葛藤と格闘
この感情の正体が解らない。
本当は心のどかでは解りかけているのかもしれない。でもそれを理解し、言葉にしてしまうには余りにも今の自分はちっぽけで、資格が無い……様な気がする。
初めて会った時の……初めて会話した時の言いようの無い感情は300年前の会った事も無い人の記憶の残響……のハズだ。ハズだった。
でも僕はこの人……人じゃ無いけど……と同じ時間を過ごし、少なからず心に触れてしまった。
目の前でヤレヤレといった表情をしている彼にとっての僕は、多分ただの喧嘩相手……いや、喧嘩相手候補なのだろう。
初めて会った頃はそれが嬉しくてただただ直向きに強さを追い求めた。
今は嬉しさ半分悔しさ半分。強くなるたびに、彼の強さの果てしなさが解る。自分との差が解る。
及ばない自分が悔しい。それから…もう一つの理由で、感情で、悔しい。まだ名前が無い感情だけれども。。。
彼……はーさんが「なんでこーなった!?」と叫んでいるのが微笑ましい。でも同時にムカつく。
どーしてこうなったか胸に手を当てて考えてよね!まあ、人じゃ無い魔族の王様にそんな感情論をぶつけてもセンナキコトだ。
彼と向かい合うには拳と拳で語り合うしかないのだ。笑えないけと……。
ワイバーンの牙翼さんが始めた決闘だったのだけれど、何故か彼は赤竜さんと決着を付ける事になり先ほど
「喰らいやがれ!我が究極奥義!騎士道斬烈脚!」
「そちらこそ我が奥義にひれ伏しなさい!火竜爆炎拳!」
とお互い叫びながら奥義をぶつけ合い、ダブルノックアウトしている。
騎士道と蹴り、関係無いよね?あと火竜爆炎拳、炎出てなかったけど……爆炎??まあいいや。
そんなこんなで僕とハーさんは今、一対一で向き合っているわけだ。
とわ言え、つい先日の中間試験で完膚なきまでに敗れて全裸に……じゃ無い、ボロボロにされたばかりだから何処まで戦えるかはわからないけど…。
「じゃあ、行きますよ!!」
ハーさんが右往左往してくれてるうちがチャンス!僕は一気に魔力を高める。
「ライゲキマ…アームド!!」
雷魔法を身に纏い自らを雷化して一気に距離を詰める。そしてハーさんの目の前で手のひらをパチン!!と合わせた。
「うお!?!?」
いわゆる猫騙しである。一瞬ビクッとなって硬直するハーさん。今だ!!
僕は素早く背後に回り込むと彼の纏っているマントを剥ぎ取った。
【常闇の羽衣】
そう呼ばれている彼のマントは300年前の異世界の大魔王が纏っていたレジェンダリーウエポンだ。ハーさん曰く「戦利品」との事。
先の中間試験では脱いでいたのだけれど、このマントを着られていては正直戦いにならない。
なにしろこのレジェンダリーウエポン、全ての物理攻撃、魔法攻撃、特殊攻撃の威力を半減させてしまう上に大気中の魔力を自動吸収して傷を癒し続けるのだ。ある意味【真月の盾】より厄介なのである。
「しまった!!」
なんだか上手くいきすぎの様な気もするけれど、、、。僕は奪ったマントを自分で羽織る。そして後方に大きく跳びのき距離をとってすかさず魔力を集中した。
今の僕には武器が無い。中間試験で愛用の鋼のスコップが壊れてしまったのだ。遠距離魔法で戦うしか無い。
「成る程な。でもその距離は俺の得意距離でもあるんだぜ?」
ハーさんも魔力を高める。瞬間!
