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HEROの◇  作者: sonora
10/14

HEROの危機 1

 黒い布を被った何かが学校にたどり着いた。

 それは人間と言うには巨大な物体だった。


 その何かはセキュリティシステムなど知らないとばかりに、門を無理やりこじ開けた。頑丈な門は見事に変形をしている。


 「うむ、なにか来たようだな」


◇◆◇◆


 授業中先生が突然指輪型『Dフォン』で話を始めた。


――なんだ?


 数学の担当先生の顔が険しい、何かあったのか?

 ベルトが微かに震えた。


――ん? これは……電話か?


 ローナに『Dフォン』を貰ったはいいが機能を全く使ったことがない。


――確か2秒触るんだっけか?

 2秒間押すとローナの声が聞こえた。


(おい、少年。来たぞ。何かはわからんがキミの学校に侵入している)


 初めての電話機能に少しだけ感動しながらも、小声で答える。


(どうすればいい?)


(今は正門の方の第一グラウンドにいるがそのうち南棟に来るだろう。キミはそこに行け、後わしは保健室に居るからここに来させるなよ)


――南棟ね……どうやっていくかな……トイレ行きますとかでいいか?


 先生の話が終わるのを待っていたら、先に先生が口を開いた。


 「皆さん、学校側で一時的に危険だと判断された為避難を行います。落ち着いて移動してください」


 声は慌てていないが顔が青い、電話の向こうでは大変なことがあったのかもしれないな……


◇◆◇◆


 「おい、そこのお前止まれ。警告に従わない場合迎撃を行う」


 1人の先生が怒鳴る。黒い布を被ったモノはそれを無視して歩み続ける。


 4人の大人が取り囲み、宣告通り手や足に向かい麻酔銃の発砲を行う。

 それでも何事もないように歩み続ける。まるで眼中にないそう思わせる程効果がない。

 

 「に、逃げましょう」

 「警察には連絡したか?」

 「既に通達済みです。生徒の避難も行っています」


 距離を取りながら発砲を続ける。校内に設備されている迎撃用の機関銃でも全く効果がない。


 校舎まで歩みを進めたそれは自身の体型では入ることのできない扉を、おおきく振りかぶった右の拳で吹き飛ばした。


◇◆◇◆


 反対側の校舎から聞こえる何かが爆発したかのような大きな音に教室中が窓へと駆け寄る。

 先生も思わず確認をしている。


――またあのイヌみたいなやつか? 今のうちに……


 他の誰にも見つからないようにこっそりと教室を抜け出した。

 廊下に出ると他に人はいない、どうやらさっきの音に他の教室も様子見といったところだろうか?

 避難は完了してないみたいだな。まあ俺が注意を引きつけていれば問題ないか。

 全速力で音のした方向へと向かう。


◇◆◇◆


――この辺か?


 南棟に着いて様子を見る。

 校舎が静かだな……こっちは全員避難完了したのか? この間みたいに誰かいるとやりにくいからありがたい。それにしても――


――うわぁ、ひどいなこれは


 おそらくあの音の原因であろう扉まで辿り着いた。

 少し火薬臭い……天井も少しえぐれてるし壁なんか無理やり通ったかのように破壊されている。もしかして今敵はあのイヌじゃないのか?


(少年、気をつけろ。前回のようにはいかないようだ)


――うわっ、ビックリした。


(急にしゃべるなよ。これずっと会話機能ついてるの?)


(しばらくつけたままにしとけ、『変身』前ならそっちの映像も見れる。)


(了解)


 返事をして注意深く辺りを探っていると、二階から声が聞こえてきた。


 「……か〜?」


 「……ま……せんか〜?」


 段々とはっきり声が聞こえる。


 「まだ残っている生徒はいませんか〜?」


――聞き覚えがあるぞこの声。


 急いで2階にあがる。


 「あれ? 播磨君じゃない!? どうしてこんなところにいるの〜? 早く避難しないとだめよ〜?」


 相変わらずのんびりした喋り方だ。 


 「京ヶ島先生こそ、こんなところで何をやってるんですか! 危険ですよ! 早く逃げてください」


 「私は〜残っている生徒がいないか確認してたの。それより危ないのは播磨くんの方よ〜? どうして南棟にいるの〜?」


 この状況で先生だけを避難させるのは難しいな。俺が避難すれば京ヶ島先生もにげるか?


 「わかりました。すぐ逃げます。俺も見てきたんですけど他に生徒はいませんでした。早く逃げてください。それじゃあ」


 元来た道を急いで駆け下り、適当な空き教室に入って『変身』をする。


――よし。どんなやつかわからないけど、とっとと倒そう。


 再び京ヶ島先生の方へと向かう。


 「きゃっ!! あ、あなた……あの動画の人?」


 先生も見てましたかあの動画……学校関係者だからそりゃ見ますよね。


 「はい、動画の人です。そんなことよりもここは危険ですから逃げてください」


 先生の質問に正直に答えた。早く逃げてくれないと戦闘になった時危険だ……

 どうしようか迷っていると京ヶ島先生の頭上から何か砂のような物が落ちてきていることに気がついた。


――もしかして上にいるのかっ!!?


 俺が飛びだすのと同時に天井が崩れる。

 抱きしめるような形で先生をかばってしまった。

  

 「せん……じゃなくて、お前、怪我はないか?」


 「は……はい、大丈夫ですぅ〜」


 心なしか先生の顔が少し赤い気がする。

 細かい破片が落ちてきた音に反応し、そのままの体勢で後ろを振り返る。


――でかっ!!


