メアリーの武勇
「そんなに驚くことはないと思うけど。それとも、わたしがいると邪魔?」
「そんなことないよ。マスターがいてくれる方が心強いよ。でも、危険かもしれないから……」
「いいのよ。『義を見てせざるは勇なきなり』って言うでしょ」
「ありがとう、マスター」
プチドラは感動的にわたしの胸に飛び込んできた。本当のところは、プチドラだけを行かせるよりも一緒に行く方が、自分にとって安全だと思ったからだけど。ただ、唯一の心配事といえば、
「メアリーの軍団が動き出したら、その対応で手が一杯になるわ。その点は大丈夫なの?」
「大丈夫。さっき、メアリーと打ち合わせてきたから」
プチドラは小さな胸を張った。さすがと言おうか、手回しがいい。その内容は、メアリーの軍団が緒戦で猟犬隊や騎士団を蹴散らし、わたしたちに再考の機会を与えるために一週間休戦し、その休戦の間、わたしたちでこっそりとマリアを救出するというもの。なるほど、これならうまくいくかもしれない。
しばらくして、メアリーの軍団は侵攻を開始した。わたしも騎士団と猟犬隊を率いて戦場に出る。騎士団の戦意は相当に低そうだから、「手を抜いて戦ったらぶっ殺すぞ」というメッセージを示す必要がある。なお、騎士団の家族はミーの町に集め、猟犬隊に監視させていた。つまり、わたしもマーチャント商会と同じように人質を取っているわけで、マーチャント商会を道義的に非難できないし、そのつもりもない。
両軍が対峙する中、メアリーはただ一騎、進み出て言った。
「今でもまだ間に合います。降伏してください」
メアリーは不思議な光沢を放つプレートメールに身を包み、両腕で槍を構えている。甲冑はファンタジーでよくあるミスリル製だろうか。実物を見るのは初めてだ。
「誰か、あの女を黙らせなさい」
わたしは相変わらず漆黒のメイド服。馬車に乗り、一応、エルブンボウを持ち、(子犬サイズ)のプチドラを膝に乗せていた。
「カトリーナ様、どうか我輩にお任せを!」
猟犬隊から隊員が一人、名乗り出た。名前は知らないが、巨漢で力は強そうだ。隊員はメアリーに一騎打ちを挑み、パワーに物を言わせて特大のメイスを振り回し、メアリーに打ちかかった。しかし、ほんの数合打ち合わせただけで、メアリーの槍に首筋を貫かれ、絶命した。
「ふっ、素人が出しゃばるから……」
誰かは知らないが騎士が一人、忠誠心はなくても武人としての血が騒ぐのだろう、モーニングスターを振り回し、馬を走らせた。しかし、結果は猟犬隊員と同様、プロフェッショナルなこの騎士もメアリーの敵ではなく、簡単に討ち取られてしまった。
メアリーにはそれほど力強さはないが、身のこなしが軽やかで、槍さばきは惚れ惚れするほどに流麗。マリアを救出したあと、マリアには今度はこちらの人質になってもらおうかしら。