HERO誕生 2
「わかりました。護衛と研究に付き合います。た――」
「そうか!それではさっそく」
話を遮り少女は自分の話を始める。
「ただし、俺からも条件を提示する」
俺も負けじと話を続ける。
「ほう、よかろう。聞くだけ聞いてやる」
なんとか話に乗ってきてもらえた。やはりある程度の信頼を勝ち得たようだ。
「まず、ずっと一緒にここいるというのはやはり無理がある。俺は学生だし母さんも心配する。学生が急に退学して家にも帰ってないとなれば騒ぎになる。そしたら追ってきた宇宙人だけじゃなくこの国も敵に回しかねないぞ?」
ここは絶対に譲れない。この子も飲まざるを得ない条件だろう
「わしは一言もこの研究所に居ろとは言っていないが?」
っ!! しまった。勝手に勘違いしていた。この子は少々傲慢な性格をしているから、てっきり自分のテリトリーに引きずり込むと思っていた。
少女は続ける。
「わしがキミの家に行けば問題なかろう。退学など適当に理由をつけておけばなんとでもなる。なんならわしが考えてやる。わしはお前の家に居座ってキミがわしの後をついてくれば良いのだ。婚約者だとか言っておけばキミの母も納得するだろう」
「ちょっと待ってくれ」
考えろ。なんか無茶苦茶だけど実現可能そうだからこわい。何か反論を考えねば。
退学したら俺の働き口が減るとかは?――いや、ダメだこの子にはそんなこと関係ない。
子供相手に結婚は法律上問題があるとかは?――いや、超科学で急成長しそうだな。
頭をフル回転させ条件を飲んでもらう案を考えていると、少女が、フフと笑みを浮かべる。
「冗談だ。キミの条件1はそれで構わんよ」
くそう始めから、からかうつもりでふっかけてきたのか!! 超科学と宇宙人っていうなんでもありな鉄壁を持ってたら太刀打ちできねぇよ。
気を取り直して条件2を提示する。
「2つ目は、俺を殺さないでくれ」
この子の言っていたことからすると、たとえ俺は死んでも体を借りて遠隔操作か何かで動かすことは可能なのだろう。実験が何をするかわからない以上変にいじられて死んでしまいましたじゃ、たまったもんじゃない。せっかく生き返ったんだからこれも譲れない。
「良いぞ、元より無茶な改造や実験はしないつもりだ」
殺さないでくれというだけで、おおよその見当はついたのだろう。あっさりと承諾を得た。
「それだけか?」
少女は、つまらんなとでも言いたげなご様子だ。
「ああ、それだけだ」
「では、お前の兵器について実験したいことがある」
少女は一変して張りのある声で話題を変える。本当にこういった実験や研究が好きなのだろう。
「さっきも言ったがその兵器は宿主を守るように出来ているはずなのだ!! だからメスからキミを守るため形を変えた。ああいう風に体外に現出するとは思わなかったがな。これは予想だが、血液が細かい粒子になって皮膚表面へ移動し硬化したと読んでいる。」
「そんなこと可能なのか?」
「話の腰をおらないでくれないか? さっきも言ったがキミのそれは兵器なのだよ。液体であって液体でない、固体であって固体でない物質だ。本題に戻ろう、キミのそれは自在に操れるのか? それと、どのくらいの衝撃に耐えることができるのかも調べる必要がある」
両腕の赤黒いガントレットはいつの間にか引っ込んでいた。どうやら危機を感じた時に反射的に現出し危機が感じられなくなると体内に戻るらしい。
どれほどの危機に陥ると出てくるのか分からないが、万が一にもこれが日常生活で発動してしまったら完全にヤバイやつだと思われる。見た目がかなり不気味なだけに気味悪がられるだろう、それだけで済むならまだいいが、最悪……逮捕や実験施設送りなんてことも。
絶対に自在に操れるようにならないと人生終わる。
どうやるのか分からないがとりあえず、出ろ出ろと念じてみる。
「操れません」
ダメだった。そもそも感覚も何もない、表面に出るときも体内に戻る時も呼吸するかのように自然と行われていた。
「仕方ない、とりあえずやれるだけやってみるか。そこの壁の前に立て背中をぴったりつけるんだぞ」
支持された通りの場所に立つ、嫌な予感がする。
白衣の少女はいつの間にやら両手の指と指の間にメスを4本ずつ挟んでいた。
「じゃあいくぞー」
なんの躊躇もなく投げる。足の脛に一本ずつ、太ももに一本ずつ、両腕に一本ずつ、腹の中心に一本、そして顔めがけて一本、それはもう美しい程に洗練された動きだった。
壁を背にさせたのは逃げるなということか、だけどこのままだと確実に死ぬ。良くて大怪我だ。だが妙な安心感があったこの少女ならそうなっても救ってくれそうだし、きっと兵器とやらが守ってくれるはず。
体を守ることに意識を集中する。感覚をなんとしても掴む。
リズムよく鳴る金属を弾く音。
自分で体を確かめてみるとメスが当たった周辺のみ赤い鎧が現れている。
「もっと投げる量を増やしてみるか」
少女はどこから取り出したのか大量のメスが入った木箱とピッチングマシンのようなものを取り出した。多分あれ、わざわざメスを連射するように作ったんだろうな……
「ちょっちょっと待ってくれ取り敢えずもう1回6本ずつ投げてみてくれ、なんかちょっとだけわかった気がする」
本当はまだ感覚が掴めてないが、あんな量のメス投げられるのは恐怖が勝って集中出来ない、2〜300本はあるんじゃないか?
