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無明と血肉と届かぬ声

「ふ……む」


 一筋の光りもない、完全な暗闇と無音の中。存在を示す声が響く。


「困ったな。いや困っていない試しなど目覚めてこの方無いといっていいが、今回は特にだ」


 声は一人呟きながらひたひたと足音をもたてる。

 音がよく響く。その主以外にたてるモノが無いだけに、虚しい程によく響く。

 声に抑揚は無く、感情らしい感情が抜け落ちたような響きが虚しさを助長させていたが、それを指摘する者もまたいない。

 暗闇の中で歩き回りながら転ける素振りも無い。それは歩く範囲がどうなっているのか、目を瞑ってでも判るくらい知り尽くしているかのような足取りだった。


「ふーむ、元居た場所に還すのが楽だが、まあ無理だな。根本的な解決どころか、その場しのぎになるかさえ怪しい。大体その為のリソースが不足しているという、ああ、全く。忌々しい」


 時折立ち止まり、口元の髭を撫でたり、再び歩き回り始めながらも、声は独りでぼやき続ける。

 毒づきを交えながらも、それさえ何処か機械的な単調さがあった。


「元々切り詰めるだけ切り詰めていたが、今回ので限界だな。崖に片手でぶら下がり続けていた様なものなのだ。そこから足を引かれれば、後は……」


 その呟きの意味を理解できる者は、その当人以外にその場にはいない。


「……ん」


 幾ばくかの沈黙をはさみ、何かに気付いたような息が零れた。

 暗闇に一瞬だけ光が点り、直ぐに消える。瞬きのような瞬間だが、唯一の主はそれを見逃さなかった。


「解析が終わったか、どれ」


 光った地点に幾らかの迂回をして、ふらふらと近寄っていく。真っ直ぐ行かなかったのは、その場に何かが有ったのか。それは声の主にしかわからない。


「全く、酷い節電もあったものだ。まさか灯りにさえ困る日がこようとは」


 目的の地点に着いたのか、足を止め、ぶつぶつと不満を吐きながら指先で何かをつつく。

 自然のそれとは異なる光りが一瞬宿り、直ぐに消える。無明から薄暗いレベルにまでほんの一瞬だけ戻ったその場は、得体の知れない多種多様な銀箱と何かの装置が、何かしらの意図を以て規則的に部屋中に配置されている。

 そういったモノが配置されながら、それでも何百と人を詰められるだろう程に広々としたドーム状の一室だった。


「ふ、む……は?」


 灯りが消えた無明の場で、困惑と呆然を含めた呟きが零れた。













 自警団団長が馬鹿の家に到着した時、既に戦闘は終了していた。

 その結果は勝利。建築物は潰されているが、馬鹿は相変わらず馬鹿で生存し、件の巨人は肉塊に成り果てている。

 結果としては喜ばしい範囲内だ、が。それは少々団長の想定を斜め上をアクロバットに越えていた。なんか初見の女が居るし、巨人は意味わからん破壊のされ方してるし。

 この場に到着する直前、団長は件の巨人と遭遇し、これを仕留めていた。

 内容事態は極短時間での圧殺と言って良いものだが、半ば不意討ちに近い奇襲を受けて死にかけたのもまた事実。

 交戦によって得られた情報はこの場の誰も大差無い。故に団長もまた、巨人の厄介さを認識していた。


 ――この馬鹿じゃねぇな。

 異形の巨人の死骸、というには原型破壊がされ過ぎた残骸。

 仕留める事は可能だろうが、それは既存の火器をどれだけに叩き込めばそうなるかどうかという有り様で、少なくも剣という得物で出来る破壊痕ではない。少なくとも自分は無理だと団長は断ずる事ができる。

