情報を求めハーデルへ
俺は頭の整理が追い付かず、学校へ行く気にはならなかったが、実那子がまた心配してしまうと思い、普段通り学校にいた。
あれは何だったんだろう、なぜ高梨がいたんだ?なぜあの時追いかける事ができなかったんだろうか。
いくら考えどもわからない。
そして誠との何時もの昼食。
「お前最近なんだかおかしくないか?圭太の様子がおかしいって実那子ちゃんも心配してたぞ」
誠は、パンを食べながらこっちを向くことなく言ってきた。
こっちを向かなかったのは、誠なりの優しさなのだろう。
俺は、実那子の時のように変な風に見られるかも知れないと思ったが、今まで見ていた白い世界の事や、そこで起こった事、そして高梨さんを皆が覚えてない事を誠に話してみた。
「高梨さんってのはやっぱり誰の事だか分からんが、白い世界ねえ……」
誠はとりあえず話を聞いてくれて、俺を変な奴扱いしなかった。
俺が誠の立場なら、この話を信じず実那子のような態度になっていたと思う。
だが誠は聞いてくれた。
それだけで嬉しかった。
俺は涙が今にも出そうな目を閉じ、泣くな!と自分に言い聞かせていた。その時だった。
「おい、圭太!何なんだよこれ……」
誠の焦った声がする。
何だ?と思い目を開けた俺と、隣にいる誠の周囲は見覚えのある真っ白な世界になっていた。
あの世界だ!?
でもなぜ!?寝てもいないのに!?と状況を把握できず必死で考える俺の隣で、誠は立ち上がり周囲を見渡しながら
「マジで何なんだよここ……」とつぶいていた。
その瞬間、俺の頭に今まで感じたことのない、締め付けられるような痛みの頭痛がおきた。
その痛みと同時に、草原、街、城、泣いている俺、真っ暗な中に光る何だかわからない物体、誰だかわからない女性。これらのものがフラッシュバックのように反復して写っている。
俺が覚えているのはそこまでだった……。
食欲のそそるような臭いがしてきた。
俺は気を失っていたようだ。見覚えのない天井。
顔を横に向けると誠が背中を向けて立ち、誰かと話しているようだ。
「おっ、気がついたか圭太」
俺が目を覚ました事に気づいたようだ。
「ここは……?」
「圭太が頭を押さえながら悶えてぶっ倒れてから、真っ白だった世界が少しずつ色がつきはじめて、見晴らしのいい小高い丘になったんだ。何がなんだか分からなくて焦ったぜ。
そしたらこの人が丘を上がってきてこの家に案内してくれたんだ。」
誠はそう言って先程まで話をしていた人を俺に紹介してきた。
「はじめまして、私はミラといいます。」
そう言いながら彼女は軽く会釈をしてきた。
ミラさんというこの女性は、見た目的には年は20代半ばで青い髪のショートヘアー、服装はベトナムの民族衣装のアオザイのような格好をしていて、緑色の瞳が印象的だった。
ミラさんは、ここはカルンという村で、いきなりこの世界が白色の世界に変わっていって気を失い、目が覚めるとまたいつもどうりの村の風景になり、混乱しながら周囲を確認しようと丘を登ったら俺たちに出会ったことを話してくれた。
「ここがカルンっていう村だってことはわかったが俺達はどうしてここに居るんだろうな?」
誠がいつもと替わらない表情で俺に聞いてきた。
「俺にわかるわけないだろ。というかお前はなぜそんな平常心でいられるんだ?」
俺はベッドから立ち上がりながら誠に聞いた。
「いやあ、俺も訳はわからないんだがお前が寝ている間に慣れたんだ」
誠なそういってニカッと笑ってきた。
「慣れたってお前……」
親友ながら俺は、誠の無頓着さというか適応力の高さに呆れてしまった。
「お口に合うかどうかわからないですが」
ミラさんは、この村でよく食べられているという美味しそうなスープを運んできてくれた。
だがその運びかたに俺は驚いた。スープを運んでくるミラさんはお盆を持っていない。俺からはお盆が浮いているように見える。
「ミラさん……それは一体?」
俺は驚きを隠せない表情でミラさんに聞いた。
「なっ!ビックリするだろ!初めは俺もビビったが、なんかこの世界ではみんなアザリーっていう魔法のような力を持っていて、人によって能力が違うらしいぜ!」
誠はミラさんの能力に、俺がビックリすることを待ってましたといわんばかりに言ってきた。
そんな誠はなんだかワクワクした表情をしていた。
「私達には当たり前の事なので、そんな風にビックリされるとなんだか不思議な感じですね」
ミラさんは、手のひらで口を隠して笑いながらそう言ってきた。
俺と誠は、ミラさんが運んできてくれたスープを食べながらこれからどうするのかを話し合う事にした。
「とりあえず俺達はどうすればいいんだ?」
誠は口いっぱいにスープの具材を頬張りながら聞いてきた。
「わからないよ、第一俺達がなぜここにいるのかもわからないし、どうやって元の世界に戻るのかもわからないし……」
「とりあえずどっか出口でもあるんじゃねえの?」
誠はそう言いながらスープをおかわりしていた。
出口があれば嬉しいが、そもそも入口のような所からこの世界に入ったわけでもないという事実に、俺は頭を悩ませる事しかできなかった。
そんな時ミラさんが
