銀色の使者
指揮官は副官を連れ、二人だけで館にやってきた。意外にも指揮官は女性、しかもエルフだった。独特のとがった耳、銀色の髪、透き通るような白い肌、優雅な物腰、なんだか理由もなく嫉妬に駆られるくらいにうらやましい。見た目は人間換算で20歳前後だろうか(でも、実年齢はエルフだから……)。ただ、どういうわけか、その表情はどこかさえない。なお、副官は、これといって特筆すべき特徴のない小男だった。
指揮官は銀色のマントをなびかせ、一礼して言った。
「わたしはメアリー。マーチャント商会ウェルシー派遣軍の司令官です。本日は、帝国宰相及びマーチャント商会会長のメッセージを伝えに参りました。あの……」
メアリーはきょろきょろと辺りを見回し、
「あなた方の代表者はどちらですか?」
「目の前にいるでしょうが」
「あなたが……、これは失礼いたしました」
メアリーはあわてて片膝をついた。わたしは今でも漆黒のメイド服だし、この場に玉座のような大層なものはない。気がつかなくても無理はない。
「では、申し上げます。直ちに武装解除して伯爵領を……」
メアリーは、言いかけて話を止めた。子犬サイズのプチドラがちょこちょこと歩き出し、メアリーのもとへ歩み寄ったためだ。メアリーはプチドラを抱き上げ、微笑みかけた。そして、プチドラをこちらに返し、話を続けた。
「直ちに武装解除し、伯爵領を引き渡してください。聞き入れていただけない場合、本意ではありませんが、戦いが始まります」
「そんな話なら、交渉の余地はないわ。NOに決まってるでしょ」
「どうしても?」
「当然」
「そうですか。ならば仕方がありません。軍を進めます」
メアリーは静かに向きを変え、こちらに背を向けて歩き出した。ドーンと猟犬隊は剣の柄に手をかけたが、わたしはそれを手で制した。寂寥感(ある種の絶望感?)を漂わせたメアリーの表情やうしろ姿を見ていると、「斬り捨ててしまえ」と命じる気にならなかったから。
ポット大臣は、メアリーとのやり取りの間、物陰に隠れてブルブルガタガタ震えていた。理由をきくと、
「メアリーといったら、マーチャント商会武装組織の中では、剣も魔法も最強クラスですよ。そんなすごいのが攻めてくるなんて、ああ、私はどうしたら……」
と、頭を抱えてうずくまってしまった。それほどすごいなら、いきなり攻撃しなくてよかった。猟犬隊では荷が重いだろう。
「プチドラ……」
わたしはプチドラを呼んだ。しかし、珍しいこともあるもので、いくら呼んでも現れなかった。なんだか調子が狂うけど、プチドラのことだ、そのうち空腹になれば戻ってくるだろう。