太陽神と黒曜神
な、なんと…復活した大魔王はたゆんたゆんボディーの娘だった。
身体全体の大きさは人の二倍程度だろうか。
巨大な両翼の羽を携え頭部には黒々とした三本の角が禍々しく連なっている。
しかし基本ベースラインは魔物よりも人寄りである。
燕尾服のような衣装を纏い杖を携えている。
主な攻撃手段は上位魔法だ。
特に火炎系が得意な様子で頻繁に使ってきたのをおぼえている。
しかしその戦闘スタイルは勇者ナイトの烈火の鎧や真月の盾との相性が非常に悪く、五分も経たない内に真の姿へと変貌をとげた。
先の姿とは打って変わって人間的な部分は皆無になり、鬼や悪魔に近いフォルムだ。
身体自体は十倍近く膨れ上がり、腕は六本に増え、長い尻尾、更に巨大になった羽、鋭い牙、額の真っ赤な第三の瞳はまさに魔王の名に相応しい威圧感と言える。
戦いの最中は正しく無我夢中だった。
俺の闘技、ソラの魔法剣、ルナティックの神力、そしてナイトの勇者の力を其々が全力を尽くしてぶつけた。
そして最終的にナイトの剣=太陽神の剣に封印する事に成功したのだった。
以上が300年前に戦った大魔王ギデゴガの印象である。
「フハハハハ!余はこの日を待っておったぞ!にっくき勇者ナイトと共に余を封印したお前に復讐する日をなっ!!」
たゆんたゆんの娘は高らかに笑いながらこちらを見下ろし……たかったのだろうが、身長が足りず結局見上げている。
「貴様の魔王軍の配下の中には300年前の我が大魔王軍に憧れているものが沢山おったからな。そそのかして人間どもの魂と肉体を余の封印されていた神殿に集めさせておったのだ!大量の生贄のおかげでこうして復活できたぞ!」
なるほど、生贄にするために囚われていたからルナティックの神の奇跡で蘇らなかったのか。だとすれば、大魔王を倒せば束縛が解けてきっちり成仏する。成仏すれば神の奇跡で蘇らせる事が可能になるな。
しかし……
「しかし……なんでまたそんなたゆんたゆんな娘の姿してるんだ?」
「た、たゆ!?」
あ、声に出てた。
自称大魔王が慌てふためき赤面する。
いや、そーゆーのはアルトで間に合ってるから。
「ば、馬鹿め!!この姿が余の真の姿、いわば最終形態だ!!」
あれ?
「お前らのせいだからな!」
ん?
「300年前の戦いの時、いよいよ余が本気を出そうとしていたタイミングで……お前らが勝手に盛り上がり始めてクライマックス感タップリの雰囲気で余を封印しようとし始めるから……なんか、空気的にもう一段階変身を残している事が言い出しづらくなってだな……空気を読んで思わず封印されてしまったのだ!!」
そういった大魔王ギデゴガの目はめっちゃ潤んでいた。
なんつーか、哀れな大魔王だな。
目頭を拭いギデゴガが構えを取る。
「だが!屈辱と恥辱の日々は今日終わりを告げる!貴様らの腸を喰らい尽くしてやるわっ!!」
…なんだろう。
滅多に食べられない蟹の蟹味噌にシャブリ付いている貧乏な家の娘の絵面が浮かぶ。
赤竜も同じ気持ちなのか今ひとつ気合が入らない表情で大魔王を眺めている。
しかし、次の瞬間その表情は一変した。
「はあっ!!」
大魔王ギデゴガの周りに信じられないほど禍々しいオーラが立ち込める。
「な、なんだと……?」
ブ◯ーチのキャラ見たいなセリフを吐きながら後ずさる赤竜。
なるほど、確かに最終形態と言うだけは有る。
目算だが300年前戦った馬鹿でかいギデゴガの数倍の力と魔力を感じる。
「フハハハハ!どうだ竜族の男よ!今は覇王竜、だったか!?これが余の真の力だ!」
そう言うと大魔王ギデゴガはさらに魔力を増幅させた。
「確かに!300年前より遥かに強いな。だが、俺だってあの時とは違うんだぜ?」
俺も一歩前に踏み出して構えを取る。
「久々に全力を出せそうで嬉しい……ぜ!」
俺の身体から真っ赤な魔力と気が噴き出す。
暫しの静寂。
次の瞬間、俺は地面を蹴りギデゴガに突撃した。
「オラオラオラっ!」
俺が繰り出した数百発の拳をギデゴガは左手一本で受け流す。
続けざまに放った下段回し蹴りをジャンプして交わすと、そのままジャンプして玉座の上に着地した。
「なら……これでも喰らいやがれっ!」
右手に魔力を、左手に気を集中させると、俺はその力を前方で混ぜ合わせる。
「ちょ!?覇王竜様!?ここでその技は……」
赤竜が慌てて制止しようとしたが……もう遅い。
「覇王竜撃波!!」
前方に容赦無く放たれた混沌の波動は玉座もろともギデゴガを吹き飛ばす。
ドドドドッガガガーーーッン!!!
