芋と牛
地下世界歴ミッドナイトの海は基本的に荒れている。荒れ狂っている。多少の強弱は有れども基本的に凪になる事は無い。
なので海を渡るとなると相当に頑強な船が必要だ。
しかし魔王軍の侵攻により主要な城や街が破壊されてしまった今、造船出来るような施設は残されていなかった。
地下世界歴999年青の月、勇者に祭り上げられフルムーン城を旅立って5日。
僕、勇者アルトはまだフルムーン城から10キロほどしか離れていなかった。
城下町から一番近い海辺でかれこれ4日間汗水を流して労働に励んでいた。
手には旅立ちに際しフルムーン王ナイト10世からもらった鋼のスコップが握られている。
覇王竜がいる魔王城を目指す為にはどうしても荒れ狂うミッドナイトの海を渡らなければならない。
しかし海を渡る船を作る手段が今の人間には無い。
ならば!と僕が考えた手段が【海を埋め立てて魔王城まで渡ろう作戦】だった。
いわばドラ○エビ○ダーズの要領だ。
…この作戦は初日に瓦解した。土を海に放り込んでも放り込んでも荒波に流されて雲散霧散してしまうのだ。
絶望しかかったが、スコップを見つめているうちに新たなアイディアが浮かんできた。
海より下まで穴を掘ってそのトンネルを魔王城の島まで繋げればいいんじゃないか?
意気揚々と掘っていたのだがここに来てこの作戦も支障をきたし始めてきた。城でもらった路銀で買い込んだ食料が底をつき始めたのである。
「お腹すいたなー」
一旦城下町まで戻って食料を買い込むべきか、それともそこいらで食べられそうな木の実でも探すか。
思案しながら、掘り進めた穴から地上に出たとき、そいつとバッチリ目が合った。
フルムーン城の周りには魔王軍の侵攻が始まる前から、元からいた天然物の魔物が二種類ほど住み着いていた。
一種類は鬼牛といい、とても凶暴な角の生えた牛型のモンスターだ。
鬼牛が現れると討伐部隊が編成される。戦士 三、四人で狩るのだ。
ちなみに鬼牛の革は鎧や盾の素材になる。
フルムーン城を旅立つ時に鋼のスコップと一緒にもらった装備である革の鎧、革の盾は鬼牛の素材で作られたものだ。
鬼牛は肉食材としても優秀で部位によってA5~E1までランク分けされている。
中でもA5鬼牛肉は一部のレア鬼牛からのみ取れるレア食材で庶民の僕には手が届かない品だ。
話が逸れたが、今僕の目の前にいるのはもう一種類の方の天然物モンスター【人喰いイモ】だ。
牛鬼程の強さは無いが家畜などを食い荒らす植物モンスターで、形はデカイジャガイモに目と口と手足がついた感じだ。
「も、モンスター!?」
運が良かったのか、はたまた勇者ナイト様のご加護か…実は城から旅立って5日、僕は一匹の魔物とも出会ってなかった。
そして何を隠そう自分1人でモンスターと対峙するのも人生初体験だったりする。
「と、とにかく武器を…」
おぼつかい動きで荷物の入った背負いカバンから鎧や盾と一緒にもらった剣を取り出した。
…剣を…取り出した?剣?これ剣か??
フルムーン王ナイト10世から旅立ちにさいし頂いたものをここで改めてご紹介しよう。
【アイテム】
100ネカオ(一万円位)
穴だらけの世界地図
回復薬3個
背負いカバン
鋼のスコップ
【装備】
革の鎧
革の盾
革の剣
…以上である。
余談ではあるがフルムーン王は代々、勇者ナイトの名前を継承しているが別に血族とかではない。
世界を救って貰った感謝と尊敬の念でナイトを名乗るのが慣わしらしい。
今の王はナイト10世。
僕はその10世から貰った100ネカオを使って食料 ナベ 魔法のランプ(火を起こすのに使う)を買って旅立ったわけだが、注目すべきは装備欄の一番下…革の剣である。
鬼牛の角に鬼牛の革を巻き付けたフルムーンの城下町の名産品、お土産などにも喜ばれます。
…うん、これ剣じゃ無いよね。どちらかと言うと木刀?いやこんぼう?