「ふむ、まあ良いまだ時間はあるからな」
もう何本目だろうか足元には大量のメスが散乱している。
小気味いい高音が気持ちよくなってきたくらいだ。
「どうだ? もう分かってきたか?」
思ったよりも早い感覚でコツがつかめてきた。始め数回はまだ恐怖に囚われていたが、自分の身が100%安全だと確信できてからは割とすぐだった。飛んでくるメスの位置の周辺に少し大きめの鎧を張ることも出来た。そろそろいけるか?
「ちょっと自分で操作してみるから見ててくれ」
「よかろう」
全身に血の鎧を纏うイメージする。体に力が湧いてくるようだ。今ならいける!
そう思ってフンっと力を入れてみる。
「おい、まだか?」
全然変化しない……もう少しで変わりそうな気がするんだよなぁ。何かあとひと押し
「ほれ」
そう言うやいなやメスを1つ投げる。もはやメスを投げることに関してはプロだと公言していいレベルに到達している。
「おいおい、見てろって言っただろ!!」
カキンという何度も聞いた音が1つ鳴る。
「おおー!! これが全身バージョンか!! すごく汚いな!!」
少女はスタンディングオベーションを送りながら失礼なことを言ってのける。
どうやら血の鎧で全身を覆うことに成功したようだ。
少女に向けていた視線を自分の全身へと移す。
「おお、ホントにきたねぇ!! ってか気持ち悪い!」
全体的に厳つい姿で、一定の感覚で鮮やかな赤からほの暗い赤に徐々に変化する。まるで生きているような気色悪さがある。
「よし、じゃあ実験を続けるぞ早くそれを解除しろ」
「はいはい、気の住むまでどうぞ」
半ば諦めてこの少女の実験に付き合うことにした。
◇◆◇◆
今日1日で血の鎧になることが自分の意志で思うままとなった。汚い少女は血の鎧になることを『変身』と勝手に呼んでいたが、まあ別にその辺の名称はなんでもいい。
分かったことがいくつかある。この鎧はどんな些細なことでも怪我をすると判断すると現れること。例えば、ゆっくりとメスを近づけた場合は現れるが、軽く伸ばした爪を近づけた場合は現れない。
軽く手で押すくらいなら現れないが、助走をつけて押そうとすると現れる。
『変身』を自在にできるようになったはいいが、この反射は制御出来ないようだ。
他にも熱や寒さには多少の耐性があった。実験室にあったガスバーナーと人の入れる冷凍庫による実験だったのだが、少女は不満だったらしく次はちゃんと準備をするとのことだ。
「私を守るということにおいては問題なさそうだな。ところで私はキミの名前を考えてみたのだが、どうだ聞きたくないか?」
「名前もなにも俺には播磨鴻斗っていう名前があるんだが」
「キミは1度死んだわけで、それを蘇らせた私に新たな名前をつける権利くらいあってもよいだろう?」
どうもこの少女は新しいものに名前をつけたがるようだ。
「まあ、別にいいけど俺はその名前使わないからな」
「そのうち気に入るさ、では命名しよう――」
大きく間を空けて少女はビシッと俺に指差しこう言った。
「今日からキミはHEROだ!!」
「じゃあもう遅くなってきたから帰るわ」
「おい! もっと感動しろ!」
適当な愛想笑いをして玄関の引き戸に手をかける。
「少年、まだわしの名前を教えてなかったな。今のわしの名前は月降ローナだ。月に、敗北し服従する降参の降と書いて、るおちと読むぞ」
「変な名前だな。じゃあまた来るよ」
そう言って俺は研究所を出た。
もうあのローナとかいう危ない科学者の言動にも驚かなくなってきたな。
この変身について母さんだけにでも話しておいたほうがいいだろうか? でもこれを説明できる自信がないし、ショックのあまり気を失うかもしれない。ということは暫くはローナと二人きりの秘密になるわけか。ふたりの秘密というより弱みを握られた感が拭えない……
「ただいまー」
「おかえりなさい。ごはん出来てるわよ」
久しぶりに母さんと会話した気がする。
腹の虫がなる、そういえば朝も昼も食べてなかったな。パンに野菜スープだけの質素なものだが今の俺にとっては最高のご馳走だ。
「最近学校は忙しいの? 昨日も遅かったみたいだけど」
「それは……新しく本を仕入れたんだ、図書室にそれでその本の入れ替えに時間がかかっちゃって」
「そう……アルバイトじゃないなら良かったわ。お母さん頑張っちゃうからヒロくんは無理しなくていいのよ」
胸を張って頼りにしなさいとでも言いたげなご様子だ。どうやら俺が隠れてアルバイトをしてるんじゃないかと心配してたみたいだな。確かに家はあまり裕福とは言えない家庭だ。冷蔵庫にモノが入っていることは少ないしテレビもない。ニュースは基本的にラジオだ。娯楽の類は何一つないので、タダで本が読める学校の図書館を利用している。俺が図書管理委員をやっている理由の1つだ。
「頼りにしてるよ母さん」
俺は後片付けをしてベッドに潜った。
ようやくプロローグ終わった感じです。