マリア
ドアが開き、独特のとがった耳、銀色の髪、透き通るような白い肌をしたエルフの女性が姿を見せた。顔つきはメアリーによく似ている。
「マリア!」
「その声は、おじ様ですね。まさか、もう一度お会いできるなんて……」
マリアは腕を広げ、何かを探るように、すり足で進み出た。なんだか、ぎこちない動きが気になる。プチドラがマリアの胸に飛び込むと、マリアは危うくプチドラを落っことしそうになりながら、なんとか抱きとめた。
「おじ様、なんだか随分と小さくなられたような……」
プチドラはおじ様と呼ばれているらしい。ドアの反対側では、白っぽく輝くカードがスリットに刺さっている。シルバーではなくゴールドでもない。とすると、エレンも知らない秘密のプラチナカードだろうか。
「マスター、この『ひと』がマリアだよ」
プチドラが紹介すると、マリアは片手でプチドラを抱えながら、もう一方の手をわたしに向けて差し出した。すらっとした長い指には、思わず見とれてしまう。
「はじめまして、カトリーナです」
と、わたしも握手しようと手を出した。が、どうもうまくいかない。マリアの手が何度か宙に舞った。プチドラはそれを見て、ピョンとわたしの肩に飛び移り、耳元でささやいた。
「実は、マリアは目が見えないんだ。いざとなれば、魔法でカバーできるけどね」
「えっ!?」
さっきからそんな気がしていたけど、一応、衝撃的な事実。でも、それはそれで、そういうものとして受け入れなければ仕方がない。ともあれ、わたしはマリアの手を捕まえ、ようやく握手を交わすことができた。
「マリアです。魔法を使わない時には、いろいろと面倒をおかけするかもしれないですが……」
「いいのよ。とにかく、このお城から脱出よ。お姉さまが待ってるわ」
「姉が?」
わたしはマリアの手を取り、ゆっくりと部屋を出た。廊下では、メイド長が白目をむいて横たわっている。わたしはシルバーのカードをメイド長のポケットに入れ、ドアをきっちりと閉めた。マリアがいなくなったことに気付くのが、ほんの少しでも遅れてくれればいい。
その時、マリアがしっかりとした足取りで、わたしの前に進み出た。
「姉に会えるのでしたら、早く。塔の中だけなら道は分かります」
さっきとは違って、マリアから危なっかしさがなくなっている。わたしが少し違和感を感じて足を止めると、プチドラは小声で、
「さっきも少し話したけど、マリアが魔法を使えば、対象と自分の距離や方向を正確に測ることができるんだ。普段、必要のない時には使わないけどね」
なるほど、そういうことなら話は分かる。魔法をレーダーのように利用できるなんて、便利な使い方があったものだ。
マリアを助け出すことができた。あとはエレンと落ち合って逃げるだけだ。