トカゲ王国成立史3
北部の同盟と中部の同盟は、何年も戦争を続けました。お互いに国力の限界を超え、帝国の野望の実現は時間の問題でした。帝国は、北部の同盟の盟主、バゥワーバのラビーブに爵位(子爵)を与えました。つまり、バゥワーバの町が帝国に編入されたのです。盟主といっても実質的には帝国の傀儡政権で、帝国は、ラビーブを通じて、リザードマンの領域全体への間接支配を狙っていたのでした。しかし、帝国の野望は、ある軍事的・政治的天才の出現により、頓挫させられることになります。
南部の4つの都市国家は、戦争の間、中立を保ち、北部の同盟へも中部の同盟へも食料や生活必需品を輸出し、大利を得ていました。帝国にとっては運がなかったとしか言いようがないのですが、最南端の町ハッドゥに、その天才が現れたのでした。
その名はサイフッディーン。親は町の耕地の半分を所有する豪農でしたが、サイフッディーン自身は、日夜、無頼の仲間を連れて遊びまわっているドラ息子でした。彼は、あるとき急に思い立ち、仲間を率い、町の執政官を殺し、自らが執政官に収まりました。そして、あっという間に南部の4つの町を征服しました。さらに中部にも進出し、短期間のうちに中部全域を占領、金鉱も手中に収めました。これを機に、サイフッディーンは「リザードマンの領域の王」を名乗ることになります。
サイフッディーンは北部の同盟への攻撃を開始しました。ただし、この時点では、帝国はそれほど脅威を感じていませんでした。バゥワーバのラビーブに大軍を授ければ、田舎者のサイフッディーンなど簡単に撃破できると思っていたのです。ところが、予想に反し、簡単に撃破されたのはラビーブでした。北部はサイフッディーンに占領され、ラビーブとその一族は捕らえられてしまいました。
帝国はちょっぴり慌て、帝国南部の諸侯にサイフッディーンの討伐を命じましたが、あっさりと打ち破られました。負け戦が続いたので、帝国は、今度こそ本気になって、全国の諸侯に号令をかけ、帝国軍(諸侯連合軍)を編成し、遠征軍として送り込みました。ところが、遠征は惨憺たる結果に終わりました。
帝国軍を撃退したサイフッディーンは、ラビーブの娘と結婚し、その息子(サイフッディーン2世)が帝国の子爵の地位を継ぎました。帝国も承認せざるを得ませんでした。以後、サイフッディーンの家系は、(形式上)帝国に対しては臣下として仕え、リザードマンの領域内では王として君臨することになります。
サイフッディーンの軍団が強力だったのは、彼の編み出した新戦術によります。サイフッディーンは南部で多数生息していた二足歩行の小型恐竜に目を付け、騎乗用に飼い馴らしました。それは足の指の間に水かきがついていて、湿地や沼地でも沈まずに、高速で駆けることができました。
サイフッディーンの軍団は防具をつけずに刀や槍だけを持って恐竜に乗り、機動力で帝国を圧倒しました。重武装の帝国軍は、湿地や沼地では足を取られて思うように動けず、多大な被害を出しました。
以上、駆け足でしたが、トカゲ王国成立史でした。今後のご参考になれば幸いでございます。