覇王竜と魔王軍
季節は巡る。
美しく咲き誇っていた花々も枯れ、木枯らしが吹きすさぶ白の月が過ぎ、再び彼女と出会った季節、青の月がやってこようとしている。
地下世界ミッドナイト歴1000年。
ミレニアムイヤーを迎えるこの年、俺は魔王としての存在意義を無くしかけていた。
……と、いうか、、、自分でそう仕向けたのだから思惑通りなのだが。
数ヶ月前、勇者アルトが自分の刃の付いていない剣を見て言った言葉、
「これで良いんですよ。僕はハーさんを真っ二つにしたいわけでは無いので。喧嘩するにはこれくらいでちょうど良いんです♬」
この言葉で俺はある事を決心した。
魔王軍、もういらなくね?
俺と喧嘩をするのに刃は要らないと言ったアルト。
それと同様にアルトと喧嘩をするのに魔王軍は必要ない。
むしろきちっとアイツと向き合って喧嘩をするならケジメを付けるべきだ。
たとえそれが暇を潰す中、自分の意思とは関係無く出来てしまった副産物だったとしても……だ。
「と、言うわけで本日をもって魔王軍は解体します。」
一時帰省した魔王城で俺が宣言した時、一番オーバーリアクションしたのはコイツだった。
「ええええええええええええっ!?マジすかハーさん!?聞いてないんすけど!?世界征服の野望はどうするんですか!……え?え!?てか私、明日から無職ですか!!?」
うるせ〜〜
「世界征服はもうほぼしただろーが。前にも言ったけどな、世界征服はした後の方がメンドクセーんだよ。人間達を管理したり法律を整えたり。誰がやるの?お前がやるの?俺はやらねーぞ!魔物だけの世界みたいに「貴様の腸を引きずり出して喰らってくれるわ〜」とか言いながら暴れてりゃ良いって訳じゃねーんだぞ?」
「な、ならば人間を絶滅させ魔物だけの世界にすれば解決では?」
「あ?」
俺が鋭い眼光でパーデスを睨みつける。
「ひぃ!」
「その人間の中にアルトもいるんだぞ?アルトも殺せってか?」
「……た、確かに……!」
やばい、マジギレしそうになったわ。
殺意をモロに浴びてパーデスが失禁してる。
まあコイツに悪意がないのは知ってるからフォローだけはしといてやるかな。
「まあまあパーちゃんさ〜、お前いづれは大魔王になるのが夢なんだろ?その時俺が魔王やってたら、俺に勝たないと大魔王になれないんだぜ?……勝てるの?」
「か、勝てる気が全くしません」
即答するパーデス。
「だよね〜。だったら世界征服もほぼ終わって人間たちに魔物の偉大さ?みたいなものも伝わった所で現魔王軍は解散で良くね??」
それまで震えていたパーデスはハッとなった顔をしてイキナリこちらを熱い眼差しで見つめてきた。
なんだよ?気持ち悪い。
「な、何と言う考えの深さ!しかもこのパーデスにそんな期待をして下さっていたとは!さすがハーさん!いや、覇王竜様!」
いやいやいや、何の期待もしてないけど?
「解りました!そこまで仰るならば、現魔王軍は解散、新たな大魔王パーデスが誕生するのを待つ方向で行きましょう!そうしましょう!」
おしっこチビリながら言われてもなー。
まあ良いか。
「つーことで、今後一切人間界への手出しは禁止するぜ。飯が食いたきゃ野生動物でも喰え、人間より肉多いだろ?あと暴れたけりゃ魔物同士でやれよ。」
俺の言葉にザワつく魔物達。
中には「知ったことか」「勝手に殺しまくってやるぜ」「俺は人間どもの悲鳴が聞きたいんだ」といった声も聞こえてくる。
こいつらマジで思考回路がDQNだな。
「ちなみにだが……もし人間に手ぇ出したら、それは俺、覇王竜への敵意とみなし直々にぶち殺してやるから……そのつもりでな。」
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべる俺。
演技派!俺ってば演技派!!
魔物達の空気が凍りつく。
「ま、あんまり一方的なのもアレだから今からお前らにもワンチャンやるよ。この決定が気に入らない奴はかかって来い!まとめて来ても良いからな!俺をこの場で殺せばそいつが魔王だぜ!?」
初めは屈強なオーガ族
続いて狂人族が数十人同時に
さらに岩石族、悪魔族、獣人族、
最後に竜族が各部族ごとに数匹づつ挑戦して来たが、皆ものの数秒で倒された。
俺の力を普段から見て熟知しているパーデスと赤竜はヤレヤレといった表情でその様子を見物している。
俺の足ものに倒れる魔物の数が50を越える頃、不満の声を上げるものは一切居なくなった。
「では、本日をもって魔王は解散とする!お疲れ!!」
こうして地下世界歴1000年青の月、覇王竜率いる魔王軍は終焉を迎えたのだった。
つづく




