開廷前の一週間
それから1週間、それなりに神経を使う日々が続いた。弁護人との打ち合わせは、帝都にあるツンドラ候の館で行うこととして、宮殿で出された料理はすべてプチドラに毒味してもらった(プチドラ曰く、「ドラゴンに毒は効かない」と)。
「ここまでしなくてもいいんじゃない?」
プチドラは少々あきれていたようだが、
「わたしは小心者なの。寒い国の、口ひげがお茶目な独裁者よりも、もっとね」
意味するところが通じたかどうか分からないが、プチドラはウンウンとうなずき、
「マスターはエマよりも用心深いんだね」
ほめられているのかけなされているのか判然としないけど…… まあ、いいか。
ツンドラ候は毎晩のように晩餐に招待してくれた。北の広大な領地を治めているだけあって、それなりに豊かなのだろう、宝石や貴金属で装飾を施した食器や、今まで見たこともない料理が並んでいた。
「俺様は、今までいろんな相手と戦い、ことごとく打ち負かしてきた。しかし、残念ながら、ドラゴンと戦ったことはない。そこでひとつ、頼みがあるのだが……」
ツンドラ候は酔っ払った勢いで、プチドラに勝負を申し込んだ。
「勝負? あ~い……」
プチドラもこういう勝負は嫌いではないらしく、隻眼の黒龍モードで受けてたった。
いくら何でもドラゴンが相手だから、ツンドラ候の惨敗かと思いきや、意外なことに、結構、いい勝負。両者は一進一退の攻防を繰り広げ、30分たっても1時間たっても勝負はつかなかった。
そして、最後には、引き分けとすることで両者が合意した。なぜかというと、戦っている間、館にはかなりの物的被害が出ており、このまま勝負を続けると、館が完全に破壊されそうだったから。
ただし、後にプチドラにきいた話では、「力は半分程度しか出していなかった」とのこと。それでも、「今まで戦ったヒューマンのうち、ツンドラ候が最強だった」との評。
こうして、1週間が過ぎた。わたしはプチドラを抱き、エルブンボウを持って、ツンドラ候とともに帝国法務院に赴いた。弁護人は書類を両手一杯に抱え、よろめきながら、ついてきている。
「さあ、今日が運命の法廷だぜ。わくわくするよな」
ツンドラ候が言った。わたしは内心、あきれ顔。「あんたは弁護人に任せきりで何もしていなかっただろう」と言いたかったけど、そこは我慢。愛想笑いを浮かべ、
「そうですね。ただ、正直なところ、そう簡単に勝てるとは思えませんが」
「いいんだよ。勝てないにしても、少しでも、あの能無しのボンボンをへこましてやれば。勝てればラッキーかな。まあ、そういうことだ。負けたら、俺様の後宮においでよ。何も不自由はさせないからさ」
「……」
わたしは思わず絶句……




