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白の向こう側にある世界  作者: 吉田 みゆな
4/13

森の入口、気になる口元

カルンの村を出るときに俺は初めてこの村の全貌を目にした。


この村は裕福とはいえないが、決して貧しいと思えない、村人たちの笑顔の溢れる村だった。

状況を整理することに一生懸命だった俺は、この村がどんなところなのか考える事もしなかった俺は

「結構いい村なんだな」

自然と口が開いていた。


「情報を集めたら学ラン取りに帰ってくるだろ、その時にこの村を堪能すればいいさ」

誠は前を向きながら言ってくる。


「ああ、そうだな」

誠の帰ってくるという言葉に勇気付けられ俺はハニカミながら答えた。




村を出るとミラさんの言った通り道には草も生えてなく、鋪装されていて、両サイドは広い野原だった。

風が気持ちいい。

こんな状況でもそう思えるのは、1日だがミラさんと過ごして少しだけだがリラックスできたからだろう。


ミラさんが4日だと言っていたから、相当距離があるのだろうと思っていたが、確かに長い、同じ道をループしているかのと思うくらい風景が変わらない。


4時間くらいだろうか、足も疲れてきたので俺達は道端にある木の木陰で休憩をとることにした。


「しっかし、長いなぁ」

誠は大の字に寝転びながら言う。


額の汗を拭きながら俺は

「なんだか同じ風景ばかりで疲れたな、たまに行商人とはすれ違うが、俺達はお金をもっていないからな」


そんな事を話しながら俺はあることに気がついた。

「お前、汗をひとつもかいてないじゃないか」


そう、これだけ歩けば誰でも汗をかくはずなのに誠はひとつも汗をかいてない。

真夏とまでは言わないが天気もよく、気温も少し高い、こんな中なぜ?


「汗って、こんな涼しいのにかくわけがないだろ」

笑いながら誠は言ってきた。


「涼しい?そこまで気温は高くないがこれだけ歩けば暑くなって汗もかくだろ」


「何を言ってるんだ?こんなに涼しいのに」

誠は訳がわからないといった表情をしている。


俺と誠で気温の感じかたが違う事に少し違和感を感じながらも俺達は先に進むことにした。




もう歩きだして夕方になり、もうすぐ日が暮れる頃にミラさんの言っていたであろう大きな森にさしあたった。俺達は明るくなってから森に入る事にし、木の枝を集めて焚き火をし、森の手前で野宿することにした。



誠は焚き火の前に座りながら

「さすがに疲れたなあ」


「まあ、ずっと歩きっぱなしだったもんな」

俺も座りながらそう答える


「たしかミラさん言ってたよな、危険もあるかもしれないって」

誠は真剣な顔をしている


たしかにミラさんはそう言っていた。危険もあるかもしれないと。それはこの森になにかがいるということなのだろうか?日が暮れて真っ暗になった森の入口は一層不気味さを増していた。


俺達は明日も長時間歩く事になると思い、ミラさんの作ってくれた弁当を食べ、寝る事にした。



ウゥー

何かの声がする!?

