トカゲ王国成立史1
ドラゴニア候を総司令官とする帝国諸侯連合軍が討伐に向かったトカゲ王国とは、リザードマンが建国した国で、言葉や文化や習慣などはヒューマンと根本的に異なっています。ですが、歴史的経緯から帝国に臣従していまして、国王は帝国の爵位(子爵)を持っています。
皆様、突然ですがエレンです、こんにちは。ミーの町に来てから、特に仕事はなく、ハッキリ言ってヒマです。カトリーナさんは隻眼の黒龍に乗って南方に行っちゃったし、ドーンさんも部下を連れて任地に向かったし、メアリーはマリアの面倒を見てるし、でも、わたしには特にすることはありません。
とはいえ、カトリーナさんの代理を仰せつかったからにはがんばらないと、というわけでもないのですが、カトリーナさんが南方のトカゲ王国に到着するまでの間、特別講義「トカゲ王国成立史」を開講したいと思います。少しの間ですが、お付き合いいただければ、幸いに存じます。
帝国成立期、リザードマンは、帝国の(南方の)領域外に生息する未開・野蛮な種族とされていました。生息地の気候は亜熱帯性の高温多湿、湿地帯や沼地が多く、ヒューマンにとっては快適とはいえない居住環境です。でも、リザードマンにとっては、その方が住みやすいのでしょう。
その後、時代が進むにつれ、帝国の先進的な技術がリザードマンの間にも伝わり、それにより、リザードマンは急速な発展を遂げることができました。やがて、リザードマンの領域で国家らしいものが生まれました。ただ、国家といっても、一つの町がそのまま一つの国という都市国家です。帝国の史料によれば10の都市国家があったことになっていますが、実際にはもう少し多いかもしれません。
リザードマンの領域に国家(政治的共同体)が生まれると、帝国南部の住民や地方領主との交流、場合によっては摩擦なども発生します。リザードマンはヒューマンより若干小柄ですが、身体能力はヒューマンを凌駕し、知性は同程度、中には魔法を使える者もいて、総合力ではリザードマンの方が上です。とはいえ、好戦的ではなく戦争よりも交易を望んだので、リザードマンの都市国家群と帝国は平和共存することができました。その頃は、リザードマンの都市国家は帝国領域外の外国とされていました。
交流が進んでいくうちに、リザードマンの領域にヒューマンが移住するという事態が頻発するようになりました。これは主に、帝国南部で領主の重税に耐えかねた農民が一家で夜逃げして、リザードマンの領域に住みついたことが原因です。反対に、リザードマンが帝国領内に住みつくことは、あまりありませんでした。リザードマンの領域の北部では住民の40~50%が、中部では住民の15~25%がヒューマンだったそうですが、両者の間に目立ったトラブルはなく、それなりにうまくいっていたようです。
でも、リザードマンの領域の平和はいつまでも続きませんでした。実は、あるものが発見されたことが原因なのですが……




