HEROの秘密?
「――おい――」
「――おい、起きろ」
「起きんかバカ者が」
「――いって」
右頬がジンジンと痛む。
「起こすのに平手打ちすんなよ」
「殴られる頬よりもな、殴る手の方が痛いのだ。少しは我慢せんか!」
そういうローナの手にはハエたたきが握られている。平手打ちでも殴られたわけでもなかった……
「ここは研究室か?」
見慣れた薬品や機材が揃っている。俺は確か学校の保健室に居たはず……?
「うむ、そうだ。あの後起きないからここまで運んだ」
窓から見える景色は、もう既に遅い時間だと一目でわかる
俺はそんなに寝てたのか……
そんなに疲れた感じしなかったけどなぁ
「なあ、あの砂煙ローナがやったのか?」
大方こいつの仕業であることに間違いないのだが一応確認してみる。
「うむ、あれはわしの発明で簡易的に草刈をするものだ。投げるだけで低空を円形状に回り続け草が刈れるのだが、何分勢いが強すぎるのが問題で1分も持たないのが悩みどころだ」
ローナは手に白い三日月状の物体を持ってそう説明してくれた。
果たして草を刈るのに竜巻が発生するくらいの勢いが必要なのか……1分も回る必要ないのではないだろうか……
いろいろ思うことはあるが、今回『変身』が解ける前に姿を消すことができたのは、この失敗作のおかげなので敢えて何も言わないことにした。
――そういえば
「なあローナ、『変身』て時間制限あるの知ってたか?」
「知らなかったぞ。だが、そうなるだろうと予測はしていた」
この宇宙人め、だったら言えよ!!
――でも昨日はもう少し長く『変身』していたような……?
「この兵器はキミを保護するためにある。先の戦いでキミの兵器はダメージを受け、それを修復するのにエネルギーを消費したのだろう。だから『変身』時間が縮まったのだと考えている」
俺の疑問を察して理由を説明してくれた。
「突進を受けたとき結構な衝撃だったな。骨が折れるかと思った」
戦闘時を思いだし、お腹あたりをさすりながら呟く。
「うむ……? すぐに痛みは引いたのか?」
「 あ、ああ、まあ割とすぐに痛みは無くなった」
ローナが難しそうに考え込み始めた。
「もしかしたらだが……再生するのかもしれない。その兵器はキミを生かすことを第一の目的にしている。だとしたら鎧の再生だけでなく、キミ自身の体も治癒するのではないか? 骨が折れると思うほどの衝撃を受けながら、すぐに痛みが引くのだから、かなり高い再生能力を有しているのかもしれんな」
あの時の痛みは一瞬でローナの言う仮説を確証することは出来ないが、ありえない話でもない……か?
それにしても――
「これ開発したのお前だろ? いくらなんでも知らないこと多すぎないか?」
普段何かと偉そうなので、ここぞとばかりに小馬鹿にした口調で言ってやった。
「偶発的に完成した兵器なのだ、わからないことが多くて当然。だから実験させろとずっと言っている」
あまり気にしてないご様子。コイツに嫌味を言うだけ無駄だった。
――分からないことが多いか……だったらもしかしてあれも?
「最近走っても疲れないし、走る速度も上がってるみたいなんだが、これも関係してるのか?」
「なんと!? 身体能力の向上する効果もあるのか!? 今度からそういうことは早く言え!」
お前にだけは言われたくない……と喉まで出かかったが、我慢だ。
銀色のイヌっころを1発目殴った時の瞬発力も、身体能力の向上に関係してるとみていいのか? あまり体が疲れてないのにやたら眠くなったのは、再生で体力を消費したからか……?
ここまで聞いて自分で予想をしてみる。
――あの銀色のイヌどうなったんだろう?
