暖かな日差しを浴びて
ポカポカと暖かい日差しを浴びながら、
「えいっ、えいっ、えいっ!」
館の中庭で、筋骨たくましい若者の掛け声が響く。今日は、わたしの思いつきで催された猟犬隊の観閲式。忠勇なる猟犬たちは、日頃の訓練の成果を存分に披露していた。
「いかがですか、カトリーナ様」
バルコニーでその光景を眺めていたわたしの耳元で、猟犬隊隊長アーサー・ドーンがささやいた。
「まあまあね」
悪くはないが、まだまだこの程度では心許ない。基本的に、猟犬隊は軍隊ではない。帝国が兵を挙げて押し寄せてくれば、猟犬隊では防ぎきれないだろう。わたしの傍らでは子犬サイズのプチドラがまどろんでいる。隻眼の黒龍モードで戦うとしても、帝国全体が敵では、いくらなんでも荷が勝ちすぎるだろう。
ご隠居様のところで手に入れた隻眼の黒龍とエルブンボウ、この地で知り合ったドーンとその仲間たちのおかげで、わたしは、どうにかウェルシー伯領を手に入れることができた。とはいえ、帝国の法に照らせば、不法に伯爵領を占拠しているだけなので、いつ討伐軍が送られてもおかしくない。
その時、
「カトリーナ様、ただいま戻りましてございます!」
大臣のジョン・ポットが息を切らせて駆け込んできた。
「どうだった? 帝国宰相はなんと?」
「ダメでした。けんもほろろに断られました。宰相はこちらから用意した手紙を読みもせず引き裂き、危うく私もその場にいた廷臣たちに袋だたきにされるところでした」
「やっぱりね。そうなると思ったわ」
しばらく前、わたしは皇帝と帝国宰相宛に手紙を書き、ポット大臣にそれを持たせて帝国の都に派遣していた。手紙の内容は、「わたしを今すぐ無条件でウェルシー伯に任じよ」というもので、常識的には(常識以前の問題かもしれない)受け入れられるはずのないものだった。
大臣には、帝国の政治を牛耳る帝国宰相との交渉とともに、(素人に多くは期待できないとしても)帝国の内部事情の偵察を命じていた。大臣によれば、「一介の流れ者がウェルシー伯領を強奪した」という話は帝国の政治中枢にも伝わっているが、それを今すぐにどうこうしようという動きはないらしい。
「どうして? 反乱は直ちに鎮圧する方が、面倒がなくていいのに」
「よく分からんのですが、どうやら、我々に構っている余裕はなさそうなのです」
なんだか妙な話だ。前の伯爵は、帝国宰相を仲介人に、マーチャント商会から莫大な融資を受けていたということだから、宰相としては、マーチャント商会の手前もあり、わたしたちをこのまま捨て置くことはできないはずだが……