破壊の衝撃で立ち込めた煙が晴れると、魔王ルームどころか魔王城が半分以上消し飛んでいた。
「あーーーっ!?」
赤竜が悲鳴をあげる。
「ナンテコッター!魔王城がっ!!」
「まあまあ、もうどうせ魔王軍解体したんだし、城いらないじゃん?」
「明日から何処で寝泊まりするんですか!?」
「あー……。ま、まあ最近は野宿にも慣れてきたし……な?」
「な?じゃないわボケがっ!!今は余の城じゃ!!」
なんだと?
俺と赤竜が目を見開く。
覇王竜撃波を食らったはずのギデゴガが瓦礫の中からヒョッコリ表れた。
「さっきの水を流し込む算段と言い今のTPOを考えない攻撃と言い、お前ら本当に馬鹿なの!?蛮族なの!?脳筋も程々にいたせよ!?」
服をパンパン叩きながら全力でツッコミを入れてくる大魔王様に若干チグハグさを感じながらも、俺は正直驚嘆していた。
俺の覇王竜撃波を喰らって無事だったのは今までアルトだけだ。まあ服は無事じゃなかったが……。
しかも今回はアルトの時とは違い手加減抜きの全力だ。
なのに傷一つ無い。
服も破けてないw
「ったく、お前とはもう少し広いところで戦った方がよいな。」
言うや否やギデゴガの姿が消える。
速いっ!
俺の後ろに回り込んだギデゴガは俺の後頭部をムンズと掴むと地面に叩きつけそのまま低空飛行して引きずるとボウリングのように前方に投げ飛ばした。
地面を削りながら数百メートル吹き飛ぶ俺。
「あいたたた……なんて馬鹿力だ。」
城の外の毒沼地をも超え、山岳地帯の手前辺りで止まった俺の眼の前に、一瞬でギデゴガが追いついてくる。
「ほれっ!」
俺は腹部に掌底打ちを喰らい、さらに後ろの岩山まで吹っ飛ばされめり込んだ。
「ぐお?」
「なかなかタフだな覇王竜よ。300年前のお前だったら今ので死んでたよな?」
「まあ、俺もアレからやる事が無くてな。暇潰しでめちゃくちゃ修行したからなー。」
「ところで……お前隠してるだろ?」
ギデゴガがニヤリと笑う。
ありゃーバレてる。
「お前、世に殴り負けても技が効かなくても吹き飛ばされても表情に余裕があるからな。」
まーバレたからには仕方ない。
俺も本気モードで……と言おうとしたその時
「だがしかし、余はバトルマニアでは無いからな。お前の真の力もわざわざ見たいとは思わん。」
あれ?
「そもそも300年前、お前らも余の真の姿を見ないで封印してくれたしな。意趣返しだ。受けてるが良い。」
そう言うとギデゴガは見覚えのある一振りの剣を腰後ろから取り出した。
あの剣は……確か
「かの者の力を封じよ!太陽神の剣よ!」
そう、あれは300年前の戦いで大魔王ギデゴガを封印した勇者ナイトの……太陽神の剣だ。
「うおっ!?」
俺の身体からみるみる魔力と気力が抜けていく。
「300年間、余を封じていたこの剣だが……さすがに長く封じ過ぎたな。300年分の余の魔力と封印を解除した時の衝撃でいまや魔剣になりさがったのだ。」
確かに、刀身が真っ黒に染まり今や神力を感じ無い。
「太陽神の剣、改め……黒曜神の険だ。」
あ、やばい。
そうこうしているうちに完全に魔力も気力も吸い取られてしまった。
「さて、このまま肉体も封じてやっても良いのだが、、、やはりこの手でトドメをさしたいしなぁ。空っぽの身体では反撃もままならないだろうが……余に無礼を働いた罰だ。死ぬがよい!」
そう言うとギデゴガは黒曜神の剣を俺に向かって振り下ろす。
あ、こりゃ死んだわ。
アルトにデカイ口叩いといて情けないな。
「アルト、ごめんな」
あいつに謝るのはこれで二度目だな。
振り下ろされた剣が俺に突き立てられる刹那……
カキーーーーーン!!!
俺の眼前で金属と金属とがぶつかり合う音がした。
つづく。