確かに他国との国交が途絶え鉱石全般が手に入りずらいですが!そのせいで僕の鍛冶屋もやること無くて師匠も夜逃げしましたが!勇者旅立たせるんだから攻めて鉄の剣くれよ!兵士の持ってたヤツよこせよ!本当何なんだあのデッカイ王様は!
しかし現実は待ってはくれない。
人喰いイモは僕にジリジリ寄ってきて五メートル程の位置から一気に急加速して飛びかかってきた。
僕はアタフタしながら例の革の剣、、革の棒を振りかぶりフルスイングをしたが見事に空を切る。
避けられたと言うよりは人喰いイモの身長が低すぎた為、上をすり抜けてしまった。
そのひょうしに懐に潜り込まれてしまう。
人喰いイモは膝?を屈めると思い切りジャンプして僕の体めがけて体当たりをしてきた。不意をつかれた為、盾での防御が間に合わずまともに喰らい吹き飛ばされる。
二~三回転して横たわっている僕の上を目掛けて人喰いイモがジャンプして来たのを寸での所で転がって避けて立ち上がり、再び革の棒を構える。
「振っても当たらないなら!」
僕は人喰いイモに向かって走り寄り思い切り革の棒を突き出した。
見事顔面?にヒットしたかと思いきや…なんと革の棒がイモのクチに噛み付かれて受け止められている。そして…
モシャモシャモシャモシャ!
なんと革の棒が噛み砕かれて半分近く食べられてしまった。
「うそー!?!?」
あれ食べられるの!?てゆうか、そんなの有り!?
焦る僕を見てイモがニヤニヤしながら近づいてくる。
あ、ヤバイ食べられてそう…。
革の棒を失った僕に残された手段は昔から苦手だった魔法だけだ。
鍛冶屋になるなら鉄を鍛えるのに必要だからと親方に昔仕込まれた唯一の魔法、最下級炎系魔法ヒマ(火魔)で果たしてコイツが倒せるのかと言う不安が過ぎるが他に手段がないのだからトにもカクにもやるしかない。
僕は右手を前に出し魔力を集中する。熱をイメージし、そのイメージを次第に炎へと変えていく。
しかし何故か途中でそのイメージが僕の意志とは別のイメージに切り替わる。
なんだこれ?
食材に粉を眩してソレをテカテカ光る液体…アブラ…そう、油に入れて揚げている光景が浮かぶ。
ナニコレーー!?!?
イメージは意味不明にブレたけれどどうやら魔力は溜まったみたいなので僕は呪文を叫んだ。
「炎よ、敵を焼きつくせ!ヒマ!!」
叫んだ瞬間、手から火が出る前に液体が溢れる感覚があり、その液体が火と交わりあって数倍の炎の塊になって人喰いイモを焼き尽くした。
こんがり焼けて美味しそう。
それはさておき…
「…何?今の?」
ヒマどころかゲキヒマ…もしかすると最上級灼熱魔法ゲキヒマデス並の威力だった。
胸の紋章が疼く。
これが勇者の意思、力なのだろうか?安堵とともにダメージと魔力の使い過ぎで僕はその場で膝を崩して座り込んだ。
「もう動けない…いま他の魔物が来たらヤバイなぁ…」
言った後で後悔した。
セリフで完全にフラグを建ててしまっていた。顔を上げるとそこには鬼牛が3匹、どうやら人喰いイモとの戦いの音を聞き付けて来たのだろう。
コレは…もうどうにもならない。
グルルアアアアアア!!
雄叫びを挙げて突進してくる鬼牛、僕は思わず目をつぶる。もう駄目だ…。
しかし鬼牛は僕の居る位置までたどり着くことはなかった。
少し離れた場所から放たれた風系魔法に寄ってバラバラに引き裂かれ一瞬で絶命したのだ。
薄れゆく意識の中で見たのは魔法を放った黒マントの男が怒った様な呆れたような顔をしながら近づいてくる姿だった。
初めて見るはずのその姿を、僕は何故か懐かしいと感じていた。
つづく…