 見た目は熊のような……いやゴリラの方が似てるかもしれない。猫背で両腕を地面についているが、俺の1.5倍くらいある。穴だらけの黒いコートから筋肉質の体が見える。口からはだらしなくよだれが垂れている。


 俺の方へ向いたそのゴリラは両腕を上に大きく振り上げた。


――やばっ


 急いで京ヶ島先生をお姫様抱っこして走る。


 スッ


 あの……先生動きにくいから首に手を回すのやめてください。


 「……私達、恋人みたいね?」


――何言ってんだこの人!?



 後方から爆音が鳴る。

 走りながら振り返ると学校の床が大きなクレーターを作っていた。


――どうすっかなー。あんなの倒せるのか?


 校舎を出て先生を降ろす。その間ずっと見つめられていたが無視した。


 「はやく逃げてください。後この校舎に誰も近づけさせないでください」


 「……あの……わたし……私待ってますから!! ずっと待ってますから!!」


 待ってないで逃げて欲しい。そう心から思った。


 「わ……分かったから、俺行くから。ちゃんと逃げてくださいね」


 「あの……最後にもう一度だけ『お前』って言ってくれませんか?」


 うるうるとした瞳で俺に向かって懇願し始めた。


 「お、お前?」


 これでいいのか疑問に思いつつ答えた。


 「はい、ア・ナ・タ」


――嬉しそうだからいいか

 何も言わずに例のゴリラがいる方へと向かった。


(少年、頭の悪い会話は終わったか?)

  

 全部聞いてたのか……


(おお、ていうか別に俺はそんな変な会話してない!)


(どうでもいいわそんなこと、今そいつは何処にいる?)


(えっと、ちょっと待って)


 京ヶ島先生と出会った場所から少し移動したところにそいつはいた。


(2階だ。2階の階段付近にいる)


(ふむ、2階か……床に対して攻撃させるなよ。足場が崩れるぞ)


(なるべく心がけてみるよ)


 ゴリラみたいなやつがこっちに向かってくる。歩みは遅いみたいだ。

 振りかぶるよりも前に懐に潜り込む。


 「ふんっ」


 腹に思いっきり肘打ちを決める。


――全然きいてねぇじゃん


 左から振り抜かれる腕を見てすぐにバックステップをする。

 空気の振動と同時に校舎の壁が見事に吹き飛んだ。


――ボディに効き目が薄いとなると……


 ゴリラの右腕が戻るよりも前に飛び上がり、顔面に蹴りをいれる。手応えはあった――が、


――嘘だろ。おい


 蹴りを入れた下顎はおそらく骨が砕けているのだろう。奇妙な形に変形している。

 しかしそんなことは全く気にもとめず、左の腕を振りかぶっていた。

 降下する中、唯一可能な最善策の守りの体勢をとる。


 当たった瞬間体に響く骨が軋む鈍い音。

 いくつかの教室を突き抜けてようやく勢いは止まった。


――っ


(おい、少年! 生きているか?)


 ローナの声がする。


(だ……だいじょ……うぶ……じゃないかも)


 攻撃をもろにくらった左腕が動かない。ズシンと床を揺らす音が一定の感覚でこちらに向かってきているのがわかる。

 ゴリラがこちらに来るのが遅いおかげでだんだん体の痛みが無くなってきた。左腕の感覚も戻りつつある。だけどあんなの何回も受けてたら治癒が間に合わない。


 立ち上がり、ゴリラのもとへと走る。振り被りを見て背後に回り込み背中と足に一発ずつ蹴りを入れる。


――やっぱ効かねぇか


(少年! どうなっている? 状況を教えろ)


 ゴリラがこっちを見て再び攻撃を繰り出すところを同じく避け、背中を思いっきりぶん殴る。


(こっちの攻撃が全く効かない。顎は砕いたみたいだけど……)


(ふむ、外見の特徴を言え)


 外見? もはや黒のローブはボロボロになっている。体中黒い毛が生えていてゴリラに似てるくらいしか……ん? よく見ると場所によって微妙に毛の色が違う?

 攻撃をかわしながら観察を続ける。

 毛の色だけじゃない、両手両足も微妙に違う。


(ローナ、外見はゴリラとか熊に近い。所々違和感がある。なんていうか違う動物みたいな)


(全くなんだあれは……っと、すまないもう一度頼む)


(だから、ゴリラっぽいやつで、違和感があるっていうか、なんか違う動物がくっついてるみたいな感じ)


(……もしや?……いや、しかしそんなことがやつらに可能なのか?)


(えっ? 何?)


(いや、なんでもない。頭だ、取り敢えず頭をねらえ。もしくは違和感のあるところを狙え)


 頭か違和感のあるところ……頭を狙うにはリスクが高すぎるな。跳ばないと届かない距離に攻撃を続けるのは難しい。

 ローナのアドバイスを受け、違和感のある境目に攻撃を繰り返す。

 右肩、左肘、右の膝から少し上の部分。重点的にそこを狙う。


――本当に効いてるのか?


 振りが大きい分交わすのは容易だが、攻撃をしても一向に相手の疲れが見えない。

 何度も攻撃を空振りさせ右肩を中心に狙う。


 ゴリラの豪快なアッパーをかわした時、甲高い女の子の悲鳴が聞こえた。


 「――うそ? 何? なんなの?」


 背後からの声に振り返る。


――なんでシャリアさんが!!?


次の話は視点が変わります。


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