ハーレムの真実
気になっていたのはハーレムの住人のこと。このお城に来て、まだ一度も見ていない。さぞかし絶世の美女がそろっているのだろう。
「エレン、このお城って、マーチャント商会会長のハーレムでしょ」
「そうだけど……」
「ついでだから、ハーレムを見学していきたいわ」
「そう? 見ていて、あまり気持ちのいいものではないけど、いい?」
「いいわ。是非、見てみたい」
こう言われると、見ていかなければ、なんとなく損をした気分になる。見ていて気持ちのよくないものって、どういう意味だろう。
「後悔するかもしれないけど……」
エレンは念を押すように言って、歩き出した。何度か、扉に付けられたスリットにエレンのカードを差し込んでロックを解除しながら、しばらく進むと、
「ここから先がハーレムよ。会長の妻たちの部屋」
エレンは大きな扉の前で足を止めた。そして、
「考え直すなら最後のチャンスだけど、本当に、いいの? 絶対に??」
わたしは黙ってうなずいた。ここまで来た以上、何が出ようと(メデューサだったらヤバイけど、プチドラがなんとかしてくれるだろう)、見ていかなければ後悔するに違いない。
ところが……
「ぎゃっ!」
思わずわたしは鳥のような悲鳴を上げた。扉の向こうには、巨大な肉塊がいくつも転がっていた。一応、手や足や目や鼻や口がついているが、とにかく肉塊としか言いようがなかった。その肉塊のすぐそばで、オレンジ色のメイド服を着た小柄な娘たちが、シロアリの女王アリの世話をする働きアリのように、忙しく働いていた。
「あの、エレン、これは……」
「やっぱりびっくりした? 会長は太った人が好みなの。それも、常軌を逸したほどに」
マーチャント商会会長は変態的な趣味の持ち主らしい。ハーレムの妻たちの体重は平均300キログラム、この部屋に全員を集め、一日中運動させずに食べさせてばかりだそうだ。
「もういいわ。行きましょう……」
やめておけばよかったと、かなり後悔。こんな時だけはマリアがうらやましいような気がする。とにかく用は済んだから、さっさと帰ろう。今から戻れば、タイムリミットには余裕で間に合うだろう。
その時、
「誰だ、おまえは! それにマリア、どうしておまえがここにいる!?」
背後からヒステリックな声が聞こえた。予想がつくが、振り向くと、果して、アイボリーのメイド服を着た御婦人が乗馬用の鞭を持ち、肩を怒らせて迫ってきていた。