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ザ☆旅行記Ⅲ 愉快な仲間たち  作者: 小宮登志子
第8章 裁判と帝国宰相
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庭園での会談

 わたしはプチドラを抱いて玄関を出た。しばらく石畳が続く。帝国宰相は、ただ一人、左右に並んだ噴水の谷間でわたしたちを待っていた。

「お待たせしました、帝国宰相閣下」

 わたしは、一応、形通りにご挨拶。帝国宰相は、なぜだか目を細め、優しい表情になって、

「わが娘よ、待っておったぞ。急に呼び出したりして申し訳なかった。そなたと庭園を散歩したいと思ってな。年寄りのわがままじゃが、許してほしい」


 帝国宰相は(おそらくは意図的にだろう)腰をかがめ、いかにも年配の人っぽい姿勢でわたしを庭園内に案内した。宰相は庭園に咲く美しい花々を見せつつ、

「わしと先代のドラゴニア候とは義兄弟の約束を交わした仲。そなたが先代のドラゴニア候の娘であれば、わしの娘と同じことじゃ」

 いきなり「わが娘」と言われても気持ちが悪いし、そもそもわたしはご隠居様の娘ではない。帝国宰相とご隠居様が義兄弟というのも、何やらウソっぽい話だ。

「わしも若い頃は血の気が多くてな。騎士団を率い、戦場を駆け巡ったものじゃ」

「はあ……」

「しかし、わしも、この年じゃ。争い事なく皆が平和に生活できるなら、それに勝る幸せはないのではないかと思うようになった」

「わたしもそう思います。わたしは誰よりも平和主義者ですから」

「争いは醜いものじゃ。特に、親と子、兄弟姉妹の骨肉の争いなど、あってはならぬと思う」


 ふと、帝国宰相は足を止め、顔をわたしに向けた。

「わが娘よ、分かってほしいのだ。調和の中にこそ平和があるということを」

 最初に見た時の印象からあまりにもかけ離れた好々爺ぶりは、不気味なほど不自然だ。裁判では御曹司に勝ち目がないと見て、わたしを丸め込もうというつもりだろうか。でも、わたしをご隠居様の娘のように見立て、「御曹司と兄妹仲良くしなさい」では、理屈付けはかなりの無理筋。もっとも、わたしとしては、それなりの代償さえもらえれば、丸め込まれることに異存はないが……

「分かります。でも、正義は肉親の情とは別問題で、正義は実現されなければ意味がありません」

「正義は実現されねばならぬ、それは正しい。わしもそう思う。じゃが、そのために、今までいかに多くの血が流されてきたことか。年のせいかもしれぬが、善き戦争よりも悪しき平和の方がマシではないかと思ってな」

「悪しき平和の中にも掟があり法があります。そうでなければ、たちまち戦争状態に至るでしょう。法は守られなければなりません。どのような社会でも、社会ある限り、法は存在します」

「法は守られねばならぬ、それはそなたの言うとおりじゃな……」

 その時、帝国宰相の目がきらりと光り、ほんの一瞬、獲物を狙う猛禽類のような目をわたしに向けた。何かマズイことを喋っただろうか。もしかしたら、地雷を踏んだかも……

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