言葉の壁
隻眼の黒龍は壁を越え、壁の向こう側で地上に降りた。周りを見ると、リザードマンだらけ。野営用のテントがあちこちに張られ、いかにも最前線で戦争の真っ最中といった雰囲気だ。
「ねえ、プチドラ、いきなりこんなことをして大丈夫?」
「大丈夫なはずだよ。リザードマンの間では、ドラゴンは、自分たちが信仰している神様の第一の使いということになってるんだ。だから、ほら」
なるほど、よく見ると、リザードマンたちは、みんな、地面に頭をこすり付けるように平伏している。
わたしは地面に降り、
「プチドラ、ここにいる間は、小さくならないで今の姿かたちでいる方がよさそうね」
「うん。ぼくもそう思う」
やがて、リザードマンの群れの中から、抜きん出て体躯の大きいリザードマンと、ひと際目立つ派手派手衣装のリザードマンが、背後に配下をぞろぞろと従えてわたしたちに近寄ってきた。将軍と軍師が幕僚を連れて、といったところだろうか。
リザードマンたちは、深々とわたしたちに一礼した。そして、おそらくは彼らの代表として、体の大きなリザードマンが話しかけてきた。でも……
「@▽:★♥%*+=*♨$」
な……なに? 何を言っているのかサッパリ分からない。
「プチドラ、お願い」
「任せて」
本来の隻眼の黒龍姿のプチドラは、リザードマンと会話を始めた。この前はオークかゴブリンの言葉を話していたっけ。一体、何カ国語ができるのだろう。
わたしは、しばらくの間、首を左から右、右から左にと行ったり来たりさせ、隻眼の黒龍とリザードマンの顔を交互に眺めていた。どんな話になっているのか、サッパリ見当がつかないが、雰囲気は悪くなさそうだ。時折、リザードマンから、「ハッハッハッ」と、笑い声のような声(笑い声は全種族共通か?)も漏れる。
やがて、リザードマン側から大きな声で歓声が上がった。隻眼の黒龍はニッコリとしてこちらを向き、
「話はついたよ。義によって助太刀すると言ったら、大喜びでOKしてくれた」
「そうなの、それはよかった」
本当は、義でも善でも正でも信でも仁でもなく、簡単にトカゲ王国に負けられたら、安全保障上困るだけなんだけど、相手が喜んでくれるなら、義勇軍でもいいだろう。
というわけで、その夜、早速、わたしと隻眼の黒龍を歓迎するためと称して、酒宴が催された。




