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HEROの◇  作者: sonora
12/14

HEROの本音

――ん? そうか俺はあのゴリラと戦って意識を失ったのか……? このままじゃやられる!……

 一旦距離を置くために、下に広がる柔らかいものを抱き頭から避ける。


――ゴンッ


 脳天から全身へ骨という骨を伝わる一音のハーモニー。


 「――っっってーー」


 「起きたかと思えば、布団を抱えて壁に向かって飛び出すとは……何をやってるんだ何を?」


 呆れと疑問を交えた声が聞こえた。

 声の方へ振り向くとローナが、はぁーというため息をついている。


――あぁこのパターンか


 最初に思ったのはこれだった。もう意識を失うからの汚い少女は慣れましたよ。


――っていうかここ俺の家じゃないか?


 いつものお決まりパターンだったが場所が違うぞ? 見慣れたなんの特徴も無い白い天井に妙に寝心地のいいベッド、なんで俺の部屋にいるの? あのゴリラは?


 「あの、俺『変身』が解けそうになってからあんまり覚えてないんだけど……いろいろどうなったの? シャリアさんとか」


 「うむ、よかろう」



 ローナの話では俺はゴリラのような敵との戦闘中に気絶をしていたそうだ。ゴリラのような敵は突然倒れ偶然助かっただけで、学校は修繕と調査で暫く休みになるとのことだった。


 「ちなみにキミは約2日寝ていた」


 「え!? なんか人生損した」


 「もう人生一度終わってるのだから問題ないだろう?」

 

 「……まあな」


 「そう言えばキミが寝込んでる間にメルヘンと発情犬が来たぞ。追い返したがな」


 「だれ? 人なの? 俺犬に知り合いいないよ?」


 「一人はキミのクラスの担任で、もうひとりはイヌみたいなやつだった。キミが抱きついてた女だ」


 はじめからそう言えよ……担任っていうと京ヶ島先生が来たのか、抱きついてはいないが、おそらくもう一人はシャリアさんだろうな。京ヶ島先生は担任だし、南棟で出会ったから心配して来たのだろうな。シャリアさんが来たのはなんでだ……?

 ある意味嬉しい女性が自分の家を訪ねてくれた理由を思考していると、真面目モードのローナが口を開いた。


 「少年よ。キミが寝ている間に少し今回の敵について調べたのだがな……思ったよりも相手が悪いかもしれない。それにわからないことも多い」


 確かに今回の敵へ全くと言っていいほどダメージを与えた気がしない。いくら攻撃を加えようとなんの手応えも感じなかった。次に同じのが来たら俺は――


 「……なんでもいいから分かったこと教えてくれ」


 「うむ、結構結構、わしを守るためによく聞いておけ。今回の敵だがな……あれは死んでいた。」


 「死んでたってどういうことだ?」


 「持ち帰った体は複数の生物の死骸を組み合わせたものだった。いくらか腐食していたのだがそれでも動いていたということだ。キミが助かったのは腕のつなぎ部分が落ちて、それと同時に命令を出している脳がたまたま蹴りのダメージで機能を停止したからだ」


 「死体が動く!? んなわけないだろ!」


 「鏡を知っているか少年?」


 そうでした、ついつい忘れるんだよな。俺が死んだってことに


 「まあだな、機械に単純な命令を出していただけの奴らがもうわしの技術にもう追いつき始めているということだ。ただキミのように意識を持ちつつ動いているわけではない」


 あのゴリラは口開きっぱなしだったし、顔が変形しても何も反応なしだった。体中に違和感があったのはいろいろな生き物をくっつけていたからということか。おそらく国の外に生息している生物の死骸を集めたのだろうな。 ローナ達宇宙人は『魔物』が怖くないのだろうか? 


 「その死骸って多分国の外から持ってきたと思うんだ。お前たち宇宙人って『魔物』怖くないの?」


 「わしもその意見には賛成だ。体のパーツは外で集めてきたとみてる。ふむ、『魔物』か……別に怖くはないな」


 そうか……神経図太いんだな。本当にそういうところ見習いたいよ。


 「わからないことってのは?」


 「うむ、何故あいつはここまで来れたのかがわからん。あんなの普通外を歩いてたら通報されるぞ、わしですら経験があるのだ。それとキミを執拗に狙ったことだ。何故わしを狙わなかったのかがわからん」


 確かに疑問だ。あからさまに人では無いものが街を闊歩してれば誰でも不審に思うはず……それに何故か俺にだけ攻撃を仕掛けてきた。まさか同じ元死体の仲間だから俺に寄ってきたなんてことはないよな……


 「なあ、俺強くなれるのかな……?」


 思わず言ってしまった。思っているけど気持ちはこもっていないそんな言葉だったと思う。


 「優しいわしが聞いてやろう、何故強くなりたいのだ?」


 俺が強くなりたい理由……そんなこと考えてなかった。本当に口からポロっと出てしまった言葉に理由なんて考えてもなかった。ローナを守る約束を果たすため? 誰かを守ることができないから? 歯が立たなくて悔しかったから? 一体なんだ……?


