アルトと陽華
勇者ナイトの鎧事リビングアーマーの長、【烈火の鎧】じーさんには娘がいた。
リビングアーマーがどの様にして繁殖するのかは知らないし知りたくも無いが……。
ともかくその娘である【日向の鎧】ちゃんが、なんと呪いの剣一族の【殺戮の剣】君と恋仲になってしまったのだ。
同じ物質系モンスターとはいえリビングアーマー族と呪いの剣一族は犬猿の仲、二人の関係は認められず、ついには駆け落ちしてしまったのだらしい。
今から20年ほど前の話だ。
ちなみに烈火じーさんがボケ始めたのはその頃かららしい。
その後日向の鎧ちゃんからは全く音沙汰がなかったのだが、3年前の雪の日に若いリビングアーマーが日向からの手紙を持ってマヤイカデ山脈のこの城を訪れたのだ。
手紙にはこう記されていた。
『烈火お父様、
ご無沙汰しております。
あれから私は殺戮の剣さんと結婚し、貧しいながらも幸せに暮らしていました。
しかし、私達は望んでこうなったのだから仕方ありませんが、娘は……陽華にはまっとうなリビングアーマーの暮らしをさせてやりたい。
ワガママなのは百も承知ですが、せめて娘が成人……もとい成鎧になるまで城で預かってはもらえないでしょうか?どうぞ宜しくお願い致します。
貴方の娘 日向より』
そして烈火じーさんは手紙を持ってきた若いリビングアーマー……孫の【陽華の鎧】を城に招き入れたのだった。
しかし……
「しかし!この私は城の生活なんて生ぬるいものは望んで無いのよ!
私が欲するのはスリルと冒険の日々!
さあ!私を纏いなさい覇王竜!
貴方なら合格!きっと私を使いこなせる。
私を着て魔王討伐の旅に出るのよっ!!」
ビシッと指を立てて高らかに言うリビングアーマーの女の子。
天井から飛び降りてバラバラになった彼女は、何と数分で自己修復、自己再生したのだ。
その様は何とも気持ち悪かった。
「あのな、まず第一に俺たちが力を借りたいのは烈火じーさんだ。孫じゃ無い。
第二に鎧を着るのは俺じゃなくてそこに居る勇者アルト。
第三に魔王は俺だ。俺を倒すために力を貸せって言ってんだよ!」
「三番目は意味がわからないのでけど、鎧としての性能は私だってじーさんには引けを取らないわよ?リビングアーマーと呪いの剣のハーフを舐めないで!!でも、それよりも……」
アルトをジロリと見つめる陽華の鎧
「覇王竜じゃなく、その貧弱な女が私を纏うの?とても勇者には見えないし私を着こなせるとは思えないんだけど……。」
「なら試してみたらどうだ?300年前の勇者ナイトの時も烈火じーさんがやったろ?所持者の闘儀」
所持者の闘儀とはリビングアーマー族に古代から伝わる所持者選定の儀式だ。自分を纏う資格があるかどうか闘って試すのだ。
「本気?私は纏われてなくても今やリビングアーマー族一番の戦士よ。はっきり言って闘えば怪我じゃすまないかもよ!」
「まあ、やってみれは解るさ。アルトも構わないな?」
「あ、はい。僕は構いませんよ?」
「程良く手加減しろよ〜」
「は?残念ながら神聖な儀式で手は抜けないわよ!」
いや、アルトに言ったんだけど……。まあ良いか。
1時間後、マヤイカデ城闘技場。
「ではこれより、所持者選定の闘儀を始めます!」
と、仕切っているのは俺たちを案内してくれていたアーマーナイトである。
闘技場には客席も有り、どこから聞きつけてきたのか様々な鎧の形をしたリビングアーマー族達が観戦に来ている。
「やれーやっちまえ陽華ちゃーん!アボれー!!」
「アボれーアボれー陽華さーーん!!」
孫アーマーはなかなか人気があるみたいだ。
ところで……
「アボれってなんぞ??」
「ああ、リビングアーマーボンバれーを略したみたいな感じのノリですかねー。余り深く考えないほうが良いかと。」
……と、赤竜。ふむ、深くは考えまい。
「では、初めーーっ!!」
アーマーナイトの掛け声に会場の歓声がヒートアップする。
「凄いアウェイ感……やりずらいなー」
「ふふ、私はこの城ではアイドル的な存在なのよ!可哀想だけど、皆んなの期待に応えるために全力で行かせてもらうわ!!」
そういうと陽華の周りに炎のオーラが現れる。
「はっっ!!」
気合いとともに陽華の額、肩、肘、膝、手の甲、足先から棘のようなモノが飛び出した。
それぞれよく見ると小型の剣だ。
「スパイクアーマーモード!これが呪いの剣一族から受け継いだ力よ!!」
そう言うと突撃して来る。
あんなに鋭い棘をマトモに喰らったら流石のアルトもひとたまりもないだろう…が、、、
ガッシャンガッシャンガッシャンガッシャン……
「遅っそ!クソ遅いな!?」
「まあ基本的にリビングアーマーって余り素早くないんですよねー」
と、今度はパーデスが呟く。
なんかコイツ久々に喋ったなw
「はっ!」
陽華の攻撃を素早く交わしたアルトは一瞬で後ろに回り込むと回し蹴りを背中に叩き込んだ。
カキーーーン!!
