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ザ☆旅行記Ⅲ 愉快な仲間たち  作者: 小宮登志子
第6章 南方の紛争
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単細胞

 わたしたちは、もちろんツンドラ侯よりも早く、トカゲ王国軍の陣営に引き返した。迎撃準備の時間は十分にあった。リザードマンたちは、のんびりとしているように見えて、いざというときは素早い。陣地の前面に馬防柵を並べたり穴を掘ったり、本当に、あっという間に戦闘態勢を整えた。

 わたしが感心してリザードマンの仕事ぶりを眺めていると、フサイン部隊長がやってきて、

「相手は『単細胞』のエドワードだそうだな」

「『単細胞』をご存知ですか」

「まあね。ツンドラ候のところで傭兵をしていたことがあってね。あの『単細胞』が相手なら、俺に考えがあるんだが……」

 フサイン部隊長はニヤリとした。


 ツンドラ侯の騎士団が追いついたのは次の日だった。早くから準備が整っていただけに、間延びした感もあるが、練習の時間を確保できたのは幸いだった。練習とは、フサイン部隊長のアイデアで、ツンドラ侯を虜にするための策。

「卑しきトカゲどもめ、皇帝陛下の臣下の末端に名を連ねながら、この狼藉は許されるものではないぞ。このツンドラ侯が成敗してくれよう!」

 ツンドラ候は部隊の前に進み出て、堂々と名乗りを上げた。名乗りを上げるのが諸侯同士が戦う場合のルールらしい(源平の合戦でもあるまいが)。一応、リザードマンの司令官も、ルールに則って、名乗りを上げた(のだろう、多分)。

「☆&❦℡#㈱@%★△%#■☽☆$%……」

 何を言っているのか分からないが、フサイン部隊長が通訳した。


 こうして、ようやく戦闘が開始された。すると、味方の陣から、


 単細胞! 単細胞! 単細胞! ……


 リザードマンが声を合わせ、「単細胞」の大合唱を始めた。これがフサイン部隊長の発案で、ツンドラ侯を怒らせようとする作戦。

 部隊長がツンドラ侯のもとで働いていたとき、傭兵の間では侯爵のことを「単細胞」と言っていたが、本人はそのことをひどく気にしていて、たまたま傭兵たちが集まって「単細胞」とうわさしている現場に出くわしたとき、顔を真っ赤にして怒り出し、死者が出るくらいに大暴れしたという。

 リザードマンたちは、ツンドラ候が来襲するまでの時間、「単細胞」の合唱の練習をすることができた。今、その成果を存分に見せ、実にテンポよく「単細胞」と繰り返している。

 ツンドラ候は兜の上から耳を押さえ、何やら大声でわめきだした。フサイン部隊長の策が当たったのだろう、とりあえずは、相当な心理的ダメージを与えたようだ。

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