 この島で単騎で出来る人外じみた人間は二人程思い付くが、それと似たような真似ができるという時点で驚嘆に値することだ。

 そしてその二人はこの場に居らず、馬鹿でもないなら、これはこの見馴れぬ金髪の少女の仕業か、と団長は明確に視線を向ける。

 顔立ちは美少女と呼んで何の不足も無いが、だからこそ警戒の抜けきらない険のある表情が目立つ。僅かに細められた碧眼が団長をじっと視ていた。

 返り血も間近で直撃した自分やラグナと比較しても格別に少ない。同時に団長から見ても戦闘者の面構えが伺える。その多少切迫した感が気にはなったが、今は危急と流す。

 この場で三体。道中団長が遭遇し始末したのと合わせて四体。残敵はとりあえず見当たらない。

 どういう理屈で出現したのかも定かでないが、今はそれよりもと団長は口を開く。


「聞きたい事は色々あるが、先ずは移動するぞ」

「む。それは構わんが、ちとあっちでガタガタ震えてるユーリも連れてたい」

「はあ? え、何。先生あの家の残骸にいるのか?」


 ……先生?

 自宅の成れの果てを指差すラグナに、その指先を見て露骨に目を張り口元を引き攣らせる孝也。

 涼しげな風貌と剣呑な目付きがあっさり崩れて吐かれた予想外のミスマッチな台詞に、エリスは訝しげに目を瞬かせた。


「おう。怪我は全然大したことないが、あの巨人を見た段階で泣き出して、縮こまってしまってな」

「……まあ、先生は確かに臆病な方だし、あの糞巨人も中々にグロいみてくれだったが、そこまで反応するか? いや、まあ兎に角、急げ。マジでヤバい事態なんだ」

「わかった」


 問答とも言えないやり取りもそこそこに、ラグナは片手を挙げ、さっと身を翻す。

 後には面識の無い男女二人が残された。


「……あー、初めまして。自警団の団長を勤めさせられている孝也という者だ」

「……エリスよ」


 この島に来てからどれくらいこのやりとりをしただろうかと脳裏に掠め、エリスは手短に返した。

 それは人によれば不愉快に受け取られる素っ気ない冷たさを持っていたが、団長はむしろ口元を綻ばせ、鼻で笑う。

 そこに不思議と嫌味なものは感じなかったが、それはそれとして神経質になっている自覚の無いエリスが過敏に受け取り、逆に目付きをキツくして不快を表す。


「何が可笑しいの」

「ああいや、あんたを笑った訳じゃないんだ。まさか同年代相手に自己紹介する羽目になるとは思わなかったからな」

「……あっそ」


 なんだこの女。

 ならば良いよ紛らわしいなとばかりに視線を他所にやり、刺々しい感情以外の関心を向けないエリス。その態度に孝也は苦笑の表情を引き攣らせた。


「……あー、あの肉塊になった化物。やったのはあんたか?」

「……だったら?」


 半ば確信しての問いかけに対し、向けられた視線には険が増していた。それに孝也は単純に何かが気に入らないのか、それとも人間不信の気でもあるのかと思いつつも続ける。


「いや、大した力だ。どういう内容かは気になるし、あんた自身の身の上もよーわからんが」


 それは本来、現在の異常事態が発生していなければ村長か記者からある程度流される情報だった。

 しかしそれ所では無い完全イレギュラーな非常事態に見舞われ、村長たちが色々と考えていた段取りは台無しになり、自警団組織の指揮権を握る団長には情報伝達が滞る羽目になっている。

 故に孝也が知るのはせいぜいが薄ぼんやりとした噂くらいである。そしてその噂の一部が真実で、その表面だけでも色々と無視できない内容であるなら速やかに事情を聞き出す必要性があるだろう。

