御曹司と対面
本営では、総司令官以下、諸侯連合軍を構成する帝国各地の諸侯が、わたしと隻眼の黒龍を迎えた。総司令官すなわち御曹司は、(おそらくは御曹司の趣味もあるのだろう)総司令官用の派手にしつらえられた椅子でふんぞり返り、こちらに顔を向けようともせず、
「リザードマンめらが、今更、何用かな」
「本日は、諸侯連合軍への最後通牒を伝えに参りました」
「なっ、なに!?」
予想外だったのだろう、御曹司は目を丸くし、その場にいた諸侯たちも驚きの声を上げた。わたしは構わず言葉を続けた。
「王はおっしゃいました。『直ちに降服せよ。そうすれば、命だけは助けてやろう』と」
「降服だと!? 冗談にも限度というものがあるぞ」
わたしはしばらく時間をおき、あからさまに軽蔑するような目つき及び顔つきで、
「あはははは、一度痛い目にあっただけでは分からないかしら。ご隠居様のお城で起こったことをお忘れ?」
御曹司は、ハッとして椅子に座りなおし、わたしの顔を穴があくほど見つめた。
「キ……キサマは……、よく見れば、あの時の魔女! エルブンボウと隻眼の黒龍をどこへやった!!」
ようやく思い出してくれたようだ。ただ、本営にいた諸侯たちは、事態がよく飲み込めないらしく、腕を組んで首をひねっている。
わたしはエルブンボウをかざし、
「エルブンボウと隻眼の黒龍なら、ほら、あなたの目の前よ。今まで気がつかなかった? あなたの目は節穴かしら」
「キサマ、よくもぬけぬけと! 父上を殺害し、侯爵家の家宝を奪って逃亡した挙句、逆賊のリザードマンめらと結託するとは!!」
「わたしはカトリーナ・エマ・エリザベス・ブラッドウッド。エルブンボウと隻眼の黒龍は、ご隠居様より正式に拝領したもの。あなたにとやかく言われる筋合いじゃないわ。それに、ご隠居様を殺害したのはあなたでしょう。勝手に他人を犯人にしないでほしいわ」
「なにぃ! キサマ、わが家名まで名乗るとは、盗人猛々しいとはおまえのことだ!!」
「盗人はあなたよ。もっとも、未遂に終わったけどね。ご隠居様を殺害してエルブンボウと隻眼の黒龍を自分のものにするのは、もともとあなたのアイデアでしょ」
「キサマ、許さん!」
御曹司は怒りで顔を真っ赤にし、帯剣に手をかけて立ち上がった。
その時、巨体を揺らしながら、
「諸君、落ち着きたまえ。今の、この使者の話は重要ですぞ。うやむやにするわけにはいかん!」
と、御曹司とわたしの間に割って入ったのは、「単細胞」のツンドラ候だった。




