御曹司窮する
「諸君、この使者の話が本当であれば、ドラゴニア候は自らの父親を殺すという大罪を犯していることになる。帝国の正式な裁判において、この件をよく吟味する必要があると考えるが、いかがであろうか」
ツンドラ候は巨体を揺すりながら訴えた。なんだか妙な雲行きだ。ツンドラ侯としては、ドラゴニア候の追い落としにつながりそうなネタが出てきたので、とりあえず飛びついてみたということだろうか。よく見ると、ツンドラ侯のすぐ後ろには、(彼の副官だろうか)小柄な男が立ち、精一杯、背伸びをして、ツンドラ侯に何やら耳打ちしている。
「なっ!? 何を言われる、ツンドラ候。私がどうして父上を殺害せねばならぬのか。ツンドラ候ともあろう者が、魔女の戯言に騙されてはなりませぬぞ」
「え~っと…… 戯言かどうかは裁判の中で判明するのではないか。このような重要な話は、この場限りでいい加減に判断してはならないと思う」
ツンドラ候とドラゴニア候はにらみ合った。二人の視線がぶつかり合い、火花が飛び散りそうな状況(なお、最初の「え~っと……」は、ツンドラ侯が副官と思しき小男から説明を受ける間を表す)。
しばらくすると、諸侯の中から、
「私はツンドラ候の意見に賛成だ。こういうことは正式な裁判でハッキリさせるべきだ」
などと、ツンドラ候を支持する者が次々に現れた。
ツンドラ候は支持者に力を得て、
「ドラゴニア候、貴殿にやましいところが何もないのであれば、裁判を忌避することはないであろうな」
「しっ、しかし……」
御曹司の顔色はだんだんと青白くなっていく。それにつれ、ドラゴニア候派の旗色も悪くなっていって、すなわち、ツンドラ候に賛成する諸侯が増えていった。
結局、諸侯の大半がツンドラ候を支持し、帝国の正式な裁判を経るべきだということで、意見が固まった。御曹司は渋々ながら受け入れるよりなかった。
わたしと隻眼の黒龍が本営から出ると、ツンドラ候と仲間の諸侯たちがわたしの周りに集まってきた。
「カトリーナ殿、このような次第なので、場合によっては証人になっていただくこともあろう。ところで、先刻の話だが、もう少し詳しくお聞かせ願えないか」
わたしは、ご隠居様と御曹司の確執のこと、御曹司の騎士団がご隠居様のお城に攻め込んできたこと、その際にエルブンボウ、隻眼の黒龍、カトリーナ・エマ・エリザベス・ブラッドウッドの名前をいただいたことを話した。話が終わると、ツンドラ候は、副官と思しき小男から、何やら詳しい解説めいた説明を受けて、ポンと手をたたき、
「よし、これであのボンボンを葬れるぜ! ありがとうよ」
ツンドラ候とその仲間たちは大喜びし、小躍りしながら、おのおのの陣に戻っていった。