激しく金属音が鳴り響く。
「痛ったー!?めちゃくちゃ硬い!」
アルト自身魔力障壁を張っているので怪我はしていないけれど、それでもアルトの蹴りで無傷とは中々の硬さだなー。
「ふふ。私は仮にも伝説の勇者ナイトの鎧の孫よ?防御力は折り紙付きよ!」
「なるほど……では遠慮なく行きますよ」
アルトが一気に魔力と気を集中する。
「ライゲキマ・アームド!」
雷魔法を纏ったアルトの髪が逆立ち、身体中から放電現象……スパークが巻き起こる。
「……え?……ええええ!!何それ!!聞いてないんですけど!?!?」
陽華が困惑の悲鳴をあげる。
瞬間、高速…もとい雷速で間合いを詰めたアルトが斜め下から陽華の身体をかち上げた。
「キイヤアアアアアア〜〜!!!」
ヘンテコな悲鳴をあげる陽華。
「キタカゼマ・アームド!」
10メートルほど空中に浮いた陽華を今度は風魔法を纏いジャンプして追撃する。
ジャンプ……と言うよりもはや【飛行】に近いかもしれない。
空中の陽華に追いついたアルトは魔力と気を一点に集中させた両拳を組み合わせ一気に振り落とす。
「覇王竜撃拳!!」
お、新技だ!しかしアルトのやつ、完全に魔力と気を融合させるコツをつかみ始めているなー。
そのうち俺のオリジナルである覇王竜撃波も使えるようになるかもしれない。
「ピィギャああああ!?!?」
上空10メートルから叩き落とされた陽華はまたしてもヘンテコな悲鳴をあげながら落下し…………地面でバラバラになった。
「あ………。」
「「あ…………。」」
会場中が微妙な空気に包まれる。
こうして陽華はいっさいアボれる?ことは無いまま、所持者の闘儀は幕を下ろしたのだった。
数分後、マヤイカデ城の別室で自己再生してスッカリ元どうりになったリビングアーマーの少女は高らかに声を上げた。
「やるじゃない勇者アルト!さすが覇王竜が認める女ね!……合格!合格よ!この私を纏うことを許可してあげるわっ!」
うーむ、一方的にボコボコにされたのにこの自身は何処からくるんだ?
「まあ、烈火じーさんはボケてあんな状態だしお前がアルトの鎧になるのはまあ良いんだが。ところで陽華、お前どんな能力があるんだよ?」
ちなみに烈火じーさん……烈火の鎧は高い守備力に加え、纏うと力が数倍になる効果と火炎系魔法ブーストの効果があった。
もともと火炎魔法を油でブーストさせるのが得意なナイトと相性抜群だったのだ。
「私の能力は鎧の自己修復と使用者の自動回復よ。常に軽い回復魔法がかかり続ける感じかしら。あと烈火じーさん程ではないけれど筋力増加と火炎魔法強化の効果も若干あるわね。」
ほうほう、まあ悪くないな。
「でもでもそんな能力はオマケみたいなものよ!!」
は??
「私の一番のオススメ能力は、着用者が一番素敵に見える形の鎧に変形出来る事よ!!」
……いやーその力は戦闘にはあまり関係無いかな……
「わぁー!本当ですか!じゃあ着ます!宜しくお願いしますっ!!」
あれ〜〜?アルトさん大喜びしてる〜?
ま、まあ本人が嬉しいなら別にいいけど。。。。
「ところで……リビングアーマーさんってどうやって着ればいいんですか?そもそも陽華さんって僕より一回り大きいんですけど、、、着れたとしてもブカブカになりませんか?」
「ああ、それね。私達リビングアーマーを着るにはまず顔の辺りに…あ、胸とお腹の真ん中あたりに顔は有るんだけど、そこに手を当てて「装着」って叫べばいいのよ。さっそくやってみて!」
促されるままに陽華の顔に手をあるアルト。
「えーと、装着!!」
叫んだ瞬間、アルトと陽華が光に包まれ二人のシルエットが重なっていく。
アニメだったら変身バンクとか入るんだろうかww
次第に光が弱まりアルトの姿が見えてくる。
陽華曰く、使用者が一番素敵に見える姿……。
「なっ!?」
思わず凝視して固まってしまう俺。
アルトの姿は……それはそれは見事なビキニアーマーだった。
「い、嫌ああああああああああっ〜!?」
アルトの悲鳴が高らかに城内に響き渡る。
こうして俺たちは真月の盾に引き続き、陽華の鎧を見事にゲットしたのだった。
つづく……




