製作過程と完成品
長い……長い……本当に長い十数刻だった。
龍神族の王子として城の中だけで過ごしていた十数年よりも……。
前勇者と共に異次元の大魔王を討伐し、ヤツがいなくなったせいで喧嘩相手が居なくなり暇を持て余し続けた300年よりも…。
アルトが試練の為、宝石野郎の中に消えてしまったこの時間は、俺にとっては長く感じられていた。
何でだ??
……いや、もう答えはとっくに俺の心で定まっている。
しかしそれはアルトと俺の最終決戦が終わった後で告げる予定の想いだ。
だから……
「とっとと帰って来い。」
俺がそう呟いた刹那、目の前の次元が歪み中から人影が現れた。
「お!意外と時間かかったじゃねーかよアル……ト……?」
しかし現れたのは薄汚いローブに身を包み、悪趣味な装飾のアクセサリーを指やら首やら頭やらに飾り付けた男。
俺的ガッカリオブ・ザ・イヤー受賞男のパーちゃん事パーデス君であった。
「ま〜ぎ〜ら〜わ〜しいわ〜〜〜!!」
「え?え!?ええ〜〜!?うそ〜ん!!ぎゃあああああ〜〜〜ス!!」
思わず解き放った俺の爆発系魔法、【ダイバクハツマ】でパーちゃんが天井まで吹き飛んだ。
「おやおや覇竜、八つ当たりはいけませんね〜」
「うるせい!糞宝石野郎っ!【チユマ】!」
俺は片手間で黒焦げのパーデスに回復魔法をかけながら悪態をついた。
結局、試練開始から一刻後にパーデス。
二刻後に赤竜が帰還した。
アルトが無事帰還したのは試練開始から実に13刻半後だった。
「さてさて、三名とも何とか無事に試練をクリアしたので早速メタモル鉱石の武器を授けます。ちなみにどんな形状、属性、効果が付くかは私にも解りません。」
「え?宝石さん貴方神様ですよね?神様でも解らないんですか?」
と、パーデス。
「はい、メタモル鉱石の武器は使用する本人の意識や価値観、心とリンクして生成されます。先代勇者の心からは最強無比の太陽神の剣が産まれましたが、それは彼の心の強さがなせた技。」
あいつ、そんなに大層なヤツだったかな〜?変な奴ではあったが……。
「最強の武器になるのか、最弱の武器になってしまうのかも解りません。ぶっちゃけ今日作るのと明日作るのでも仕様が変わる可能性が有るのです。」
神様ぶっちゃけとか言っちゃったけど?
「ですので、つよい意思で試練を乗り越えた後、正に今作るのが最良なのですよ。」
「成る程、理に適っている。」
と、今度は赤竜。
そう言えばコイツの試練はどんな内容だったんだろう?パーデスより時間がかかるとは思わなかった。
ちなみに余談ではあるが、パーデスの試練内容は【富と権力と名声を振り払う事】だったらしい。
「いやー溢れる金銀財宝や美女を振り切るのは大変でしたわ〜!自分のメンタルパナいですわ〜!自画自讃ですわ〜!」
とか言ってたアイツに軽くイラついてぶっ飛ばしたのは言うまでもない。
「では早速始めますよ。まずはパーデスさん。両手を前に差し出しなさい。」
「あ、はい。」
パーデスが両手を目の前に差し出すと、天井や壁や床のメタモル鉱石から両手のひらに粒子の粒が集約して来る。
「形が生成されるまで少しかかりますので、残りのお二方も始めましょうか。」
まずは赤竜、続いてアルトが同じ所作を繰り返す。
それぞれの両手のひらに粒子が集まり始める。
暫くの後パーデスの武器が、続いて赤竜の武器が完成した。
「ふむふむ成る程。パーデスさんの武器は……メチャクチャ悪趣味な形ですが、、、それは恐らく杖ですね。持ち主の魔力を大幅に増強する効果が有りそうです。杖自体の強度も硬いので直接攻撃や物理防御にも使えますよ」
「いやいや、全然悪趣味じゃないですよ?むしろメチャクチャカッコいいです!」
前々から思っていたが、コイツのセンスはどうかしているな。
「よし、大魔王の杖と名付けましょう!我ながらグットネーミング!!」
繰り返しになるが、コイツのセンスはどうかしているな。
「えーー……つ、続きましては赤竜さんの武器を……」
ほら!神様も困ってるじゃねーか(笑)
「これは……この世界の武器では有りませんね。機械技術と魔道科学の結晶でしょうか。魔力を込めて超圧縮し、弾丸として超速で放つことが出来るアイテムですね。」
ほう、なかなか良い武器じゃねーか。
「特に飛んでいる相手に対しての効果が抜群の様です。」
それを聞いてニヤリと笑う赤竜。
あー!バッチリ赤竜の心とリンクしてるー!
完全に【対・牙翼用】武器じゃないですかーイヤだーww
「なるほどなるほど……。ではこの武器の名前は【ワイバーンキラー】で決まりですね。」
ほら!やっぱり!
