ハーさんとアルト
オッス!オラ覇王竜!
みんな最近どう?元気してる?
え!俺?俺は…ここ3日ほどずっと海辺に来ているぞ!……え?レジャーかって?違う違う。とある人間の動きをヒタスラ見物する簡単な作業だぜ!
…ふぅ…
人間界最後の城フルムーン城から魔王軍を倒すために勇者が旅立ったと聞いた俺は、自称右腕の大魔神官パーデスを連れて、、どんなヤツなのかを見物する為にコッソリ空を飛んで様子を見に来たのだ。
報告にあった勇者は…なんだか解らないけれどヒタスラ海辺で穴を掘っていた。穴の大きさから見るにもう1日以上掘り続けているのではないだろうか?
儀式…?か…?
まったく理解不能な行動だったので取り敢えず見守り続けたのだか、なんとそれから3日間、勇者は穴を掘り続けたのである。
ちなみに自称右腕のパーデス君は半日ほどで飽きたらしく
「フルムーン城下町で暇を潰してきます」
と、言い残して何処かに行ってしまった。よし、アイツは後でぶっ飛ばそう。
あ、ちなみに今 俺とパーデスは目立たないように人間の姿をしている。
と言うか俺は普段から通常モードは人型だ。真の姿であるドラゴンモードは 力 大きさ 体力 防御力など身体的能力は高いのだか性格がかなり荒ぶる。
わかり易く言うとスーパーサ〇ヤ人に覚醒したての〇イヤ人みたいな感じだ。
暴力的になり技術面が疎かになってしまう。それに俺の大好きな戦いの時の殴りあってる感が無くなり、、なんと言うか 格闘ゲームをやっていたはずがゴ〇ラが街を破壊するゲームにすり変わってしまうような感じがして、正直余り好きではないのだ。
まあ両形態の長所を両立させる方法は有るのだけど、それは今は置いておこう。
あ、ちなみにだけれどパーデスの元々の種族である大魔導は人間に限りなく近いフォルムなので人間の服を着ていれば違和感なく溶け込める。
しかしまあ、流石に3日間も穴掘りを観ていると流石に飽きてきた。
むしろ3日間も良く観察し続けたと自分を褒めてやりたい。
そろそろ声でも掛けてみるか、はたまた攻撃でもしてみるかと思案していると、穴から出てきた勇者がモンスターに遭遇した。
「お!大丈夫か?」
思わず口から出た独り言に俺は自分でビックリした。
なんだ?見守り過ぎて親心でも芽生えたのか?…ばかな。まあしかし、勇者の実力を計るには良い機会だな。
確かあのモンスターは人喰いイモ、、、だったっけか。
低級モンスターだし丁度良いだろい。
…と思ったのは束の間だった。戦い始めた勇者をみて、また俺の口から独り言が出る。
「弱っ!!」
あからさまに戦闘の素人だ。力もたいして強くないし速度も並。駄目だこりゃ。
案の定、勇者は次第に人喰いイモに押され始める。
しかし、まさに人喰いイモが勇者にトドメを刺そうとした時、勇者が放った火炎魔法のヒマが手元で膨れ上がり芋をコンガリと焼き上げた。
あの魔法の増幅には覚えがある。三百年前、異世界の大魔王討伐の時、一時的に手を組んで戦ったあいつの…決着を付けずに消えたあいつの技だ。
と、言うことはやはりこの勇者にはあいつの力が宿っているのか?最後の魔法以外かなりヘッポコなんだが…。
そうこうしているうちに勇者が今度は違うモンスターに絡まれ始めた。確かに鬼牛とか言う奴だ。3匹もいるし恐らく勝てないだろう…例の魔法増幅を使わない限り。
「どれ、真価が見えるかな?」
高みの見物を決め込もうとした瞬間、勇者がガクッと膝をついた。
おおおい!諦めるのはえーよ!?
良く見ると気を失いかけている。どうやら例の増幅魔法の魔力消費にヤツのMPキャパがまだ追いついてないみたいだ。
「仕方ねーな!」
ズバばばばっ!!
