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覇王竜は暇を潰す  作者: コミネカズキ
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試練の祠と神の宝石

マヤイカデ山脈の遥か南、海に面した岬の先に有るミーナ鉱山地帯は、地下世界ミッドナイトで最も多彩な貴金属が発掘される場所だ。……正確には「場所だった」が正しい。

魔王軍の人間世界進行により今は鉱山で働く者達はすっかりいなくなってしまっていた。


前から不思議だったのだが、攻め滅ぼされたあと人間達はどこに行ってしまったのだろう?

死体が無いのだ。

以前も軽く触れたが、肉食の大型魔物にとって人間は食べる場所がとても少なく食い堪えが無い。

その辺の豚や牛を喰った方がまだ満たされる。

なので人間が思うほど魔物は人間を喰わないのだ。

勿論他に何も食べるものが無いような緊急事態の時は食べたりもするが……あ、ちなみに俺は食べ無いが……。

それにしたって骨も残ら無いのはおかしい。

実は何処かの辺境にでも逃げ延びているのだろうか?


おっと、話が脱線した。

俺たち覇王竜と勇者一行はミーナ鉱山地帯の中に隠された試練の祠にやって来ていた。

この祠には伝説の神の鉱石、メタモル鉱石が祀られているのだ。

と言うか祠自体がメタモル鉱石で出来ている。

300年前、先代の勇者であるナイトが使っていた太陽神の剣もこの祠のメタモル鉱石で作られているのだが、とある事情で紛失されてしまった。

なので新たにメタモル鉱石でアルト専用の武器を作りに来たのだ。


「アイタタタタッっ!?何すかココ!!入っただけでメチャクチャ身体痛いんですけど!?」


パーデスがはしゃいでいる。


「これは……恐らくこの祠全体が聖なる気で満たされているせいですね。生半可な魔物ではひとたまりもなく消滅してしまうでしょう」


「げっ!?マジすか!!俺消えちゃうの!?」


「大丈夫ですよ、修行を思い出してください。貴方は私の火炎のブレスを毎日のように食らっているのです。あれに比べれば子供騙しみたいなものですから。魔力障壁をしっかり貼れば問題ありません。」


「あ、本当だ!!あービックリしたぁ」


消滅してたら超楽しかったんだけど。残念w


「まあお二人の夫婦漫才はともかくとして……」


「「誰が夫婦ですか!!」」


アルトの言葉に同時にツッコミをいれるパーデスと赤竜(せきりゅう)

息ぴったり。

やっぱり夫婦漫才じゃねーかよw


「コホンっ!ま、まあともあれ……この祠、メタモル鉱石だらけなのは良いのですけど、どうやって持ち出すんですか?」


「あー、基本的に持ち出すのは無理だな。祠と一体化してるし。それに持ち出せたとしても加工出来ないと思うぞ?メタモル鉱石は特殊加工金属だから。」


特殊加工金属とは、オリハルコンやミスリルなど伝説系の金属にみられる正規の鍛冶練成方法で加工出来ない物の総称だ。


「特にこのメタモル鉱石は特殊でな。この奥にある【試しの祭壇】で試練を乗り越えたものにのみ武器となって力を貸すんだ。」


「へーー、何だか面倒くさいですね〜」


と、パーデスがボヤく。


「まあ大丈夫だろう。先代の勇者ナイトは一瞬で試練を乗り越えてたからな。おかげで当時は最強剣を手に入れたのに全く感動が無かったな。」


「そ、そーなんですか……なんか逆にプレッシャーだなぁ」


そんな会話をしながら祠の中を進むうちに俺たちは少し開けた空間に出た。

中央辺りに飾り付けられた祭壇がありやたらとデカイ宝石が掘り入れられている。


「よく来ました新たなる勇者アルト。そして久しぶりですね、覇竜。300年ぶりです。」


「うわっ?宝石が喋った!?」


「この宝石が試練の祠の主、試しの祭壇の審査員だよ。……久しぶりだな宝石野郎、あと覇竜って呼ぶのはヤメロ!今は元服して覇王竜だ。」


「ふふ、相変わらず粗野で下品ですね、覇竜」


「てめー!」


この宝石野郎は昔から気に入らなかった。

物言いがいちいち嫌味でカンに触る。


「ふん!まあ良いぜ。今日用があるのは俺じゃなくてコイツだからな。」


「あ、あの……アルトと言います。今日は僕の武器を作って頂きたくて…」


「あー、ミナまで言わなくともだいたい事情は把握していますよ。」


「え?どうしてわかるんですか?」


「まあ一応私は神様みたいなものですから。だいたいわかるんです。」


「えー!?か、神様……ですか??」


「ま、神と言っても、私の場合は正義の味方では有りません。試練さえ乗り越えれば誰にでも武器は作って差し上げます。何ならそちらのお二人にも作りましょうか?」


「え!!マジすか!?是非お願いします!」


パーデス君即答かよ〜w

マジでこいつ貪欲だなー。


「赤竜もついでに作ってもらえよ。」


「よ、宜しいのでしょうか?」


「どうせ神の気まぐれだろ?折角だから有難くいただいとけよ。」


俺の言葉にふふふっと笑う宝石野郎。

マジでムカつくな〜


「なんなら貴方の武器も作って差し上げましょうか?覇竜。」


「いらねーよ!!俺は生身でガンガン殴り合うのが性に合ってんの!!」


「ふふ、まあ良いでしょう。では早速試練を始めましょう。勇者アルト、パーデス、赤竜。武器を欲する三名よ、祭壇に手を当て自らの望みを唱えるのです。」


促され祭壇に右手をあてるアルト達。

偶然か必然か、3人が唱えた望みは同じ言葉だった。


「「「今より強くなる為に武器が欲しい!!」」」


3人の体が強く光り、やがて祭壇に吸い込まれた。

300年前に見た光景と重なる。


「さて、無事に帰ってこれますかね?」


「あ?何言ってやがる。ナイトの奴が数秒でクリアした試練だぞ?あいつらでも余裕だろーが。」


確かナイトは光って吸い込まれた直後に「クソ親父気持ちわりーよ!」とか叫びながら一瞬で出て来てたな。

意味がわからなかったから何があったか聞いても頑なに答えてくれなかったのを覚えている。


「私が与える試練は人の心の満たされていない隙間を埋める幻を見せて、それでも幻を振り払い目的に迎えるかを試す…といった内容です。振り払う覚悟を持った者にのみ力を貸すのです。」


あ、、、パーデスがヤバイぞ。アイツ隙間だらけじゃね?


「他の二人は知りませんが、あの勇者は戻ってこれないかもしれませんね」


「は?パーデスじゃなくアルトがか?」


「貴方は気が付いていないかも知れませんが、あの娘は心に沢山の隙間を持っています。幼い頃から身寄りが無く両親の温もりを知らない。年頃になっても同年代の娘みたいに華やかな事も無い。恋も愛も知らずに今まで生きてきた。」


宝石野郎の言い草に……はっきり言ってムカつくのを通り越して呆れかえった。


「はー……。神だかなんだか知らねーけど、本質が見えてねーのはテメーだぜ宝石野郎。お前、アルトの事をなんもわかっちいねーよ。あいつは……アルトは必ず帰ってくる。少し時間は掛かるかも知れないけど、な。」



この後、俺は300年以上の生涯で1番長く感じる時間を過ごす事になる。

十数時間後、俺の言葉どうり試練を乗り越えて帰ってきたアルトの涙まじりの笑顔を見たとき、俺の心の隙間が埋まってしまった事は……口が裂けても誰にも言わない。


つづく

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