「ヒマ!ライマ!バクマ!カゼマ!スイマ!ヒョウマ!」
信じられない魔力!本当にハーさんはすごいなー。全ての属性の魔法を次々連続で放って来る。
普通ならひとたまりも無いけれど、僕はあえて全て避けずに魔力障壁と内気功でガードして魔法のタメを続けた。
羽織っている常闇のマントがハーさんの魔法を半減させ、受けたダメージを直後に癒していく。本当に反則だなぁコレ。
僕はそうこうしているうちにタメきった魔力を全開で前方に放った。
「天なる雷よ!全てを撃ち砕け!!ゴウライゲキマッ!!!!」
発動までの時間が長く普通なら単騎同士の戦闘では使いづらい雷撃系上位魔法だけれど、常闇のマントのお陰でなんとか発動できた。
今、僕が使える最強魔法。コレが効かなければこの戦い、かなり希望が無い。無数の巨大な超高密度魔力を帯びた雷の槍がハーさんに向かって縦横無尽に解き放たれた。
「たいしたもんだなーアルト!だけど真正面から撃つのは俺を舐めすぎだぜ?」
そう言うとハーさんは両腕を前に突き出し僕の雷撃をかき分ける様にして左右に分散させた。
「……うそ……!?」
唖然とする僕。引き裂かれた雷撃はハーさんの左右の地形を削り霧散した。
「まあ多少はビリッとしたぜ!?……さて、今度はこっちの番だな。」
そう言うと両手を左右に広げ、魔力と気を集中し始める。ヤバイ、あの構えは見覚えがある。ハーさんの必殺技、覇王竜撃波だ。
「前回は服が吹き飛んじまったけど、まあ今回は常闇のマントも有るし大丈夫だろ?」
ああ、そうか。この人はなんやかんや僕の身を心配して常闇のマントをワザと奪わせたんだ。
優しさが嬉しい。けど、優しさが悔しい。
多分この攻撃を受けたら僕は気を失って……この勝負も終わってしまうのだ。
「しっかり魔力障壁張れよ〜!んじゃ行くぜ!覇王竜撃波!!」
あーあ、もっと……もっと戦いたかったな〜。戦ってる時が一番ハーさんの笑顔が見れるから……。
目をつぶり覚悟を決める。
ドッガガガガガーン!!!
響き渡る爆発音……、しかし覇王竜撃波の衝撃は僕に届かず、僕の手前で掻き消された。
何が起こったのか解らず恐る恐る目を開けると、そこには美しい宝石と装飾が施され青く輝く一枚の盾が僕を守る様に目の前に浮いていた。
盾の表面には僕の胸の痣と同じ月と星の紋章が描かれている。
「うおっ?真月の盾!?」
ハーさんがびっくりした様な声をあげた。
ああ、そうか……これが勇者ナイトの盾……フルキャンセルシールドか。
手に取ると盾から勇者ナイトの意思が語りかけてきた。
《まだ戦いたいんだろぅ?じゃあ、もう少しだけ力を貸そうか。》
僕はライゲキマアームドで雷化し瞬間的に間合いを詰めると、直後にアームドを解いた。最後の攻撃のためだ。
今の僕ではハーさんみたいに前方に巨大な魔力を解き放つことは出来ないけれど……一点なら……。
僕は右手に残り少ない魔力を、左手に覚えたてで拙い気を集中させる。
ちっぽけで、彼のソレと比べればおもちゃみたいなマガイモノのその技を……僕は両手で合わせるのでは無く、真月の盾に集めた。
「覇王竜撃斬!!」
斬……と言うよりシールドバッシュみたいな形になってしまたけれど、僕は今のありったけの気持ちを込めて真月の盾を振り抜いた。気持ちが高ぶったせいで目からは涙が溢れ前が良く見えない。
ハーさんはぼくの一撃を何故か避けようとはせず、魔力障壁すら張らず、まともにその身に受け止めた。
全魔力と気力を使い切った僕はそのままハーさんの方へ倒れてしまう。
ハーさんは僕の身体を受け止めると
「よく頑張ったな。」
と言い僕を抱きしめた。薄れていく意識の中で最後に……気のせいかもしれないけど……囁く様に……ハーさんが微かに呟いた様な気がした。
「ごめんな」
つづく…




