HERO誕生 1
話が長くなったので2分割です
ここか、なんというか昨日はよく見なかったがやたらボロボロの建物だな。
今の時代この国では滅多にお目にかかれない木で作られた建物の中に入る。
部屋の区切りは無く、入った瞬間研究室が目に入る。
「さて、まず服を脱げ」
開口一番それかよ。
昨日と同じ服装で待ち構えていた少女が変態的発言をする。
「待て待て待て、まずいろいろ聞きたいことがある。」
「検査が先だ。脱げ」
ぴしゃりと言い放つ。昨日もそうだったがこの少女の発言にはどこか重みがあって変に口を挟む気になれない。
しぶしぶと服を脱ぐ。どちらかというと痩せ型なので体に自身がなく少し恥ずかしい。
「うむ、細いな。そのままそこに寝ろ」
なんだか屈辱的なことを言われて少々傷ついたが、この少女にきっと悪意はないのだろう。おとなしく手術台に寝ることにする。
どこからともなく透明の布を取り出し俺の上にかぶせる。そして少女は作業台のような机に向かい真剣にモニターを見つめる。
しばしの沈黙
「どうやら定着したようだ。実験成功だ!!」
悦に入り満足そうに目を閉じている。
「何が定着したのでしょうか?」
恐る恐る少女に聞く。
「人工血液だ。わしが直々に作ったオリジナルでな。宿主を守るように姿を替え、凝固も融解も自由自在……のはずだ!! まあといってもこの実験は人間で成功したのは初めてで、望んだ通りの性能を示すかはわからないがな。ふっふっふ」
実験の成功にご満悦なのか気味の悪い笑い声が響く。…………おい、待てよ。人体実験初めてってどういうことだよ!!? 人工血液!?
「ちょっと待てよ! 被験者の許可もなしに勝手にそんなこと許されるわけないだろ!!」
自分の意思とは関係なしに実験のモルモットにされたことに腹が立ち、つい大声をだす。
「ほれ」
彼女はそんなことに聞く耳を持たず鋭いメスを俺に向かって投げる。
はっ? まっすぐ顔に向かって飛んでくるメスを、反射的に目を瞑り両手で防ごうとする。
金属と金属がぶつかるような甲高い音が部屋を包む。痛みはない――だが、少女が投げたとはいえ勢いよく飛んできたメスなのだ。間違いなく刺さっている――
ゆっくりと目を開き両の腕を見る。
――そこには――
赤黒く両手を包む籠手――いや肩から指先までを包むガントレットの方が正しい表現かもしれない。下を見れば少女の投げたと思われるメスが落ちている。なっ……な
「なんじゃあこりゃ〜!!」
本日2度目の同じセリフを決め。放心状態になる。今朝の血まみれは理解できた。現実的に理解できる状況だったから。しかし、これは――メスを投げた少女が高速で移動し俺の腕にガントレットをはめた……? いやいや、それは無いだろう。ホログラフのようなものを用いて映し出しているのかも?
考える限りで理解可能な最後の蜘蛛の糸に望みを賭けて右腕で左腕を叩いてみる
さっき聞いた金属音よりすこし鈍い音がこだまする。どう考えても腕のぶつかる音ではない。
あっダメだこれ。
最後の常識の糸ですら、いともたやすく切れてしまった。
落胆する俺とは対照的に感嘆の声を少女があげる
「おおーそうなるのか!! 面白いぞ!! 少年!!」
キャッキャと無邪気な少女のようにはしゃぐ、……実際少女なのだが……
「おお、そうだった。聞くのを忘れていた。許可が云々言っていたな? わしの都合で勝手に生き返らせたのだが、キミの意思を聞いていなかったな。どうする? もう一回死にたいか? それともわしのわがままに付き合うか?」
急に真剣な表情で俺を見つめ物騒なことをつぶやく。まっすぐに見つめるその目は嘘偽りは無いと説得するに十分だった。
もういい加減向き合おう、この子は本物のマッドサイエンティストだ。俺には理解できない超科学を有していて全て本当なのだ。今まで結局どっちつかずの考えだったがこの子の言うことは全て事実として受け入れる。
「いや、このままでお願いします。……昨日を含め大変失礼な言動をお許し下さい。命を助けてくださったことに大変感謝しています」
