予想通りのモンスター
古い換気扇のような回転音の主は、お約束のモンスターだった。ただし、生物ではなく魔法機械で、大きな目のようなものが一つ付いている大きな風船の上にプロペラが回り、左右から触手が二本伸びている。モンスターはフワフワと床から1メートル程度の高さに浮かび、魔法のIDカードを所持していない者を排除するようプログラミングされているのだろう、わたしたちにゆっくりと迫ってきた。
「でも、なんなの、あれ……、ふふふ……」
モンスターのユーモラスな形状に、ふと、わたしの口から失笑が漏れた。それほど強そうに見えない。守衛を雇うより魔法機械の方が安上がりということだろうが、コソドロを排除するくらいなら十分でも、ドラゴンが相手では荷が勝ちすぎる。
なお、SF的設定であれば、魔法機械が一体でも破壊された場合には侵入者を知らせる警報が鳴り、更に強力なモンスターや警備兵が現場に駆けつけるというパターンが考えられるところだが、ファンタジーの世界でそこまでは気の回しすぎだろう。
「プチドラ、Fire!」
「は~い」
プチドラは胸を膨らませて大きく息を吸い込み、口から光の球をふき出した。青白い光は目にも留まらぬ速さでモンスターを直撃し、モンスターは倒れて動かなくなった。子犬サイズでも威力は相当なものだ。
勝負はあっけない形でついた。わたしとプチドラは、黒焦げに半ば灰になったモンスターの死体(というのだろうか?)を適当に片付けた。
その後、わたしとプチドラはさらに城内をさまよった。進めば進むほど迷走具合がひどくなっていくような気がする。でも、今さら引き返したとしても、もとのところに戻れるわけがない。
「マスター、あれを見て」
プチドラが通路脇に設けられたバルコニーから身を乗り出し、わたしを呼んだ。バルコニーはお城の中庭に面していた。
「まあ、あれは……」
中庭の中心には大きな塔が聳え立っていた。でも、塔は周囲から孤立し、塔に続く通路は見当たらず、周囲には金属製の高い柵が設けられている。
「ちょっと行ってくる」
プチドラは翼を広げ、空中に浮かび上がった。なるほど、空から塔に侵入するなら通路は関係ない。
しかし…… ドン! アイタタ……
プチドラは、飛び上がるとすぐ、見えない壁に顔を打ちつけ、墜落した。
「プチドラ、大丈夫? 鼻血が出てるわよ」
わたしはプチドラを抱き上げた。いわゆるひとつの結界だろう。所定の経路(秘密の地下道でつながっているのだろうか)を通らないと塔の中に入れない構造のようだ。この分だと、この町に来たときに直接空中から侵入していたとしたら、結界に阻まれて、場合によってはひどい目に遭っていたかもしれない。
プチドラは悔しそうに歯がみしている。目的地を目の前にして足踏み状態、残された時間は多くない。