烈火と劣化
地下世界ミッドナイトの最北端にして最東端……ようするに右上の方w。
そこには大陸最大の山脈であるマヤイカデ山脈がそびえ立っている。
山と山の中腹には俺がこの世界に来るよりもずっと前に滅んだであろう古城があり、今はとある魔物の巣窟となっている。
俺、覇王竜のハーさん、勇者アルト、執事の赤竜、そして大魔神官のパーデス事うっかりパーちゃんの四人は。300年前異次元の大魔王との戦いで先代勇者ナイトが身につけていた【烈火の鎧】、通称【ナイトの鎧】を手に入れる為その古城に向かっていた。
ただ……
「ただ……今回は正直、手に入るかどうかは微妙だ。余り期待するなよ〜。」
「え〜〜マジすか!?こんな所まではるばるやってきて肩透かしとかマジすか〜!?」
日に日にウザさが増すパーデスである。
「パーデス様にとっては体力向上のトレーニングになるではありませんか。文句を言わずにシャキシャキ歩いて下さい。」
俺の攻撃が飛ぶ前にパーデスのトレーナーでもあるレッドドラゴン族の執事 赤竜が諌めた。
「いや、私一応大魔導……と言うか神官なんですけど、、、体力……ですか??」
「私のドラゴンモードとの鬼ごっことどっちがいいですか?あ、ちなみに鬼はずっと私ですが。」
「登山さいこ〜〜〜!!!」
もはやコントだな。
すっかり赤竜と仲良くなったパーちゃんを見るとなんとも言えない爽快感を覚える。
「でもハーさん、手に入るか微妙って言うのはどういう事なんですか?」
例の一件以来、アルトの顔を見るのが何となくこそばゆい。
逆にアルトは何かスッキリ憑き物が落ちた様な表情で以前と同じ様に接して来る。
うーむ、女は強いな〜。
「何ていうか、これから会うヤツはとても気難しいヤツでな……。言う事を聞いてくれるかどうかわかんねーんだよ。」
「え?ハーさんの言う事を聞かない魔物がまだミッドナイトにいるんですか?魔王に逆らうなんて無礼者ですねー!」
お前昔、俺にとって代わって魔王になろうとしたよな?後でグーパンチだな。
「でしたら無理やりにでも献上させますか?覇王竜様のお力なら容易いのでは?」
と、今度は赤竜
「いや、今回ばかりは力ずくでどうこう出来ねーんだ。なぜなら……」
「「な、なぜなら??」」
息を飲む一同に俺は容赦なく真実を告げた。
「本人だから。」
キョトンとなる一同。
うん、意味わからないよね〜。
「鎧本人だから。」
まだキョトンとしてる。
しかたない、細かく説明するか。
「リビングアーマーってモンスター、知ってるか?」
「あ、はい。確かリビングデットの鎧版、いわゆる【さまよう鎧】ですよね?」
「これから行くマヤイカデ城を今支配している魔物ってのがそのリビングアーマー族なんだけどな、勇者ナイトが着てたのが……そのリビングアーマーの一族の長。」
「……え?」
アルトの顔が引きつる。
「長老の烈火じーちゃん。当時はまだ100歳位だったけど……今や400歳オーバーかぁ。烈火の鎧じゃなく劣化の鎧になってたりしてな〜。なんちゃって。。。」
しばしの沈黙、、。そして
「えーーーーーー!?」
山々に絶叫が響き渡るのだった。
「覇王竜様、よくぞお越し頂きました。烈火様のご友人にお会いできて光栄でございます。ささ、烈火様は奥の間におりますのでどうぞこちらへ」
城門をくぐると俺よりも一回り大きいアーマーナイト風のリビングアーマーが出迎えた。