「へいへい、今後気をつけまーす。それでさ、あの銀色のやつどうなった?」
「ああ、あれならキミが寝ている間にバラしたぞ。やつらまだまだ技術力が足りんな」
そういうと机の上に丁寧に解体された機械仕掛けの物体が散乱している所を指差した。
「銀の装甲はわしの開発した金属『カーミン・リーディア』を模して作ったようだな。こいつは、ある一方の力には強いがその他から受ける力にはめっぽう弱い。システムは簡単で、一番近い物体に突撃しろという単純な命令だ。」
だから、横から殴った時簡単にへっこんだのか……
俺に向かって最初に突進してきたのは、ただ単に一番近い距離だったからってわけか。
「しかしのう、この星であいつらだけで『カーミン・リーディア』を真似たということは侮れんな。いつからそんなに賢くなったのか……」
ローナを追ってきている連中はそれほど驚異じゃないみたいだな。
「でもまあ、そのイヌっころだったらどうにかなりそうだ。もう対処法わかったし」
「この程度で済めばよいのだがな……何にせよ、よい働きだった。今日はもう帰るといい、わしもせっかくここまで連れてきたのだから『ウルティラ7型』の調子を見ておきたい」
『ウルティラ7型』? 連れてきた? またおかしな発明品か?
『ウルティラ7型』がすごく気になって見回してみたが、物が乱雑に置か れ、床は何か文字がたくさん書いてある紙や機械の部品が散らばっているだけで、特に気になるものはない。
いや、まあすごい気になるんだけどねこの汚さには。
深く干渉しても仕方がないことはわかりきっているので、寝かされていた手術台から降りて、散らかった床に足を突っ込みながら玄関へと進む。
ぐにゃっ
――ん?
なんか踏んだ?
そっと足をどけ、俺にはゴミにしか見えない紙をかき分ける。
「――おっ、おい!! 人が死んでるぞ!!」
なんと俺は人間を掘り出したようだ。ローナと同じく白衣を着ているその人間はピクリとも動かない……それだけなら良かったのだが頭が結構な角度で埋もれている。
俺の目には死んでいるようにしか見えない。
「おお、そこに置きっぱなしにしてたのを忘れていたぞ。感謝する。おい、『ウルティラ7型』さっさと此処に来い」
ローナがそう命令すると『ウルティラ7型』と呼ばれた死体は両手で何度か反動をつけて顔をゴミの山から引き抜いた。
「保険の先生じゃねぇか!!」
どう見ても学校の保険の先生です。
俺が何度も瞬きをして現状の把握が出来ないでいると、ローナが口を開いた。
「そうそう、この間学校に行ったとき言い忘れてたのだが、キミの通う『中央クラウド学術高等学校』の保険の先生はわしの開発したこの『ウルティラ7型』が勤めている。何かあったら保健室に来るといい」
――――はっ?
俺はこいつが前、去り際に「あっ」とこぼしていたのを思い出した。
本当にもう……なんなんだよコイツ。
もう呆れ果てて何も言葉が出ない。
「ふふふ……あまりの出来事にまたもや言葉が出ないようだな。キミをここに連れてくるのに、この『ウルティラ7型』に手伝ってもらったのだよ。素晴らしいだろう? 学校では宇留田七という名で通している。ちなみに、基本的にオートで動いているが、遠隔操作でわしが動かすことも出来るのだ」
――もういいや、なんか面倒くさくなってきた
「ジャア、ボクモウカエリマスネ」
そういうと七先生がにこやかに手を振ってくれた。
黒髪ロングの美人なのだが、その表情は人にしか見えない。
俺は黙って研究室を出た。
◇◆◇◆
「おかえり、ヒロくん。さっき学校から連絡あって、明日は1時間目がお休みだって」
「わかった。ありがとう母さん」
「何かあったの?」
「いや、なんていうか今日ちょっとした事故みたいのがあってその影響だと思う。大したことじゃないから大丈夫だよ」
「そう……お母さん、ちょっと早く寝るから。何かあったらすぐに呼んでね」
「うん、おやすみ」
「おやすみ」
はぁー、俺いっつもつかれてるな……
今日の騒ぎ大事になってなきゃいいんだけどな。