事務的な弁護人
わたしが部屋に戻ってしばらくすると、ツンドラ候の弁護人が訴状の写しを持って説明に現れた。弁護人には取り立てて言うほどの特徴はなく、あえて言えば真面目なサラリーマン風の男といったところか。
「では、今回の件の概略から……」
弁護人はすぐに説明を始めようとしたが、わたしはそれを制し、
「待って。ここではちょっとね。外に出ましょう」
帝国宰相の手下が隣の部屋で聞き耳を立てているかもしれない。わたしの身の回りの世話をすると言っていたメイドだって怪しいものだ。用心するに越したことはない。
弁護人は「は?」と不思議そうな顔をしていたが、異議を唱えることはなかった。わたしはプチドラを抱き、弁護人とともに、まるで散歩でもするような雰囲気で中庭に出た。
既に勅使は引き揚げたようで、グリフィンはいなくなっていた。広大な中庭は、ちょっと散歩するのも大変だ。玄関を出てから、しばらくは石畳が続く。そして、左右にいくつも並んだ噴水の谷間を抜けると、はるか先まで庭園が続いていた。わたしは周囲に誰もいないのを確認し、
「この辺りでいいわ。弁護人さん、説明をお願い」
「分かりました。では、今回の件の概略から詳しくご説明を……」
弁護人は事務的な口調で説明を始めた。
弁護人の説明によれば、裁判は一審にして終審であり(上訴という概念はない)、帝国法務院において、帝国大法官(法務大臣+最高裁長官+検事総長みたいな)が裁判長となり、厳粛な手続に則って行われるという。裁判の中立性は確保されていて、何人たりとも(たとえ帝国宰相でも)介入することはできないらしい。
原告はツンドラ候で、①御曹司に対する父親殺しの罪による告発、②(①が認められることを条件として)わたしとご隠居様との養親子関係の確認、③(①及び②が認められることを条件として)わたしによるドラゴニア候の地位承継を訴えているという。
「わたしがドラゴニア候ですか?」
「そうです」
「裁判には勝てるんですか?」
「こちらの主張が認められれば勝てますが、今の段階では何とも言えません」
確かにそのとおり、間違いはないが……
弁護人の事務的な説明は延々と続いたが、わたしはほとんど聞いていなかった。もし裁判で勝てれば、わたしがドラゴニア候。うまい話だけど、本当にそううまく進むものだろうか。帝国宰相は仲間の御曹司を見殺しにしないだろうし、裁判に中立性が確保されているといっても裏口はどこにでもありそうだし……