俺が瞬時に唱えた風魔法カゼマが3体の鬼牛を八つ裂きにした。
本来俺は人間の味方ではない。かと言って魔物に組みして世界を征服したりする事にも興味は無い。
三百年前に大魔王を討伐した時もそうだが、強いヤツと戦う事だけが俺の楽しみだし、趣味なのだ。
今回、このヘッポコ勇者を助けたのも言ってしまえば趣味の一貫であって善意とかではないので勘違いしないように。
なにしろアイツと同じ技を使うヤツだからな。数年後には…。
数分後、俺の回復魔法で傷を癒された勇者が目を覚ました。
俺の隣には街から帰ってきた大魔神官のパーデス君がボコボコに腫れた顔で立っている。
はい、ボコりました、ボコりましたとも。
俺をほったらかしにしたのもムカついたんだが、それ以上にムカつく事があったので八つ当たりした。ごめんなパーちゃん。はい、反省終了。
そんなパーちゃんの腫れ上がった顔を寝起きでイキナリ見て勇者が悲鳴をあげる。
「キャーーお化けーー!!」
その悲鳴を聞いて俺は溜息をついた。
…こいつ、やっぱり女じゃねーかよ…
未熟だが成長すればそこそこ楽しめると思ったのに…。
アイツの力を継いでいても、女じゃ殴りにくいじゃねーかよ!あーあ。
もう一つ深い溜息をつくと、こちらに気がついた勇者が話しかけてきた。
「あ、あの!アナタが助けてくれたんですよね?気を失う前にボンヤリ近づいてくるアナタが見えたんです。凄い魔法でしたよね!ありがとうございました!」
「ああ、別に。んじゃあ俺らは行くんで…」
戦えないとなるともはや煩わしい。
俺は気のない返事をして立ち去ろうとした。しかし…
「待って下さい!…僕を…僕を鍛えてくれませんか!?」
こ、コイツ…ボクっ娘だと!?
……あ、いや、それは今はどうでもいい。
コイツ何をいいだすんだ?
「いや、俺がお前を鍛える理由もメリットも無いからな。断る」
「あなた、覇王竜ですよね!」
ビックリした。
一応竜のオーラは隠しているし姿形も人間と大差無いはずなのに何故バレた?いや、それよりも…
「そんなわけないだろ。それに仮に俺が覇王竜だったとしたらお前が倒す魔王だぞ?お前フルムーンから旅立った勇者だよな?なんで勇者が魔王に鍛えてもらうって発想になるんだよ?」
勇者は少し顔を高揚させながら決心した様に話し始めた。
「初めはモヤっとした意識でしか有りませんでした、何となく覇王竜に会わなければならない…という。でも、貴方の姿を見た今ならハッキリ解ります!僕に宿っている勇者ナイトの意志は【覇王竜との約束を果たせ】と言っています。」
知らず知らずのうちに俺は口元が緩んでいた。
勇者ナイト…アイツの名前、アイツの意志が目の前で直接語りかけてきている感じだ。
「そして、その約束は【果たせなかったケンカの決着を付けること】今僕は…貴方と思いきり戦いたい!」
ついに俺の顔は笑顔になる。
果たせなかった約束、叶うはずが無かった掌からこぼれ落ちた約束が…今目の前に有る。
その俺の笑顔をみたパーデスが
「なんて邪悪な笑顔だ恐ろしい」と小声で呟いたのを俺は聞き逃さなかった。よし、またあとでボコボコにしよう。
「でも今の僕には貴方を満足させる力も経験も無い。だからお願いです、僕を一人前の勇者に…貴方と渡り合える強さに鍛え上げてください!」
「フフ…フハハハハハ!おもしれーじゃねーか!俺に、魔王にソレを乞うかよ!わかったぜ!そこまで言うなら鍛えてやる!必ず立派な魔族にしてやるぜ!」
「あ、いや…別に魔族には…なりたくないんですが…」
ちっ!ピッコロさんジョークも解らないのかよ。
まあ何はともあれ こうしてこの俺覇王竜の、自分を倒す為の勇者育成という複雑な日々が幕を開けたのである。
つづく…