普段の赤竜からは考えられない程の悪い顔になっている。
「さて、そろそろアルトさんの武器も完成ですかね。……おや?」
アルトを見て宝石野郎が首を傾げる。あ、いや首は無いけど……。首を傾げた様な声を上げた。
「だいぶ時間が経っていますがまだ完成しないという事は……強力な武器が出来る予感がしますね。」
確かに。
未だにアルトの両手のひらに向けてメタモル鉱石の粒子は集まり続けている。
勢いからしてまだまだ時間はかかりそうだ。
「うーむ、まだまだ時間がかかりそうですし、皆さんお茶でもしながら待ちましょうか。」
パーデスが提案する。
アルトには悪いが正直暇だし飽きたので、提案を飲むことにした。
「え?ちょ!?僕は!?僕はこのままですか??そろそろ腕が痛いんですけど!?」
アルトが叫んでいるけれど、スルーした。
修行の一環だと思って頑張れ〜。
「ひどいですよーー!僕もお茶飲みたい〜〜〜!」
数刻後。
すっかり憔悴仕切ったアルトの両手には一振りの剣が完成していた。
「や、、、やっと出来ましたよー。。。う……腕がパンパンなんですけど……。」
ウルウルしながら泣き言を漏らすアルト。
なんか心が痛むので剣の方に注目しよう。
うーん。
ピンク……だな。
ピンクだし装飾にハートやら星やらがキラキラ散りばめられている。
魔法少女のステッキも真っ青なキララメっぷりだ。
そして何よりも気になるのが……
「刃が無いですね」
宝石野郎が呟く。
そう、両側ともに刃が付いていないのだ。
コレでは敵を切り裂く事が出来ない。
「いえ、これで良いんですよ。僕はハーさんを真っ二つにしたいわけでは無いので。喧嘩するにはこれくらいでちょうど良いんです♬」
上目遣いで俺を見ながらアルトが答えた。
ぐぬぅ……。
「しかし、それはともかくとしてこの武器……かなりの威力を秘めている予感がしますね〜。先のお二人の武器よりも数倍……下手をすると数十倍のポテンシャルを感じます。」
「はああぁ〜?そのキラキラデコデコした少女趣味全開の剣がですか〜?いやいやいや絶対私の大魔王の杖の方が凄いに決まってますよ〜!」
パーデスが不服そうにグダグダ言う。
「カッチ〜ン!」
あ、珍しい。
アルトがムカついているぞ。
「そこまで言うならどちらの武器が強いか試してみましょうよ。」
「お!いいじゃねーか!せっかくだしやってみろよ。」
一瞬躊躇したパーデスだが、やがて意を決したように言い放った。
「い、良いでしょう!ただし、ブースト技とハーさんの技は禁止ですよ!」
「わかりました。魔法ブーストも覇王竜撃斬も使いませんよ。」
そう言うと剣を構えるアルト。
「ふっふっふ、兄弟子を舐めていると痛い目にあいますよ!アルトさん!」
さんざん手加減の条件を呑んでもらってそりゃねーよパーちゃん。
得意げに杖を構える姿が腹立たしいぜw
「パーデスさんこそ僕のマジカルハートソードの威力にびっくりしないでくださいよ!」
……ん?……え?なんて??
「ん?え?なんて??」
パーデスも同じ心境みたいだ。
おいおいまさか……。
「煌めけ!僕の最強剣!マジカルハートソーーードッ!!」
やっぱり剣の名前か!!
パーデスもあんぐり口を開けるまさかのネーミングセンス。。。
一瞬狼狽したパーデスだが慌てて杖を構え振り被る。
「そんな変な名前の剣に負けるわけありませんよ!!とりゃ〜〜大魔王の杖えぇ〜!」
ちなみにパーデスは杖に増幅された魔力を込めている。
アルトにはブースト禁止しておいて……コイツチャッカリしてやがるな〜。
ガキイイーーーーーン!!!
ぶつかり合うメタモル鉱石とメタモル鉱石。
その刹那、パーデスの身体は杖ごと後方に吹き飛び、メタモル鉱石で出来た頑強な試練の洞窟の壁を突き破り、外に飛び出し、遥か彼方に飛ばされて見えなくなった。
「え?……うそ……?ハーさんどうしましょう!?パーデスさんが!!」
「あー大丈夫大丈夫。あいつは後で蘇生しとくから気にしなくて良いぞー。」
こうしてアルトは自分専用の武器、マジカルハートソードを手に入れたのだった。
しかしネーミングセンスはさて置き、とんでもない威力の武器が出来たもんだ。
アルトにとの喧嘩がますます楽しみになったぜ。
余談ではあるが、飛ばされたパーデスは10キロ先で発見された。
アルトの剣とぶつかり合った大魔王の杖はひん曲がっていたので宝石野郎に修復してもらう羽目になり、治った杖にパーデスは【大魔王の杖・改】という新たな名前をつけたのだった。
つづく。




