋に変わってからも料理はアルトが担当だったらしくとにかく手際が良いのだ。
一刻ほどたつと美味しそうな匂いが辺りに立ち込める。その匂いに釣られて…という訳では無いが、俺はだいたいその位の時間に起床する。
「おはよーございます、ハーさん。ご飯出来てますよー」
アルトは俺をはじめの頃は覇王竜さんと読んでいたのだが、どうにも気持ち悪かったので最近は「ハーさん」と呼ばせている。
それともう一つ…
「敬語も気持ち悪いから辞めろって言ったろ。」
「いや、でも兄弟子のパーデスさんが敬語を使ってるのに僕だけがタメ口って言うのも…気が引けると言うか…」
兄弟子ってwまあ確かにアイツの事も鍛えてるからあながち間違ってはいないけれど。
「アイツは…なんて言うか下っ端ポジション?ヤラレキャラ?…的なヤツだから良いんだよ!」
「ひどいなー。でも急には難しいんで少しずつ努力してみます…努力するよ…あーやっぱまだ無理恥ずかしい!」
何故そこで顔を赤らめるのか…。
こういうやり取りをしているとつくづくこの勇者が女…女の子だと言う事を再確認してしまう。本当にやりにくいなぁ…。
アルトはパッと見は少年の様に見える。
髪はショートカットだし長年の鍛冶屋修行の為肌も少し焼けている。
健康的とも取れるが。
しかしやはりよくよく見ると所作や表情、リアクションなどは女の子のソレなのだ。
今だって顔を赤らめながら照れ隠しにプンプンしている。
「パーデスさん起こしてきますね」
そう言うとパーデスが寝ている窖の奥へ入っ行った。
関係ないけどパーデスは暗くてジメジメした所が大好きだ。
寝床もアルトが掘った穴の中だ。
キモい。
「パーデスさん!朝ですよ~!ご飯できましたよ~」
呼び声に反応は無く、数分後に諦めたのかトボトボとアルトが窖から出てきた。
「あの~ハーさん…パーデスさんいくら呼んでも反応無くて…それで仕方無く部屋の中に入ってみたんですが…」
敬語に戻っとる!!
ま、まあ仕方ないか。
しかし何やらアルトがモジモジソワソワしている様に見える。部屋の中で一体何があった?
「なんかゴチャゴチャしたゴミ?みたいな物とか、蛇の抜け殻とか、蝙蝠の羽とか、ネズミの死体とか、謎の液体とか色々あって…」
「あー、アイツ一応大魔導って種族の魔物だからなぁ。なんか儀式とかやってるのかもな。暗くてジメジメした場所が大好きな変態だし。キモいなー。」
「あ、いえ。それは魔物とかってそんな感じかなーってイメージだから別に良いのですが…」
おいー!!
…一緒にされなく無いなー。心の底から一緒にされなく無い。
しかしではなぜこんなにモジモジソワソワしているんだ??
「あの…これは報告すべきか本当に悩むのですが…」
「いやそこまで言われたら気になるから報告しろ!」
「あの…パーデスさんが寝ているベッドの脇にの壁に…巨大なハーさんの肖像画が…多分パーデスさんが自作した肖像画が飾られていて…額縁一面に薔薇の花が」
「大地の霊よ!全てを灰燼とかせ!ダイバクハツマ!!」
アルトが喋り終わる前に俺は上級土系爆発魔法ダイバクハツマでパーデスの塒である窖とその周辺を吹き飛ばした。
「ギャーース!!」
なにやら叫びながらパーデスが吹き飛んでいくのが見える。
ちっ!生きてやがったか。
地形が変わるほど吹き飛ばしたのに、最近ホントしぶとくなったな。
「は、ハーさん!いくら照れ隠しの為とはいえやり過ぎですよぉ!!!」
「ち、ちが~~う!!!」
結局 本人曰く肖像画やバラはパーデスの俺への行き過ぎた忠誠心のあらわれだったのだが…この後、パーデスを回復させてアルトに弁解させて誤解を解くのに半刻ほどかかった。
そんなこんなでいつもより半刻遅い [前の八つ刻]に朝食にやっとありつけた。
本日の朝食メニュー
◎ご飯
◎鬼牛と野草の牛汁スープ
◎野鳥の卵の目玉焼き
◎コロッケ
ご飯とは稲という野草になる実から米と言うものを生成し、炊き込むと出来る人間特有の食べ物だ。
野草や野鳥の卵はそこいらから調達しているらしい。
そしてなんといっても俺の大好物は[コロッケ]だ。
鬼牛の肉をミンチにした物に人喰いイモのすり身を混ぜ合わせ衣をまぶしまて油で揚げるのだ。
「この料理は勇者ナイトの知識の中にあったんですよ。彼が来た異世界の料理らしいです。ボヤけていて不鮮明な記憶なので詳細はわからないですけど、ナイトの家はコロッケとか揚げ物を売って生計を立てていたみたいですね。」
前にアルトがニコニコしながら説明していたのを思い出す。
そう言えば300年前アイツそんな事言ってた気がするなー。
ショウテンガイのアゲモノヤがどうとか…。
異世界の事は良くわからないし、アイツの知識だと言うのは癪だか、このコロッケという食べ物にはそんな事を忘れさせる位の美味さの爆発力がある。
サクサクの衣の中にジュワっと香ばしい味が拡がって、何個でもパクパク食べられてしまう。特に揚げたてが最高なのだが…どっかのアホのせいで冷めてしまった。
よし、後でもう一回ぶっ飛ばそう。
そしてこのご飯というやつも、いっけん味の無い食べ物だが、コロッケや目玉焼きなどのオカズと合わさる事で物凄くたまらない味わいを発揮する。
スープも有難い。合間合間、そして締めに飲むとなんと言うか食事が引き締まる感じがする。
魔物の世界にはこんな料理は無い…と言うか料理自体が無い。素材のまま食うのが主流だ。
脆弱虚弱と馬鹿にしていた人間だが、この食事文化は褒め称えたい。
異文化コミュニケーション万歳!
こうしてこの俺、覇王竜に[格闘]以外の初めての趣味が出来たのだった。
つづく…