 が。


「団長としては把握しておくべきかもしれんが、纏めて後回しだ」

「は?」


 表情を変えずに断ずる孝也に、エリスは訝しげな表情で返す。この辺りは情報の差だろう。迫る驚異に対しある程度の情報を持つ自警団団長と、ほぼ何も知らないエリス。

 そして知る側の団長は優先順位をしっかりと意識する必要がある。

 まあ簡単な話、それどころではないのだ。それに尽きる。


「どういう因果でこの島に居るのか知らんが、居る以上は一蓮托生、生きるも死ぬも運命共同体だ。協力してもらうぞ、エリスさんよ」















 そろそろ場所を移すべきだろうか。

 荒れ地に近い周囲の地形を、見渡す限りの肉血のプールに変えた分隊長の少女はそう思った。

 平時の制服の上からほぼ全身をカバーするロングコート、帽子の代わりに分厚いマスクとフードを被り、全身から肌の露出を無くしている。常とは異なるその装備もまた、全身を魔物からの返り血と残骸にでくまなく汚れていた。

 果たしてどれだけ殺したか。屠った半魚人の数など最初からカウントすらしていない少女だが、流石に残骸で足場の確保さえ難くなってきた現状は流石によろしくない。

 しかし、そんな状況であるのに半魚人の大軍は止まない。同胞であったモノの残骸を踏みにじりながら、自身達もその残骸にされていきながら、それでも後続が途切れないのだ。


「……すこしこまったかもしれないです」


 水中でも問題なく声が出せるマスクの下から幼い声が溢れた。

 舌っ足らずでの独り言に当たり前だが応答は無く、少女は淡々と分厚い鎖を引く。手元に転がしていた、彼女の小さな体格どころか成人男性と比べても二倍程はある球形の金属塊と、それに繋がる分厚く長い鎖だ。

 金属塊の表面は原色が判らないくらい魔物の血肉で隙間無く汚れていたが、節々に掴む為の凹みがあった。それを少女は引っ掴み。


「ふん」


 軽く小石を投げるような気軽さで、迫る新手に投げた。それと繋がる、足元に散らばっていた鎖が急速に減っていく。

 一度たりと地に着く事無く放たれた豪速は、その馬鹿げた質量を考慮すれば現実感を損なうに足るものだろう。尤も思考さえあるか解らない半魚人に、それに対する反応等は無い。その進路上に在り、抵抗も断末魔をあげることもできずミンチ以下に潰された対象も含めてそうだ。

 じゃらじゃらと急速に伸び続けていく手元の鎖。その端部分を手に、伸びきる前にと少女は力を込めて別のベクトルを伝導させる。


「はあっ」


 少女は息を吐き、細腕に超常の力を込める。鈍く軋み続ける鎖を伝わせた方向は真横。

 真新しい肉片を散らす金属塊と、少女の腰ほどはあろうかという鎖との接続部が、一際厭な音をたてて軋む。伝導が伝わり、金属塊の進路も変わる。

 金属塊は真横に進路を変え、挽き肉以下の残骸を尚も量産していく。しかし鎖と、それを引く少女を中心とした円形だ。

 前提を繰り返すが、半魚人の数は圧倒的に多い。少女が一方を皆殺しにしても、別の方向から尚も迫る位に多い。

 だから少女は薙ぎ払うことにした。自分を軸とし、鎖を手に回転。真横のベクトルを強く受けた巨大な金属塊は、ユーリが知る所のハンマー投げを大幅に延長したような軌道をとって百八十の角度総てを補い、鎖が伸びる範囲総てをキルゾーンに変える。

 遠心力を伴う金属塊に、あるいはその鎖に巻き込まれ、それでも何かの行進のように迫るおぞましい半魚人が血肉の破片に変わっていく。鎖の部分に金属塊程の威力は無くとも、数十にも固まる半魚人の胴体を同時に抵抗無く千切るくらいの威力はあった。

