大庭園にて
わたしは子犬サイズのプチドラを抱き、森を抜けた。目の前には、赤、青、黄色といった(けばけばしいくらいに)原色に彩られた町並みが広がっているが、まったくと言っていいほど人通りはない。なんだかちょっと薄気味悪い。しばらく街中を進むと、やがて、ハーレムを外側を囲むレンガの壁が見えた。
わたしは、壁の前で、
「プチドラ、どうやって侵入するの?」
「任せて、マスター。」
プチドラは呪文をつぶやき、クルッと空中で一回転、尻尾でちょこんと壁に触れた。
「このまま直進して大丈夫だよ」
「えっ?」
「魔法でね、しばらくの間、この壁を通り抜けできるようにしたんだ」
プチドラは自信たっぷりに言った。試しに壁を指で突いてみると、指はスッと壁の中に吸い込まれた。物に触れたような感触はなかった。
「すごいね、魔法でこんなこともできるんだ……」
なんだかちょっぴり怖いような気もするが、わたしは思い切ってレンガに首を突っ込んでみた。
「わぉ!」
わたしは思わず感動して声を上げた。壁の向こうには、一面に巨大な庭園が広がっていた。青く澄んだ湖の畔に立派な城がそびえ、きれいに刈り込まれた芝生、色とりどりの花々、純白の彫刻や美しい噴水が秩序だって配置され、湖を取り囲んでいる。館のささやかな中庭とは比べ物にならない。
「すごいわね。空から見たときはミニチュアにしか見えなかったけど、こんなに広かったなんて……」
「マスター、行こうよ。マリアはあの城の中に幽閉されてるに違いないよ」
わたしはプチドラに促され歩き出した。今日は天気もよくポカポカと暖かい陽気だ。花々の上では蜜蜂が飛び交い、蝶々が舞っている。寝転がって昼寝すると気持ちがよさそうだ。でも、お城はまだ、はるか遠方。上空から見ると大した距離ではなさそうでも、地上を歩いてみると結構な時間がかかる。
こうして、ようやくお城にたどり着いたときには、日は西に傾きかかっていた。お城の周囲には濠が巡らされ、跳ね橋が上げられている。泳いで渡るのは面倒だ。城内へは容易に入れそうにない。
わたしは「ふぅ」と大きく息をはき出し、
「困ったわね……」
プチドラも「う~ん」と腕を組み、座り込んだ。隻眼の黒龍モードに戻れば飛び越えることはできるだろう。でも、城内に見張りがいれば、すぐに見つかりそうだ。脱出の際には多少暴れてもいいけど、潜入と救出はこっそりと行わなければ面倒なことになる。
わたしたちが考え込んでいると、不意に、
「あら、あなたは……」
背後で女性の声がした。振り返ると、そこにいたのは……