執念のメイド長
暖かな午後の日差しとさわやかな風を受け、わたしたちは小一時間ほど、気分よく飛んだ。急がなくても明後日のうちには着きそうだ。
「ねえ、プチドラ、そろそろ休憩しない?」
「そうだね。丁度、頃合かな」
わたしたちが地上を見回し、降りられそうなところを捜していると……
……ズドーン!……
突然、隻眼の黒龍の周囲ですさまじい炸裂音を伴い、爆発が起こった。
マリアは指を組んで目を閉じ、
「メイド長です。箒に乗って空を飛び、わたしたちを追いかけてきたようです」
相手との距離、相手の位置、魔力の波動等を魔法で測定したらしい。マリアがいてくれると結構便利だ。
マリアによると、メイド長は性格に(非常に)問題があるが、その点を除くと、本当は優秀な魔法使いだそうだ。さっき炎に包まれた時は、魔法の力で身を守ったのだろう。城内の消火が済むと、マリアに逃げられたら一大事というわけで、あわてて追いかけてきたようだ。
……ズドーン!……
「きゃっ!」
再び炸裂音が響き渡り、エレンが悲鳴を上げた。
「マリア、この爆発はなんなの!?」
「メイド長の魔法です。魔法の矢といいますか、まあ、そのようなものです」
魔法の矢というよりも、空対空ミサイルみたいだけど……
「追いつかれてはまずいわ。プチドラ!」
隻眼の黒龍は、急遽、スピードを上げた。でも、あまりに急だったので、わたしは危うく振り落とされそうになった。
もし隻眼の黒龍が本気を出したなら、メイド長に追いつかれることはないだろう。でも、わたしたち3人を乗せている以上、速度には自ずから限度がある。このままスピードを抑えて飛べば、追いつかれるのは時間の問題だろう。
「落ちろ!」
わたしは後ろを向いてエルブンボウを構え、矢を放った。準備してきたのは正解だったけど、距離は遠いし目標は動くし無理な姿勢だし、いくら命中精度が通常のエルブンボウの3倍とはいえ、メイド長にはかすりもしない。
「困ったわ。どうしようかしら」
すると、マリアが矢筒から矢を1本引き抜き、
「1本、お借りしますわ。そしてこれを……」
と、何やら呪文のように口をモゴモゴと動かした。
「これを使ってみてください。魔法の力を込めました」
わたしは渡された矢をつがえ、弦を引き絞った。弦を放すと、矢は一直線にメイド長めがけて飛んだ。メイド長がひょいと身をかわし矢をよけようとした、その瞬間、矢に込められた魔法のエネルギーが解放され、大爆発。メイド長をはるか後方に吹き飛ばしてしまった。
マリアはそのことを魔法で感知したのか、にっこりと微笑んだ。