「話の内容はよく理解できないのですが、ハーデルに行けば何かわかるのではないでしょうか?」
と俺達に言ってきた。
「ハーデル?」
俺と誠は声を揃えて聞いた。
「ハーデルはここから少し離れていますが、人口も多く、行商人も沢山いる大きな街です。人が多いことから色々な情報が集まる街なんですよ」
ニコッとしながらミラさんは言ってきた。
「そのハーデルにはどうやって行けばいいんですか?」
俺はスプーンをお盆の上に置き、ミラさんに聞いた。
「ハーデルへは、ここから東の方角へ4日間ほど歩けば着くと思います。
そこまでの道のりはほとんどが舗装されていますが、1つ大きな森を抜けなければなりません。
その森は野生の動物が生息していて、危険が伴う事もあるかもしれませんが、あなた方がこの先のことで悩んでいるのならば行ってみる価値はあると私は思います」
ミラさんからそう聞くと誠は
「なら行ってみるしかないでしょ!」
とスープを腹一杯たいらげ、立ち上がりながら俺に言ってきた。
「おっ、おい!行ってみるって今から行くのか!?」
「思い立ったら即行動でしょ」
誠は腰に手をあてながら俺に言ってきた。
「もうすぐ日も暮れてくると思いますので、今晩はウチで過ごされて明日出発されてはどうですか?」
ミラさんは笑顔でそう提案してきてくれた。
俺はもう少し状況を整理したかったのもあり、ミラさんの家に一晩お世話になろうと誠に提案した。
俺がそう言うならと誠もその提案に乗ってくれた。
それからは、ミラさんは気にしないでくれと言ってきたが、一晩お世話になるということもあり、俺達は皿洗いや掃除など家事の手伝いをしてから床についた。
今頃元の世界では俺達の事を皆は探しているのだろうか?実那子は心配したないだろうか?そもそも元の世界はあるのだろうか?と何度も考えているうちに俺は眠たくなってきて瞼をとじた。
まだ窓の外が薄暗いうちに俺は目を覚ました。
隣をみると、誠はイビキをかきながらぐっすり眠っている。
俺は玄関であろう所から外に出てみると、家の裏の方からバシャッと水の音が聞こえた。
その音が聞こえた方に恐る恐る行ってみると、白い布1枚でしゃがんで水浴びをしているミラさんがいた。
俺はその姿に一瞬見とれてしまったが、見てはいけないと思い、後ずさったが細い木の枝を踏んでしまい、ミラさんに気づかれてしまった。
「すっ、すみません!!」
「いえ、気になさらないで下さい」
恥ずかしそうにミラさんはそう言いながら胸の辺りを両手で隠した。
俺も恥ずかしくなりダッシュで家の入り、隠れるように布団にくるまった。
布団に全身をくるませたまま朝になるのを待っていると、ミラさんが朝食を作る音がしてきた。
その音と臭いにつられて誠が目を覚まし、俺に
「なにやってんだ?」
と聞いてきた。
俺は見たことを言えるわけもなく
「なんでもない!」
と答えることしかできなかった。
コンコン
扉をノックする音が聞こえると
「おはようございます。朝食ができましたよ」
とミラさんが俺達を起こしにきた。ミラさんの雰囲気は昨日となんら変わりがなかった。
俺は少し気まずさを残しながらも、誠と朝食が準備されている部屋へ行った。
「いただきます」
ミラさんの用意してくれた朝食を食べながらハーデルがどんな街なのか想像していた。
「ミラさんの作るご飯はほんと美味いなあ圭太」
誠は相変わらず美味しそうに朝食をガツガツと食べていた。
「あなた方が今日出発すると言われていたので、あまりいい物ではありませんが、少しだけ旅の準備をさせていただきました」
そう言うとミラさんは調理場から、お弁当と護身用にと刃渡り40㎝ほどのナイフを2人分持ってきてくれた。
「そんなっ、何から何までお世話になるわけには……」
俺がそう言うとミラさんは
「これはかつて父と弟が使っていた物です。私だと使い道もなく、あなた方に使っていただきたいです。そのほうが父も弟も喜んでくれると思います。」
と言ってきてくれた。
昨晩ミラさんに家族は?と聞くとミラさんは、前はこの家に、父親とミラさんと弟さんの3人で暮らしていたのだが、父親と弟さんがこの村を襲った盗賊との争いで亡くなってしまい、今はこの家に1人で暮らしているのだと教えてくれた事を思い出した。
ミラさんはその2人が使っていた服も俺達に渡してくれた。
袖を通すと俺も誠も上下ともぴったりだった。
俺達はここまでしてくれたミラさんに心配をかけまいと、着ていた学ランをミラさんに渡して
「俺達のためにありがとうございます。いつか必ずお借りした物を返しにきます。その時までこの服を置かしておいて下さい」
と伝えこの村を出発することにした。
なぜ俺達が学ランを置いていくのか、それはどこの誰かもわからない俺達を置いてくれたミラさんに、また元気な顔を見せに絶対に帰って来なくてはいけないと思ったのだ、だが万が一俺達がここに帰ることができなかった時に、ミラさんが売ったりして多少でもお金になるものを探したが、屋上からそのまま来た俺達には何もなかった。
だから学ランなら切って布にすれば少額だろうがお金になると思い、俺達は学ランをミラさんに預け出発したのだ。
俺達はこうしてこの世界での第一歩を踏み出した。