評価と違和感
「とりあえず……終わったな」
誠は肩を回しながら言った。
畑の周りには、さっきの害獣が三匹転がっている。
「思ったよりあっさりだったな」
「お前がな」
俺は即座に返した。
誠は「へへっ」と笑っているが、実際こいつの風がなかったら危なかったのは事実だ。
「圭太もやばかったぞ」
誠がこっちを見る。
「……何がだよ」
俺は視線を逸らしながら答える。
「いや、さっきの動き」
誠は真顔だった。
「見たことねえ動きしてたぞ」
「たまたまだろ」
俺はそう言ったが、自分でも説得力がないのは分かっていた。
「まぁいいけどよ」
誠はそれ以上追及してこなかった。
だが、完全に納得している顔ではない。
「戻るか」
俺は話を切るように言った。
⸻
ギルドに戻ると、昼前ということもあって中は昨日よりさらに人が多かった。
「おっ、帰ってきたな」
誰かの声がする。
「早かったじゃねえか」
「どうだったよ?」
視線が集まる。
「……めんどくせえな」
俺は小さく呟く。
「有名人だからな俺たち」
誠は全く気にしていない。
受付に向かい、依頼書を差し出す。
「害獣駆除、終わりました」
お姉さんは紙を受け取ると、少し驚いた顔をした。
「もうですか?」
「三匹だったな」
誠が答える。
「三匹……」
お姉さんは確認するように呟き、奥に声をかけた。
「ギルドマスター、少しよろしいでしょうか」
奥からラディンさんが出てくる。
「なんだ」
「東門の依頼、完了とのことです」
そう言って紙を渡す。
ラディンさんは一目見て、俺たちに視線を向けた。
「……早すぎるな」
「そんなもんか?」
誠は首を傾げる。
「最近はな、二組ほどやられてる」
ラディンさんは淡々と言う。
「えっ」
思わず声が出た。
「怪我程度で済んだ奴もいるが、油断すると普通にやられる相手だ」
ラディンさんは腕を組む。
「……それをあっさりか」
少しだけ目が細くなる。
俺の背中に嫌な汗が流れた。
「こいつが全部吹っ飛ばしたんだよ」
俺は誠を指さす。
「ほう」
ラディンさんは誠を見る。
誠はいつもの調子でニカッと笑った。
「まあな」
「……」
ラディンさんは少し黙ったあと、紙に印を押した。
「依頼達成だ。報酬は1200コル」
「おっ、増えてる」
誠が嬉しそうに言う。
「危険度が上がってるからな」
ラディンさんはぶっきらぼうに答える。
報酬を受け取ったあと、ラディンさんは俺をちらっと見た。
「圭太」
「……なんだ?」
「あとで来い」
短くそれだけ言って、奥に戻っていった。
「呼び出しじゃねえか」
誠がニヤニヤしている。
「嬉しそうに言うな」
俺はため息をついた。
⸻
少し時間を置いて、俺は一人でラディンさんの部屋へ向かった。
コンコン
「入れ」
扉を開けると、ラディンさんは机に肘をついていた。
「座れ」
言われるまま椅子に座る。
「……で」
ラディンさんは俺を見る。
「何をやった」
「何って……」
俺は一瞬言葉に詰まる。
「とぼけるな」
ラディンさんの声が低くなる。
「さっきの依頼、妙だ」
「誠が強かっただけだろ」
俺は答える。
「それだけじゃねえ」
ラディンさんは首を振る。
「一匹、妙な倒れ方してた」
ドクン、と心臓が鳴る。
「……どういう意味だ」
俺は平静を装って聞く。
「急所を正確に突かれてる」
ラディンさんは指で机を叩く。
「素人の動きじゃねえ」
「……」
言葉が出ない。
「お前さん、戦い慣れてるか?」
「いや……全く」
それは本当だ。
「だろうな」
ラディンさんは頷く。
「だからおかしい」
部屋の空気が少し重くなる。
「……偶然だろ」
俺は言った。
「偶然であんな動きは出ねえ」
ラディンさんは即答する。
逃げ場がない。
「……」
俺は少しだけ迷ったが、口を開いた。
「一瞬、見えたんだ」
「何がだ」
ラディンさんは目を細める。
「白い世界」
俺は言った。
ラディンさんの動きが止まる。
「ほんの一瞬だけ、あっちに引っ張られた感じがして……」
言葉を選びながら続ける。
「その時、声がした」
「声……」
ラディンさんは低く呟く。
「“そこ”って」
俺は思い出しながら言う。
「気づいたら、体が勝手に動いてた」
沈黙。
しばらくして、ラディンさんは深く息を吐いた。
「……始まってるな」
小さく呟く。
「何がだよ」
俺は思わず聞いた。
「お前さんの“干渉”だ」
ラディンさんは言う。
「干渉?」
聞き慣れない言葉に眉をひそめる。
「白の記録はな」
ラディンさんはゆっくり話す。
「ただの残りカスじゃねえ」
「条件が揃うと、こっちに影響を与える」
「……」
俺は息を呑む。
「そして逆もある」
ラディンさんは俺を指さす。
「お前さんが“あっち”に触れた場合、向こうの情報を引っ張ってくる」
「それがさっきの動きだ」
頭の中で何かが繋がる。
「じゃあ俺は……」
言いかけて止まる。
ラディンさんは頷いた。
「普通じゃねえ領域に足を突っ込んでる」
背筋が冷える。
「……制御できるのか」
俺は聞いた。
「今は無理だろうな」
即答だった。
「だがな」
ラディンさんは少しだけ口元を上げる。
「使い方次第じゃ、誰よりも危険な力になる」
危険。
その言葉が妙に重く感じた。
「誠には言うな」
ラディンさんは付け加える。
「余計なことを考えさせるな」
「……分かった」
俺は頷いた。
「今日はもう休め」
ラディンさんは手を振る。
「明日も依頼はある」
「……ああ」
立ち上がり、扉に手をかける。
「圭太」
呼び止められる。
振り返ると、ラディンさんは真っ直ぐこっちを見ていた。
「“呼ばれてる場所”には、軽い気持ちで近づくな」
「……分かってる」
そう答えたが、本当は分かっていなかった。
扉を開けて外に出る。
ギルドの喧騒が戻ってくる。
だがさっきまでとは少し違って聞こえた。
――触れてしまった
あの白い世界に。
そしてそれは、もう戻れない一歩だったのかもしれない。