 理由を絞れないでいる俺を見てローナがやれやれといった風に首を横に振る。


 「キミのような人間は何度も見てきたよ。特にここ最近の人間は皆同じだ。理由を考えていない、目的がない、何がしたいのか分からない。実につまらん」


 「…………」


 「キミが死んだ理由もそうだ。何故あの女を助けた? 自己満足か? 恋か? 死ぬほど価値のあることなのか?」


 なんでだろう……行動したあとのことなんて結果しか気にしない、生き返ったからそれでいいと思ってた……仲がいいわけでもない、もちろん恋人なわけでもない、助けたかったから?……それは理由なのか?


 「お、俺が助けたいと思った人を助けたい。もちろんローナ、お前もだ。お前には命を救ってもらった。折角人の役にたてる力をもらったんだ。ローナだけじゃなく他の人の力になりたい……と思う」


 俺が咄嗟に考えた最もらしい理由を鼻で笑われた。


 「わしがキミの命を救ったなんて、でまかせだぞ?」


 「――えっ?」


 ローナは俺の反応を楽しむような、いやらしい笑みを浮かべる。


 「まあそれは嘘だ。本当に助けたがそれを証明することなど出来ないぞ? それでもわしを自分の意志で助けたいなど、くだらんことを言っているのか?」


 「そうだな――もしそれが嘘ならローナをぶん殴るよ。助けてくれたと思うから助ける。そんだけだ」


 「奇麗に聞こえる言葉を並べるのだから、相変わらず人間は変わってるな。つまりキミは、持て余すほどの力をなんの労力も無しに貰ったから、その力を見せつけ一方的に人を救った気になり賞賛されることで、自身の欲求を満たそうということだな? そしてそれを得るために力が欲しいと」


 ひどい言い方するな……まあ、でもそうなのかもしれない。人間なんてエゴの塊、でもそういうことを隠して表面上はいい人を振舞う。自分の本当の欲求に目を向けるとひどく汚いものに見えてしまうから目を逸らしながら生きていく。こいつは人間が人間として生活する頃から見てきている。俺の安っぽい考えなんてお見通しか……


 それを聞くとローナは晴れやかな笑顔を咲かせる。


 「しょうがないなぁ、播磨くんは。テレレレッテレー」


 なんか鼻にツンときそうな声だな。っていうか、いつも播磨くんなんていわねぇだろ。


――

―――

――――


 ローナは着ている白衣をまさぐり続けている。


 「ロナえもん、早く何か出してよ」


 「そんな都合の良いものあるわけないだろう!!」


――えーなんで怒られるの? 


 「まあだな、今のところわしが手助け出来ることは無いが、この間言ったように形態変化をやってみろ」


 「形態変化ってつまりどういうことすればいいの?」


 「キミの兵器は持ち主の意思によって動かすことが出来るはずなのだ。この場合キミが持ち主ということだな。だからメスを想像すればメスをその兵器で作り上げることができる」


 あの時真面目に言うこと聞いてればよかった……

 自分の右手を見てメスをイメージしてみる。じっと右手を見つめて集中する――


 「あっ今は無理だぞ。キミさっき壁に突っ込んだとき鎧が出なかっただろ? 今は兵器の力が無くなっている。体の修復にエネルギーを使いすぎたのだろう」


 そうか、ダメージを受けすぎると機能しなくなるのか……便利だけど無敵って訳じゃないんだよな……

 ガラガラと家の扉を開ける音がした。


 「ただいま。ローナさん、ひろくんどう?」


 部屋に聞こえる母さんの声――ローナさん!?

 母さんの声を聞き俺の部屋の扉を開いたローナが返事をする。


 「おう母君。豚児が起きたぞー」


 豚児ってあなたがいうのですか、ローナさん? あと母親に向かってそういうこと言わないでください。

返事をしたローナが俺の方へと向く。


 「わしは帰る。その兵器も明日には使えるようになるだろう。……それとだな、お前の母君はいいやつだな……わしは親がいないから分からないが、キミはいい親を持った幸せ者だと思うぞ」


 言うだけ言って扉を出て行く。母さんと何かあったのか?

 暫く学校休みか……明日から形態変化の練習しよう。このままだとローナを守ることが出来ない、それに俺の助けたいと思った人を助けるエゴを突き通すことも出来ない。


 ローナが出て行ってから少しして母さんが部屋に入って来た。


 「大丈夫? 熱とか無い? 2日も起きないから心配で心配で……本当は仕事に行かないでいたかったんだけど……」


 「大丈夫、起きたらいつも通り熱もないよ。あの……母さんローナと何かあったの? さん付けで呼んでるし」


 「ふふ、内緒よ。ローナさんていい人よね。ずっと、ひろくんのこと見ててくれたのよ? 後でちゃんとお礼しときなさい」


 そうか、あいつずっと俺のこと見ててくれたのか……まあでも、あいつに同情とかそういう気持ちは無いだろうから興味本意だろうな。


 「わかったよ。あとでお礼言っとく」


 「じゃあ私ご飯の準備するから、念のため今日はゆっくり寝てなさい」


 「うん、わかった」


 母さんはゆっくりと扉を閉めて部屋から出て行った。

 うーん、なんだろう……俺の寝てる間に何があったんだ? 母さんは話してくれなさそうだし、明日ローナから聞いてみるか。


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