瞬時にヤバイ!と思った俺は体を起こした。

誠は隣でまだ寝ている。起こそうか起こすまいか迷っていた。


ウゥーワウゥー

暗くてよくわからないが大分近い。



「誠!ヤバイぞ!」

体を揺すりながら誠を起こした。


「何騒いでんだよ」

誠はめんどくさそうに起き上がってきた。


「何だかわからないが何かいる!」


「なんだって!?ナイフはどうした!」

そう言いながら誠は手探りでナイフを探しだした。


俺の近くにナイフが2本あった。それを誠に渡し、俺達は馴れないながらに戦闘できる体制になった。


「4匹いるぞ!」

誠は教えてくれた。


その瞬間それは襲いかかってきた。

近くにきてわかったが俺達の腰の高さくらいはある大きな狼が4匹いた。


ナイフで応戦しようと思ったが、今まで包丁すら持ったことない俺はナイフを振りかざす前に狼に押し倒され馬乗り状態になった。


ヤバイ!本能でそう感じた。


「圭太に何をしやがる!」

そう言いながらナイフをブンブン振り回しながら誠が狼に突進してきた。


だが狼は怯むことなく俺の上からどき、誠に体当たりをして誠が転んだと同時にまた俺を襲いかかりにきた。


俺はこのまま何も知らないまま死んでしまうのかと思いながら身構え、硬直してしまった。


「やめろー!!」


誠の声が聞こえた瞬間突風が吹き狼は遠くに飛ばされていった。


一瞬なにが起こったのかわからず、ビックリして誠の方を見ると、誠はハァハァと呼吸をしながら俺の方めがけて手のひらを突きだしていた。


そのまま誠は他の狼にも手のひらを突きだしていた。そうするとさっきと同様に狼たちはどこかに吹っ飛ばされていった。


俺は訳もわからず誠を見つめていると

「怪我はないか?」

と疲れた顔をして俺に言ってきた。


「お前、さっきのは……」

誠が何かしたのかと思い俺は聞いてみた。


「俺にもわからない、だが最初の狼がぶっ飛んでいった時に、俺がやったという感じがしたんだ、だから他の狼にも同じことをしてみたらできたんだ」

誠は自分の手のひらを見つめながら言った。


「できたって、お前……」


「ミラさんが、この世界の住人はアザリーとかいう魔法のような物が使えるっていってたじゃねえか。だから俺達も今はこの世界の住人だから、もしかしたらって俺はずっと思ってたぜ」

誠は恥ずかしそうに頭をかきながら言った。


「俺達は元々こっちの人間じゃないじゃないか」

俺は信じられないが誠がおこしたのは風だった。

それが本当だったら誠は風の能力者ということになる。それなら昼間に誠が無意識に自分の回りに微量な風をおこして涼しくしていたということなら説明もつく。

信じられないが信じるしかないのか……。


「風がでる能力ねえ……」

誠は少し嬉しそうに自分の手のひらを見つめている。


だが本当に誠が能力を使えるということは、俺もなにかしらの能力が使えるということなのだろうか?

一体何の能力なんだろう?


俺は信じられないと思っているはずなのに、もしかしたら俺にも能力がと思うと少しばかり期待の2文字を隠せない。

だが同時になにが発動の条件なのだろう?

まだ俺に能力があるとわかった訳でもないのに気になってしょうがない。


そうこうしてると辺りが明るくなってきた。先程の事があったせいか俺達の目は冴え、出発することにした。




「行こうか誠」


「そうだな圭太」


外はすっかり明るいのに森の方は薄暗くなっていた。

その薄暗さが妙に気味悪く感じる。



森に一歩足を踏み入れると、一瞬で空気が代わった感じがした。

周囲から何かの視線をビンビン感じる。

正直に怖かったが、こいつらはもしかしたら俺達と狼の攻防を見ていたのだろうか?

そう感じてしまうくらい一定の距離以上詰め寄ってはこない。

だとしたら誠のお陰だ。俺はそう思いながら誠との距離を離れないように歩いた。


数キロほど歩いたところに小川があった。

水を確保しようと近づいていくと

「待て!」

と誠に止められた。


誠の顔を見ると誠はアゴで小川の方を指していた。


どうしたんだよ?と思いながら誠の指す小川を見たら、大きな鰐がいた。ジャングルでもないのになぜ!?という思い出したと同時に水分補給をどうしようかとも考えていた。


夜中の狼のおかげというかせいというか俺達はこの鰐にそこまでの驚きはなかった。


鰐がいては水の確保もできない。

そう思っていると、俺達の横数十メートルのところからなんだろうこれは?顔が猪で体や雰囲気が牛の動物が、ものすごい速さで鰐に突進をしたと同時に、鰐は飛ばされて反対側にあった木に、背中から巻き付くほどの衝撃てぶつかった。


