帰還
わたしたちは、休戦協定の翌日から数えて7日目の午後に戻ることができた。出発したときと同じように、猟犬隊・騎士団とマーチャント商会ウェルシー派遣軍が対峙している。ドーンたちは言いつけを守ることができたようだ。ともあれ、これで一安心。
エレンは上空から両軍を見下ろし、
「すごいね~。それでカトリーナさんがその一方の女王様なのね」
「厳密には女王様ではなくて……」
ここに着くまでに、二人にはこれまでの経緯を簡単に説明しておいたけど、ミーハーなエレンらしく、実際に軍隊を見て大いに感じ入ったようだ。
隻眼の黒龍が上空を何度か旋回すると、地上の兵たちはガヤガヤと騒ぎ出した。わたしたちを目に留めたようだ。猟犬隊・騎士団の側からは歓声が上がり、手を振る者もいるくらいだった。ウェルシー派遣軍側からはどよめきが起こったが、さすがに精鋭部隊、逃亡を図る者はいない。
メアリーは部隊の最前列まで馬を進め、静かにわたしたちを見上げていた。相変わらず、背の低い副官がピッタリとついている。
隻眼の黒龍はゆっくりと高度を下げ、猟犬隊・騎士団の背後の草地に降り立った。エレン、マリア、わたしを地上に降ろし、子犬サイズの小さなプチドラに姿を変える。そこにドーンが数名の幹部を従えてやってきた。
「おかえりなさいませ、カトリーナ様。言いつけどおり、この一週間、ほんの1センチたりとも動きませんでした」
「ごくろうさま。よく我慢できたわね」
「そりゃ、そうです。我々だけで戦っても、とても勝てる相手では……あっ、いや、これは、そういう意味ではなく、つまり……」
「なるほどね、最後まで言わなくていいわ。賢明な判断よ。こっちの用も済んだわ」
わたしは、こっそりと姿を消した目的がメアリーの妹、マリアを救出することであり、その目的を達したこと、ついでにかつての親友、エレンを連れてきたこと等、この間の事情を簡単に説明した。ドーンは「おお」と感激したような声を上げ、
「なるほど、それはすごい。それで、これからどのようになさいますか?」
「妹のマリアがこちらにいる以上、メアリーがわたしたちと戦う理由はないわ。だから、このあたりで手打ちにしましょう。メアリーに『この前の返答をしたいので一度会いたい』って、言ってきてくれない? あまり余計なことを言ってはダメよ」
「わかりました。今すぐに」
ドーンは馬に乗り、相手方の陣営に向かった。
「あの……、姉は……」
マリアが両手で胸を押さえ、不安げな表情で言った。
「大丈夫よ。すぐに会えるから、心配しないで」
わたしは、取り立てて意味があるわけではないが、そっとマリアを抱き寄せた。




