一時休戦
わたしがうっとりとメアリーの技に見入っていると、
「すごいでしょ、マスター」
プチドラはまるで自分のことのように言った。わたしは黙ったままうなずいた。
「くそっ! では、これならどうだ!?」
猟犬隊の若者が数人、手に手に武器を持ち、メアリーに討ちかかった。多人数で襲いかかれば勝機はあると思ったのだろう。しかし、メアリーは慌てず騒がず、目を閉じて魔法の言葉をつぶやき、指先からは数条の光線がほとばしった。その光線は若者の体を貫き、一瞬にして血気にはやった若者たちを黒焦げになってしまった。
……ひぃー! バケモンだ!……
あちこちから悲鳴が上がった。味方は激しく動揺している。これではどうあがいても勝てるはずがない。
「突撃!」
メアリーが号令をかけると、敵の軍団は雄たけびを上げ、襲いかかった。結果は言うまでもなくこちらの惨敗、騎士団も猟犬隊も散々に打ちのめされたのだった。
その夜、大幅に後退したわが軍の本営では、作戦会議が行われた。わたしとプチドラを除き、みんな、表情に苦悩がにじみ出ていた。騎士団にせよ猟犬隊にせよ、まったくいいところなく打ち負かされたのだから。
「これはまずいです。あの女、これほどまでに腕が立つとは……」
ドーンは悔しそうに声を絞り出した。ここでいいところを見せて、政治的発言力を強めようという野心があったとしたら、いい薬だろう。
その時、本営に大慌てで伝令が駆け込んできた。メアリーが副官とともにやって来て、「総大将に面会させてほしい」と言っているそうだ。プチドラはわたしを見上げ、にっこり笑った。予定通り、メアリー自らが使者となって再考を促しに来たのだろう。
「通しなさい」
しばらくすると、メアリーが副官を伴って現れた。
「何か御用?」
「今日の戦闘でお分かりかと思いますが、力の差は歴然としています。無益な戦いは止めにしませんか」
「なにっ!」
猟犬隊や騎士団幹部は一斉に色めきたった。ドーンは腕まくりまでして、今にも飛び掛らんばかり。
「そう言われてもね、すぐには決められないわ。つまり、降伏しろってことでしょ」
「それなら、明日から7日間、休戦しませんか。その間に話し合っていただければ……」
「7日間ね。いいわ。明日から数えて8日目の朝までに返事する」
「分かりました。よい返事を期待しています」
そして、メアリーは副官とともに帰っていった。