捕虜の運命
今回の戦いが終わり、メアリー、マリア等々、多くの人材を配下に加えることができた。マーチャント商会ウェルシー派遣軍からは、大量の武器や兵糧を取り上げたので、収支決算は大幅な黒字。ポット大臣によれば、「帝国公法上、敗れた軍が保有していた武器や兵糧の鹵獲は、勝者の権利として認められる」とのことだ。ついでに、(ポット大臣には内緒で)ウェルシー派遣軍の兵士が個人的に所持していた金品や宝石・貴金属の類も取り上げたのだが、これは帝国公法の類推適用として認められるだろうか。しかも、それに加えて……
「ドーン、頼むわ。手はず通りにね」
「任せてください」
ドーンたち猟犬隊は、武装解除されたウェルシー派遣軍の護衛の任に着いた。帝国公法上、勝者には鹵獲の権利と同時に、捕虜を国外の安全な場所まで移送する義務もあるらしい。でも、わたしたちは法的にはアウトローな無法者集団、帝国公法などに構うことはない。
わたしたち(騎士団を含め)は、ドーンたち猟犬隊を残し、一足先にミーの町に凱旋した。到着するや、住民の歓呼の声に迎えられたけれど、これはもちろん動員をかけた効果が大きい。
武装解除されたウェルシー派遣軍のその後の運命については、次のとおり(ドーンの報告による)。
「さあ、おまえら、ここでUターンだ」
国境付近に差し掛かると、ドーンは捕虜の行列を遮って言った。「何をバカな」、「ふざけるな」など、捕虜が口々に文句を言うと、ドーンは剣を抜き、
「逆らう者は、こうなる!」
いきなり、近くにいた捕虜を斬り殺した。
「さあ、とっとと歩け! 言われたとおりにしないとぶっ殺すぞ!」
捕虜に選択の余地はなかった。付近には町も村もない。通りがかりの旅人もいない(いたとしても、口封じのためドーンに殺されるだけ)。捕虜は既に武器を取り上げられ、戦闘能力は失われている。
こうして、捕虜の死の行進が始まった。少しでも後れると、容赦なく斬り殺された。行き先は収容所、ゴブリンやオークと一緒にタダ働きしてもらおう。
数日後、わたしがプチドラをひざの上に乗せ、エレン、メアリー、マリアとともに午後のティータイムを楽しんでいると、
「カトリーナ様、作業が終わりました」
ドーンが戻ってきた。そして、わたしの耳元でヒソヒソと簡単に顛末を報告し、そそくさと立ち去った。
「今の人ってドーンさん? よく見ると、結構かっこいいね」
エレンは無邪気に言った。捕虜を収容所に送り込んだことは、この3人に知らせていない。これは、プチドラでさえ知らない、わたしと猟犬隊だけの秘密だ。多分、ばれることはないだろう。ドーンには「できるだけ危険な仕事をさせ、できるだけ早く消耗し尽くすように」と言ってある。強制労働の過程で死んでしまえば証拠は残らない。ただ、歴史の闇の中に消えゆくだけ。




