トカゲ王国成立史2
リザードマンの領域の平和が破られたのは、金鉱が発見されたからです。もともとこの地の沼地や湿地からは、微量ながら、広範囲にわたって砂金が採れていました。あるとき、このことを知ったヒューマンの山師が、リザードマンの領域を数年かけて探索し、金鉱を発見しました。砂金は、その金鉱から水の流れ乗って、流出してきたものだったのです。これまで何もなかったところに、いきなり宝の山が沸いて出たわけですから、当然のように争いが起こります。こうして、平和の時代はあっけなく終焉を迎えました。
金鉱は、中部のマァリドゥの町の近郊にありました。町の支配者アブドゥッラーは山師と契約を結び、取り分を双方50%とし、金鉱の開発を進めました。しかし、程なくして山師は謎の死を遂げます(多分、暗殺です)。こうして金鉱はアブドゥッラーが独占することになりましたが、他の都市国家は「金鉱による利益はリザードマンの領域が全体として享受すべき利益である」と主張し、異議を唱えました。
マァリドゥの町は、単独で他の都市国家全部を相手にできるほど強力ではありませんでした。そこで、アブドゥッラーは、中部の二つの町に金鉱の利益をそれぞれ30%ずつを与えるという条件で、(三国)同盟を結びました。さらに、金鉱の利益を元に帝国から最新の武器や魔法装備を購入し、軍備の充実に努めました。
一方、北部の3つの町も同盟を結び、中部の同盟に対抗します。実は、この同盟には、帝国が裏でこっそりと援助していました。金鉱が発見されたという話は帝国の政治中枢にも伝わっていて、皇帝も帝国宰相も、この金鉱を自分たちのものにしたいと考えたのです。そこで、リザードマン同士を戦わせて弱らせ、帝国軍を送り込んで占領してしまおうと考えたのでした。
やがて、帝国側の思惑通り、リザードマンの領域では北部の同盟と中部の同盟による戦争が始まりました。戦闘は一進一退の経過をたどりました。なぜなら、一方が優勢になれば、もう一方に対して帝国が有形無形の援助を行ったからです。武器の供与のほか、ヒューマン傭兵の提供、帝国南部諸侯の軍事介入等々、あの手この手を使って戦争を長引かせました。
困ったのはマァリドゥのアブドゥッラーでした。金鉱で莫大な富を手にするはずだったのに、現実には、莫大な戦費のために財政は火の車でした。せっかく金を産出しても、すべて、武器の代金や傭兵の給与等に充てられ、手元にまったく残らなかったのです。それでも、今更戦争をやめるわけにはいかないので、住民から重税を取り立てました。このようなことで、住民の生活は金鉱が発見される前よりも困窮しました。そのうち、アブドゥッラーは陰謀によって殺されてしまいます。
北部の同盟では、状況はより深刻でした。もともと大した産業もないところで、支払い能力を超える大量の援助を受け取ってしまったものですから、さあ、大変。支払いが滞ると、帝国の指導を受けたり、帝国の役人を財務担当官として受け入れたりしなければなりませんでした。さらに、ヒューマンの官僚が北部の同盟の政治を取り仕切ったことから、北部ではリザードマンに対するヒューマンの優位が確立し、北部一帯は、植民地支配みたいになっちゃったりしました。




