覇王竜と漆黒形態
アルトの全開攻撃が見事に大魔王に炸裂した、果たして決着はついたのか?
凄まじいエネルギー同士がぶつかり合った余韻でまだ大気が震えている。
「やった……勝った……アルト様が大魔王に押し勝った!」
歓声を上げる赤竜。
「いやー真の功労者は私でしょう?」
勝ちほこるパーデス。
うーむ、まあまあ役には……たった……ような?
しかし、当のアルトからは喜びの声はなく、ただただ虚空を睨みつけている。
「どうしたんですかアルトさん怖い顔して〜?」
「そうですよ、大魔王を倒すなんて大したものですよ?」
しかし、アルトは首を横にぶんぶん振って答えた。
「お二人とも何か思い違いをしていますが、恐らく今の一撃では……大魔神ギデゴガは倒せていませんよ。」
それを聞き戦慄するパーデスと赤竜。
その時、
「ふふふ……先程の技といい、瞬時に余の生き死にを見極める眼力といい、流石は勇者……といった所かな。」
「な……!?」
消し飛んだと思われた辺りのモヤが晴れ、視界がハッキリした空間からギデゴガが悠然と現れた。
「馬鹿な!?あの攻撃を喰らって無事……だと?」
思わず後ずさる赤竜。
「無事では無い!防ぐに大きく体力と魔力を消費したわ!……しかし、そこの勇者殿に比べれば、大した問題では無いな。」
全ての力を使い果たしたアルトは神化も解けてノーマルの状態に戻ってしまっている。
片膝をつき、息も絶え絶えでもはや戦える状態では無い。
「では、改めて地獄のパーティーを再開するとしよう。貴様らの腸を余すところなく喰らい尽くしてくれようぞ!」
腸大好きだなー。
震え上がるパーデスと赤竜。
しかし、対称的にアルトはヤケに落ち着いていた。
「最後に勇者アルトよ、貴様には賞賛の言葉を贈ろう。本当に惜しかったな。貴様の技が微妙に軌道を逸らさず、まっすぐに余を捉えていたならば……余もこの程度のダメージではすまなかったであろう。」
それを聴いて……アルトはニヤリと微笑んだ。
なるほど、ギデゴガのヤツはまだ気が付いていないらしい。
「いいえ違いますよ大魔王ギデゴガ、僕は覇王竜撃波で貴方を狙ったわけじゃ無い。貴方はたまたま僕が狙ったモノの近くに居たからついでに巻き込まれただけです。」
「ん??」
首を傾げる大魔王。
負け惜しみにしては核心めいているアルトの言葉に状況が飲み込めていない様だ。
そう、アルトはギデゴガを狙ってはいない。
あいつは初めに俺が出したオーダーを忠実に実行したのだ。
「僕の狙いは……貴方の剣です。」
「なん……だと?」
そう言うとギデゴガは神魔両断波を放つ為に腰鞘に収めていたミラクルブラックブレイドに目をやった。
次の瞬間、ミラクルブラックブレード……もともとは勇者ナイトの剣、太陽神の剣であったそれは、音も無く灰塵となり消え失せた。
「たしかに、僕は力を使い果たしてもう一歩も動けません……が、その剣が無くなったのならば、もう僕の出る幕じゃ無いんですよ。なにしろ……」
「なにしろ、ココからは俺の喧嘩だからな!」
かぶせる様に俺は言葉を投げつけた。
ミラクルブラックブレードが消滅したことにより奪われていた俺の全ての力が……魔力が……そして気力が蘇ったのだ。
「あとはお願いしますね、ハーさん。」
「おう!任せとけ!!」
今度は初めにナメプなんかしない。
全力で、一瞬でケリをつけてやる。
俺は全身の気と魔力を一気に解き放った。
俺の頭上に伝説の神龍のオーラが浮かび上がる。
そしてその全てを人間の身体のサイズまで凝縮した。
超超高圧のエネルギーの圧縮を受け入れた俺の体は、赤髪赤眼から黒髪黒毛へと変色し、頭には龍の角が生え、身体は真っ黒いイナズマをスパークさせた。
これぞ、まだアルトには見せたことの無い俺の奥の手、竜族の変身、ドラゴンモードの巨体とエネルギーを人間体のサイズまで凝縮させる超変身、漆黒形態である。
「なるほど、凄まじいパワーだ。だが、それがどうした!?」
「確かに、覇王竜様の漆黒形態は凄まじい……それはこの赤竜、自らの身をもって経験しているからよく知っている。しかし……しかし確かにアルト様の神化とさほど変わるかと言われると……」
おいおい赤竜君、いったいいつの時代の話をしているんだね?
俺がレッドドラゴンの里に喧嘩を売った時から、何年経ったと思ってるんだ。
「んじゃまあ、ご所望通り見せてやるよ。漆黒形態の先の世界をな。」
そういうと俺は両腕を前でクロスさせ魔力と気力を集中し混ぜ合わせる。
そして腕を広げると同時に一気に全身の龍の力と一緒に解き放った。
カッッ!!!
闇の光がその場にいる全員の目をくらませる。
「うおっ!?」
一瞬視界を奪われた一同が次に俺の姿を視認した時、既に俺の変貌は遂げられていた。
「漆黒形態・極」
黒い髪はよりいっそう逆立ち、角は無くなり、代わりに額には大魔王と同じく第三の眼が開眼している。
オーラも黒から漆黒……さらに深い黒へと染まりスパークが収まり穏やかな波のような形へと変化した。
そしてなにより……
「馬鹿な……?こやつの強さが……まったく解らない……。圧も驚異も感じない……どういう事だ!?」
「まさか再び力を失われたのですか!?」
赤竜とパーデスが慌てふためく。
「安心しろ、ギデゴガが俺の力を認識出来ないのは、今の俺の強さがアイツのはるか先の次元にたどり着いちまったからだ。」
それを聞いてギデゴガの肩が震える。
「ま、負け惜しみを言うな!さっきまで力を抜かれて這いつくばっていたクセにっ!」
「信じられないなら……試してみろよ?」
「言われるまでもないわっ!今すぐ貴様のハラワッッッ!?グハッ……!」
ギデゴガの台詞が終わるより早く、俺の肘の一撃が溝落ちに入る。
「ば、馬鹿な……!見えない……だと?」
「わりーな、お前が余り隙だらけだったもんでよっ!!」
俺はそのままの流れでギデゴガを上空に蹴り上げた。
「グオッ!?……く、くそっ!もうこうなったらこんな大陸どうなろうが構うものかっ!大地諸共余の神魔両断波で消し飛ばしてくれるわっ!!」
「ま、まずい!あの位置からだと本当にこの大陸……下手すると地下世界ミッドナイト全てが吹き飛びますよ!?」
「後悔してももう遅いわっ!!くたばれ覇王竜よ!!神魔両断っ……」
「くたばるのはお前だギデゴガ!覇王竜撃波ッッッ!!!!」
「な!?ば、馬鹿なっ!!そんな馬鹿なあああっッッッ!?!?」
ドギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャギャッッッッッッッッッーン!!!!!
問答無用で放たれた俺の最大奥義は、出かかっていた大魔王の奥義諸共飲み込み、飲み干し、今度こそ本当に空の彼方へ消し去ったのだった。
つづく。
遂に完全決着!!次回、最終回!




