不運な使者
使者は尊大な態度で急ごしらえの謁見の間にふんぞり返っていた。
「皇帝陛下の使者をなんと心得ておるか! わしを待たせるとは何事か!」
「申し訳ございません。今しばらくお待ちください」
ポット大臣は、特にへりくだることも逆に偉ぶることもなく、適切にかつ官僚的に応対していた。
わたしはプチドラを抱き、ドーン、メアリーを連れ、謁見の間に赴いた。もちろん、最近お気に入りのオレンジ色のメイド服を着用し、およそ一国のトップとしては似つかわしくないいでたちで。
「使者ごときが何をいきがっている。用があるならきいてやるから、さっさと言いいなさい」
わたしは急ごしらえの安物の玉座に腰掛け、無造作に言い放った。別に深慮遠謀があったわけではない。相手に合わせたまでのこと。
使者は、当然のように、烈火のごとく怒り出し、
「この小娘が! 畏れ多くも皇帝陛下の使者を侮辱するとは言語道断!!」
わたしは目でドーンに合図を送った。すると猟犬隊が帯剣に手をかけ、使者を取り囲んだ。使者はただならぬ気配に恐れをなしたのか、
「ま、待て…… 待ってくれ…… 恐れ多くも皇帝陛下の使者を斬ったらどうなるか、分かっておるのか」
「そんなこと、斬られる者が心配することかなぁ?」
ドーンが使者の耳元でささやくと、さっきの元気はどこへやら、使者は「ひぃ」と小さく悲鳴を上げ、すっかり大人しくなってしまった。
使者は猟犬隊に剣を突きつけられ、ブルブルと震えながら口上を述べた。要は、「わたしたちがウェルシーを不法占拠していることは明らかであるから、即座に武装解除して降服し、ウェルシーを引き渡せ。さもなくば武力行使も辞さない」ということだ。
言い終わった途端、使者は猟犬隊にボコボコに殴られ、半殺しにされたうえで館からたたき出された。使者の従者が彼を適当に都まで送り届けるだろう。
それを見ていたメアリーが怪訝な顔で、
「カトリーナ様、使者をこのように扱うのはいかがなものかと……」
「わたしたちがウェルシーを不法占拠している犯罪組織なら、帝国公法に使者の扱いに関する規定があるかどうか知らないけど、その適用は受けないでしょ。わたしがウェルシー伯なら話は別だけどね」
「確かにそのとおりですが……」
ヘタレな使者だったが、帝国が正式に武力行使に言及したのは、すぐにでも攻めるぞという意思表示だろうか。あるいは単なるハッタリか。ドーンたちは喜んで「軍事演習をする」といって出かけたが、メアリーは怪訝な顔をして、
「おかしいですね。今現在、帝国にそんな余裕があるとは思えませんが」
帝国にそんな余裕はない? 一体、どういう意味だろう。




