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ザ☆旅行記Ⅲ 愉快な仲間たち  作者: 小宮登志子
第8章 裁判と帝国宰相
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痛恨の失着

 帝国宰相は、すぐにまた元のにこやかな表情に戻り、

「法は守られねばならぬ。法は、万民が平和に生活を営むことができるよう、万民を拘束するのじゃ。ところで、そなたはこれまで、いろいろと苦労を重ねてきたようじゃな」

「ええ、まあ、それなりに……」

 内心、身構えながら答えると、帝国宰相はカッと目を見開き、雷鳴のような響きでもって、

「じゃが、窮したからといって、法を破ってよいというものではないぞ!」

 そして、懐から引き裂かれた手紙を取り出し、わたしの目の前に示した。これはわたしが署名して皇帝と宰相宛に出した手紙だ。「わたしを今すぐ無条件でウェルシー伯に任じよ」という……

 宰相は手紙を使うチャンスをずっと狙っていたのだろう。ウェルシーでの諸々の所業にかんがみれば、わたしに法や正義を語る資格はまったくない。うっかりとそんな話を持ち出したのが失着で、その隙を宰相は見逃さなかった。まさか今まで手紙を持っているとは思わなかったが(わたし自身は手紙を出したことすら忘れていた)、証拠を突きつけられた以上、言い逃れはできまい。

 困った…… そして、しばらく沈黙の時間が流れた。


「わが娘よ……」

 先に口を開いたのは帝国宰相だった。宰相は手紙を懐にしまいこみ、

「お互いに隠し事はなしじゃ。ざっくばらんな話をしようではないか。わしは、今回の一件を円満に収めたいと思っておるだけじゃ。裁判から手を引いてくれぬか」

 帝国宰相はわたしの肩に手を置き、親が子を諭すように言った。ただ、口調は穏やかだが目は笑っていない。「あくまでも裁判で頑張るならば、ウェルシーでの一件を許さないぞ」ということだろう。

「手を引きましょう。でも、タダではダメ、代償を請求します。たとえドラゴニアより小さくてもね」

 わたしとしても、このまま手ぶらで引き下がるわけにはいかない。宰相に譲歩する気があるかどうか知らないけど、ここは、一か八かの賭け。


「そうか、代償か…… ははははは! 健気な娘よ、気にいったぞ!!」

 帝国宰相は、突然、豪快な笑い声を上げた。

「分かった。それではおまえをウェルシー伯に任じよう。であれば、異存はあるまいな」

 ここは宰相の提案を受け入れる以外ないだろう。ドラゴニアが惜しいのはともかく、帝国宰相の思惑に乗っかるみたいで面白くないが、仕方がない。宰相は満面の笑みを浮かべているが、わたしにはそれが宰相の勝利宣言に見えて、なんともしゃくに障る。

 そして、宰相は最後に一言、付け加えた。

「人の上に立つ者、約束は守らねばならぬ。特に、金銭に関することはな。あえて具体的に言おう、金銭の貸し借りに関しては、一点の曇りもあってはならぬのだよ」

 これが「(ウェルシー伯として)マーチャント商会に対する借金を返済せよ」という意味であることは、明らかだった。

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