俺達はその一瞬の光景にはさすがに驚き、その場から動けなくなった。


「圭太、あれなんなんだよ」

誠が自然と出てしまった声はメチャクチャ小さかったが、これでも誠は精一杯声を出していたんだと思う。


俺にだって分からない。こんな動物もサイズも今まで見たこともないものだ。


俺も誠も同時にお互いの顔を見て、言葉も交わさず、来た道を一旦戻ろうという意思の疎通ができた様に感じ、息を殺しながら音もたてないように来た道を戻っていた。


俺達は気付くと森の入口まで戻っていた。

そこで1人の行商人と出会った。


「おや、旅の方どうされました?そんな顔をして」


行商人に言われお互いの顔を見てみると、2人ともどっと疲れた顔をしていた。


「どうも、行商人をしておりますメレブーと申します」

自己紹介をしてきたこの行商人はメレブーというらしい。

身長は俺達の2/3程度しかない。だが背負ってるリュックは俺達の身長を余裕で越していた。


「今あなた方はこの森から出てきた様に感じたのですが、何かありましたかな?」

メレブーは、今まで作り過ぎて固まってしまったような笑顔を聞いてきた。



「俺達はハーデルに行きたくてこの森を通ろうとしたんだが、中にはデッカイわけの分からない動物達がいて、恐ろしくなって引き返していたらここまで戻ってしまったんだ」

俺は一生懸命説明をしたが心臓がバクバクするのがいまだに止まらない。


「あなた方のアザリーは何ですか?」

メレブーは不思議そうな顔をして聞いてくる。


「俺にはアザリーという力があるのかどうかすら分からない、だがこの隣にいる男は推測が正しければ風使いのようだ」

俺は誠を親指で指差しながら答えた。


「分からない?」

メレブーはさらに不思議そうな顔をしてくる。


俺は他の世界から来たなんてことは言えず、メレブーには記憶喪失で昨日以前の事はなにも覚えていないと伝えた。


そうするとメレブーは

「記憶喪失だなんて可愛そうに」

と俺のとっさの嘘なのに涙をボロボロと出しながら泣き出した。

いきなり過ぎて俺達は驚いたが、同時にそんなメレブーの姿を見て俺は少し罪悪感を感じていた。


立て続けにメレブーは

「誰にでもアザリーは授かっているものなので、きっとあなたにも何か能力はあります。不安にならなくても大丈夫です」

と涙を拭きながら言ってきた。


「あっ、そうだ!こうしましょう!」

メレブーは何かを提案してくるようだ。


「あなた方は森を抜けたい、そして私はうっかり蓋をあけてしまったこの風力の壺に風を集めたい。お隣のお兄さんが風をこの壺に集めてくれたら気配の実と交換をしましょう」

メレブーが見た目の気持ち悪い壺を手に持って指を差している。


風力の壺といわれても初耳だ。それに気配の実というのもわからない。

俺はそれが何なのか聞いてみることにした。


各家庭では、家の明かりやエネルギーを使うものの殆どを風のエネルギーで使える様にしているとのこと。そのために皆が風力の壺を購入するのだと。

だからうっかり蓋をあけてしまったからこの壺が商品にならなくて困っていたということ。


気配の実は、食べた人の気配を完璧に消してくれて、数時間は動物に見られない限り認識されないという、俺達にとっては便利な実だということの2つを説明してくれた。


「はぁー!」

誠は手に力を込めながら叫んでいる。きっと壺に風を集めるつもりだろう。

だが全く風はおきない。


「力を普段使わないのですか?」

不思議そうにメレブーは言ってきた。


誠はとっさに

「普段母ちゃんがなんでもしてくれるから力を使う事ってなかなかなくてよ」


「そうですか。ではまずリラックスしてください。そして頭の中にあなたの風を思い浮かべてください。それはどんな風なのか、雰囲気や臭いすべて思い浮かべてください」

メレブーは笑顔で誠に言っていた。もう涙は見えない。


「俺の風、突風、なんでも飛ばせて一点に集中できる荒々しい突風」

誠は目をつむりながらぶつぶつと呟いていた。


そうすると誠の手が青く光りだした。

俺が声も出せず驚いていると誠は目を開けて

「なんじゃこりゃー!」

目を見開いて驚いていた。


「そのままです。そのまま集中を切らさずに私の壺に送るイメージを浮かべて下さい!」

メレブーはなんだかウキウキしてるように感じた。その瞬間メレブーの口元がニヤリとしたように感じた。


青い光りはゆっくりとメレブーの持つ壺に向かっていく。

壺に収まったらメレブーは蓋をして、厳重に蓋が空かないように封をしていた。


「助かりました。ではこの気配の実をお使い下さい」

と、柔らかいどんぐりのような木の実を10個ほど渡してきた。


「それでは先を急ぎますので」

と急ぎ足でメレブーはどこかに行ってしまった。

その普通ではない急ぎ方に、俺達は見ていることしかできなかった。


俺はメレブーがニヤリとしたことが少し気になっていたが、気配の実とやらも貰えたし気のせいなのかなとも思っていた。

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