「しかし、最近妙な噂を耳にしておりましたから心配していたのです。我らの長老烈火様と共に大魔王を倒した覇王竜様が、今度は自ら魔王になられてミッドナイトを侵略しているとか…まあ我々も300年前魔族を裏切り人間に力を貸したので複雑な立場ではあるのですが……。しかし勇者様をお連れのところを見るとやはり噂はデマでしたか」
「いや、あながち間違ってねーぞ。今の魔王は俺だ。」
困惑の表情を浮かべるアーマーナイト風リビングアーマー。
あ、ちなみにリビングアーマー族の顔は兜の部分には無い。
兜は空である。
真の顔はよーく見ると胸と腹の中間地点辺りに実は有るのだ。
ほとんど表情を変えないので模様と勘違いされがちだけど。
「あれ?ではナゼ勇者様とご一緒なのですか?人質とかで?」
「いやいや、こいつはれっきとした俺を倒すために旅をしている勇者だぜ。今日は俺を倒すために烈火の鎧の力を借りに来たんだ。」
自分で言ってても意味がわからないんだから、このリビングアーマーにはなおのこと意味不明であろう。
首をかしげる彼の肩に赤竜が手をポンっと置いて呟いた。
「世の中、知らなくて良いこともあるのですよ……。」
ひいっ!とちぢこまるリビングアーマー君。
面倒くさい説明を省いてくれるとは流石万能執事の赤竜だ。
「し、しかし烈火の鎧……ですか……。確かに我が一族としては旧交の縁が深い覇王竜様にお力を貸すのはやぶさかでは無いのですが……。」
力を借りるのはアルトなんだが?まあどっちでも良いか。
「ただ……少々問題が、有りまして……。」
どうも歯切れが悪い。
「なんだ?別に咎めないから言ってみろ。」
嘘である。意に介さない事ならぶん殴る。
「いや実は、ボケちゃいまして……」
は?なんて?
「烈火様、ボケちゃいまして……。」
「いやー良く来たの〜〜えーと、どちら様じゃっけ?」
マジで劣化してた。
劣化の鎧になってた。
めったに開かない口元もだらしなく開き、心なしかヨダレ?みたいな物も垂れている。
「覇王竜だ。あんたと旅してた頃の名前は覇竜だったが。久しぶりだな劣化じーさん。今日はあんたの力を借りに来たぜ。
「いやーしかし、懐かしい顔じゃなー。ん懐かしい?ん懐かしいかの?わけが解らなんわい。…で、どちら様じゃっけ?」
あー……ダメかも。
「覇竜?ハーさんの本名って覇竜っていうんですか?」
アルトが妙なテンションで聞いてくる。
「若い頃の名前だ。成人……じゃ無い、成竜になって改名したんだよ!」
「あ、でもどっちみちハーさんなのは変わらないですね♬」
何で嬉しそうなのこの子?
「おー、ヨウカか!大きくなったのー、じいちゃんうれしーぞい。」
今度はアルトの頭を撫で始めた。ヨウカってだれだよ?
「ヨウカ様は烈火様のお孫さんです。お年頃の娘さんを見ると勘違いされてしまうようでして……。」
種族違うよな!?
「「種族違いますよね!?」」
パーデスと赤竜が俺の心のツッコミと同時にリアルにツッコミを入れた。仲いいな俺たち。
「ハーさん、本当に烈火さんのお力を借りるんですか?かなり不安なんですけど……」
ナデナデから逃げてきたアルトが小声で呟く。
「それに……何というか……アレを着るのは……少し抵抗がですね、、、。」
そりゃそうか。喋る鎧を着るだけでも勇気が要るのに、加えてあんな状態じゃー尻込みしても仕方ない。
その時である。
「話は聞いたわ!!そういう事ならそんなボケたじーさんに頼らずともこの私が力を貸してあげようじゃない!!とうっ!!」
高らかに叫びながら天井から一体のリビングアーマーが飛び降りてきて……そして……
……そして着地の衝撃でバラバラになったのだった。
「ばーさんや〜飯はまだかの〜」
烈火じーさんの声が虚しく響き渡った。
つづく。