明らかに黒い行いだし、年端もいかない子だし、態度もでかいし、汚い格好だが命を救ってくれた……おそらくこの子がいなければ俺は今ここにいない、母さんを悲しませるわけにもいかない。
手術台から降り、精一杯の感謝を述べ、深々と頭を下げる。
「ふむふむ、学校でも少し思ったが意外とお前は阿呆では無いようだな。状況把握も悪くないし、環境適応能力もある。まさか感謝されるとは思わなかったが、きちんと誠意を示すことができる。ホントのところを言うと、もし殺してくれと言われていたらキミの脳みそまで交換しなければならなかったから面倒だったのだ。これでようやく本題に入ることができる」
うんうん、と少女は頷く。
脳を交換だとか聞いてはいけない単語に冷や汗をかく。問答無用でやるんだろうなこの子なら……
「本題というのは、昨日言っていた『わしの都合』というやつですか?」
少女に丁寧な言葉遣いを心がける
「うむ、そうだ。キミの喋り方は無理しているように聞こえる。キミのことは嫌いではない、もっと話しやすいようにするよい。それでわしの都合というのだが……」
少女は少しだけ間を置き、話しを続ける。
「播磨くん、いや鴻斗くん。実験体では無く、肉塊として君にお願いしたいことがある。わしと一緒に暮らしてくれないか? もし、それが叶うならキミが生涯かけても払えないような治療費を免除してやる。貴重すぎる『被検体』研究するのにひとつも無駄がない」
「オイオイオイオイオイ、オイオイオイオイ、オイオイオイ、オイオイオイ、オイオイオイオイオイオイオイ、お前の研究するためだけに生きろっていうのか?それってこの国じゃあ『違法』ってことだろうッ!」
「ちなみにわしを護衛するのはキミだ…わしは何もしないからキミが体を張ればいい」
「ナアナアナアナアナア、ナアナアナアナア、ナアナアナアナアナア、ナアナアナアナアナア、ナアナアナアナアナア、ナアナアナアナアナア、体を張るだけって……俺は健全な少年なんだぜ…学校だって行かなきゃ行けないし、家には母さんがいる。そもそも護衛ってなんだよ! お前は国に追われてる闇医者か何かのか!?」
「『宇宙人』です」
「だから気に入った」
「良し、そう言うと思っていたぞ!」
はっ しまった。流れにまかせて話を進めてしまった。
「結局のところ都合というのは実験がしたいっていうのでいいのか?」
こほんと咳をして真面目な質問をする。
「いや、そこはおまけだ。私の正体はこの星の生命体ではない生物で、宇宙人と言ってもらって差し支えない。……キミとは今後長い付き合いになりそうだから言ってしまおうか……実は訳ありで同族のモノから追われているのだよ。この星に逃げて暫く好き勝手していたのだが、最近どうもこの星にいることがバレてしまったようで、わしはどうしても可愛い自分の身を守りたかった。前々からこうなることは予想して試作段階の兵器を作って動物実験をしていたのだが、なかなか成功しなくてな……ちなみに兵器というのはキミの体内に流れているそれのことだ。それで一か八か人間で試してみることにした。生きていると騒いだりして何かと面倒なので活きのいい死体を探すことにしたのだ。そしたらいかにも死にそうな女を見つけて今か今かと死ぬのを待って跡をつけていたのだ。そこでキミが現れ女の代わりに死んでしまった。ダメ元で実験をしてみたらなんと適合してしまったのだ。そんなわけで貴重な研究材料としてもわしの護衛としても働いてもらいたい。そういうわけだ」
つまり、守ってほしいという勝手な都合で兵器として蘇らせたということか……
感覚が麻痺してしまったのか宇宙人説に今更驚きもしない。
この子は俺を直接殺したわけではない、勝手に目の前で死んだ男を生き返らせてくれたのだ。ただし条件は護衛と研究に付き合ってくれというもの。
今までにない情報を話してくれたということは、この子は少なくとも俺に頼ってくれている。少々脅しのようになっているが一応は俺の意思で決定をして構わないと言ってくれている。この話に――
後で書き換えるかもしれませんね…パロディの部分があからさまに空気が違います。
これは岸辺露伴は動かないという漫画のセリフ部分です。
続きは明日投稿します