いざ南方へ
次の日、わたしは執務室にドーン、ポット大臣、エレン、メアリー、マリアを呼んだ。これは、言うまでもなく、プチドラ発案による作戦(「秘策」)の指示。ただ、そんなに大層なものではない。わたしとプチドラ(隻眼の黒龍モード)がトカゲ王国軍に合流してこっそりと手を貸し、ドーン率いる猟犬隊が後方からゲリラ的に帝国軍の補給線を脅かすという(通商破壊作戦の陸上版?)、ささやかかつシンプルなものだ。ポット大臣、エレン、メアリー、マリアは留守番で、わたしがいない間はエレンに代理を務めてもらうことにした。エレンなら、ひととおりのことはソツなくこなせそうだし(実際問題、ほかに頼める人はいないし)、何か事件が起こったとしても、メアリーとマリアがついている。少々のことなら、なんとかなるだろう。
「うーん、ゲリラ的にですか……」
ドーンはちょっぴり不満げに言った。
「そうよ。輜重隊以外は相手にしないようにね。武器や食料は鹵獲品から調達しなさい。重要なことは、絶対に素性を明かさないこと、タダの山賊か野盗ということにするの。それと、現地に同業者がいれば、適当に手なずけて協力するように仕向けるのよ」
「カトリーナ様がそうおっしゃるなら……」
ドーンはしぶしぶ従った。なんだかちょっと心配だけど、(ありていに言えば)こういう卑劣な作戦は、ドーン以外に適任者がいない。
今回の作戦の主眼は、帝国の諸侯連合軍を南方に釘付けにし、消耗させることにある。マーチャント商会最強の精鋭部隊も諸侯連合軍に参加しているということだから、南方が忙しい間は、こちらに構う余裕はない。しばらくの間は平穏無事なはずだ。
作戦指示が終わると、ポット大臣はいつもの行政事務に戻り、ドーンは作戦参加者の人選を始めた。メアリーとマリアはいつものように仲むつまじく部屋に戻っていった。ただ一人、エレンだけは、あたふたと落ち着きのない様子で、廊下を行ったり来たりしている。
「どうしたの?」
「だって、わたしがカトリーナさんの代理なんて……」
「難しく考えることないわ。たいていのことはポット大臣がしてくれるし、メアリーがいれば防備は安心だし」
「でも……」
「だから、わたしみたいに、面倒はポット大臣に押し付けて、自分のしたいことをしていればいいのよ」
そんなに心配することはないと思うけど、心配性のエレンらしい。
ともあれ、その日のうちに、出発の準備は整った。ドーン以下、猟犬隊の精鋭は、黒いフード付ローブに身を包み、館の中庭に集結した。わたしが全員と握手して無事を祈ると、精鋭はひっそりと出発した。
猟犬隊の出発を見届けると、プチドラは本来の隻眼の黒龍の姿に戻り、大きな翼を左右に広げた。エレン、メアリー、マリアが見守る中、隻眼の黒龍はわたしを乗せ、南方に向けて飛び立つのだった。




