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覇王竜は暇を潰す  作者: コミネカズキ
22/30

予感と急転

1週間アルトを預かって神力を与えると言った女神ルナティックは、そのうち6日間俺達を放置した。

正確に言うと瞑想して待て……との事だったが、食べ物が何一つ無いこの神殿でどうしろと言うのだ!!

しかし1日経つ頃に異変に気付く。


腹が減らないのだ。


どうやらここは飲み食いしなくても大丈夫なような空間らしい。

とはいえ、それでは点滴みたいで味気が無い。

俺とアルトは海底神殿付近の魚を捕り料理して食べた。

時には焼き、時には煮、あるいは生のまま食した。

生で食べるのは……またもやアルトの中にある勇者ナイトの世界の知識だが【刺身】と言う食べ方らしい。


「本当は醤油とワサビと言うものを付けて食べるみたいなんですが、この世界には無いので…海水から生成した塩で代用です。」


「ふむ、ナイトのヤツがいた世界の食べ物は興味深い物が多いな〜。いつか行ってみたいものだな。」


「そうですね〜、いつか2人で行けたらいいですね♬」


そう言ってこちらを見たアルトの表情がみるみる赤く染まる。


「あ、いや!その……冷めないうちにた、食べましょうね!!」


照れ隠しのつもりかわからんが、この料理……初めから冷めてるよアルトさん。


若干の微妙な空気を出しつつ食事を続けていると、ふいにルナティックの寝室?が開いた。


「おまたせ勇者アルトとそのオマケ!」


「誰がオマケだ!!」


「6日かけてやっと完成したしたよ、【悠久の空間】が!」


悠久の空間……ルナティックの説明によると時間の流れが極端に膨張した異空間であり、その中では現実世界での一日で一年の体感時間を過ごせるらしいのだ。


なんか何処かで聞いた事がある……。

いや間違いない。

ドラ◯ンボー◯の精◯と時の部屋だ……。

大丈夫か??


「と、言うわけで私とアルトはこの悠久の空間で一年間…まあ実際は1日ですが、の修行に入ります。覇竜、貴方はひとまず先に地上に戻りなさい。」


「あ?何で俺だけ先に帰んなきゃならねーんだよ?」


「実は先ほど神の奇跡のリキャストが完了しまして……」


リキャスト言うなや!ありがたみ無いわ


「で、早速魔王軍に殺された人々を蘇らせようとしたのですが……キャンセルされました。」


「なぬ?」


「どうやら殺された人々の魂を何者かが肉体ごと何処かに封じ込めているみたいなのです。」


「ちょっと待て!神の奇跡にキャンセルをかけるほどの封印を使えるやつなんて……」


「ええ、この世界には存在しません。ですが過去に一人だけ……それが可能だった者が居ました。」


嫌な予感しかしない。


「かつて私と貴方、勇者ナイトと天空人ソラの四人で討伐した大魔王ギデゴガ……」


「いやいやいや!あいつは俺たちでボコッた後にナイトの太陽神の剣に封じ込めたはずだろ!?」


「その太陽神の剣の気配が、魔封じの大聖堂から消えているのです!」


魔封じの大聖堂とは地下世界ミッドナイトの南西の海に浮かぶ絶海の孤島にある聖堂だ。

かつて大魔王ギデゴガを太陽神の剣に封じた俺たちは誰の手にも触れられない場所に隠したのだ。


「とにかく!覇竜、貴方は一刻も早く地上へ戻り詳細を探ってください!昨日辺りから嫌な予感が止まらないのです。」


こいつとアルトを放置するのも気に食わないが……ヤツが蘇るかもしれないとなると……


「ちっ……!解ったよ!その代わりアルトの事は本当に頼むぞ!」


「任せてください!修行が終わり次第、責任を持って私が届けます!」


アルトが不安そうにこちらを見つめてくる。


「安心しろ!アルトの出番は無えよ!はっきり言って今の俺は300年前の四人全員足した戦力より強えーぜ!大魔王のヤロー、今回は封印なんてヌルい事はせず完全に消し去ってやる」


「僕もできる限り早く合流します!ハーさん!絶対に無理しないで下さいね!」


弟子に心配されてちゃ世話ねーぜ。

是が非でもアルトが来る前にぶっ倒してしまおう。

俺は早速踵を返し海底神殿を後にした。




ザババババババーンッ!!!


海を真っ二つに切り裂いて海底から浮上し、陸地にもどった俺を待っていたのは……真っ青な顔で慌てふためくパーデスと赤竜だった。



「た、大変です覇王竜様っ!!魔王城が……謎の軍勢に乗っ取られました!!」


まさか!?


「お二人が神殿に入っている間に暇なんで私と赤竜さんで一時的に帰省しようとしたんですけど、何やら城の様子がおかしくて……。偵察をしてみるとハーさんの魔王ルームの王座に見たことない魔物がふんぞり返ってまして……。いや、私は一言文句を言ってやろうとしたんですけどね?何しろすごい数の真っ黒い魔物が警護していてなかなか近づけないんですよ!」


黒い魔物……。


「パーちゃん……その黒い魔物に角は生えていたか?何本生えていた?」


「えーと、確か額のあたりから後頭部にかけて3本……縦並びに生えてました。」


黒い身体に三本の角……間違いない…。


「そいつらは魔王の僕だ。……魔王城を占拠したのは、300年前の敵……大魔王ギデゴガだ」


つづく。

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