 上半身と下半身に別れて息のある個体もあったが、その辺は鎖の角度を変えたりして薙ぎ払い、きっちり息の根を止めていく。

 そこには手慣れた作業めいたものがあった。


「はっ、はっ、はっ……ふぅ」


 程無くして射程圏に入った半魚人の殲滅を終え、少女は荒く息を吐いた。

 開けた地形の先にはまだ迫る群体が見えたが、直ぐにどうこうではないと、少女は手を止めて息を整える。


「ああ、まだきますよね。はあ」


 愚痴りながらマスクとフードを外して、その下からも被っていた帽子を脱いだ。

 むあっとした熱気と汗だくになった少女のあどけない素顔が外気に晒され、汗を拭うように顔を振る。玉にまでなっていた汗が飛び、乱れた髪の先からも散る。

 そして一息吐くように深呼吸し、中断。渋い表情で鼻をつまもうとしたが、マスクと帽子で両手が塞がっている事に気付き泣きそうな顔になる。


「うう、くちゃいよぅ……」


 被っていたマスクには悪臭を遮断する機能も付いている。そして換気の為とはいえ、それをその場で外せばどうなるか。

 自分で造り上げた千に迫ろうかという夥しい異形の残骸は、その悪臭に半ば慣れている彼女にとっても酷い臭いを発していた。


「はっ、はながつぶれ……あれ?」


 半泣きで再び帽子から被ろうとした時、気付く。

 悪臭が消えた。

 少女が目を見開き動作を硬直させる。鼻の奥まで触るような異臭が消えてなくるという前ぶりの無い、意味不明な異変。

 次いで少女は気付く。障害物も何もない血肉のプールの中心で、影が射している。まるで人のような、しかし人にしては巨大な影だ。

 少女は反射的に上を向く。

 少女に向けて拳を振り上げる、異形の巨人が居た。














 団長が馬鹿一同を連れ帰り報告を受けとると、戦況は悪化していた。

 住民の避難は八割方終了。これはいい、元より少ない人数に避難に対する慣れ。多少の混乱はあったようだが、程無く所定の場所に避難が完了するだろう。

 魚人の大軍の出鼻を挫く事に成功。これにより、多少なりと時間を稼ぐ事ができただろう。これもいい。

 そして悪い報告。錬金術師が二人ほどごねた。

 それにより避難活動が滞り、この防衛戦の肝になるだろう生産性が一時的にでも停止する。説得には時間を要するだろう。

 そう聞いた段階で孝也は胃の辺りを押さえたが、次の報告は更に最悪だった。

 特記戦力の内、二人が戦闘不能。


「……え、ごめん、なんだって?」


 それを聞いた時、表情を引き攣った形で固めていた孝也は、素でそう聞き返した。

 ぐじぐじと目と鼻を濡らしながらメモ帳両手に大声で報告してくる、年端もいかぬ連絡員の必死の報告を、聞かなかった事にしたかったのだ。

 当然ながらそんなもんで捩じ曲がるような現実ではない。健気にも涙声で続けられた報告に、孝也は膝を曲げそうになった。

 内容は、巨人による奇襲。それにより片方は命からがら逃げのび、もう片方は返り討ちにはしたが痛手を受けて。両者共に結局は暫くの行動が不可能な容体という。


「……それで元団長まで出てる訳かよ」


 戦線を短時間なら単独で支え得る、数少ない戦力の故障。只でさえ小数の自分達にとって、尋常ではない痛打である。

 恐らくはその穴埋めにと元団長が直々に少数率いて出向いたのだろう。残った能力者だけでは碌な時間稼ぎさえ不可能だ。


「と、まあ聞いての通りだが」


 酷い暗雲を抱えた瞳で、団長は後ろを振り向く。

 そこには団長直々に出向いて引き連れてきた馬鹿の連れが居た。固い表情をしたエリスだ。

 ラグナとユーリの姿は無いのは、ラグナの腕が動かないからと診てみたら折れてたので、医療に長けた錬金術師にまとめて放り投げられたからである。

 慌ただしく一礼だけ残した自警団の幼い伝令要因が再び駆け出していく。人員に欠けた現状で、恐らくは島の中でも有数の力をもつ二人は揃って不本意ながら二人だけになった。


「エリスさんよ。俺はあんたが『使える』のはわかるが、どういう手合いだかまるで知らんし知る時間も惜しい。だから率直に聞くが、今のと、ここに来るまでの掻い摘んだ説明でだ。何か役立てそうな事があるか?」

「……それを言ったとして、あんた信じられるの?」

「猫の手も借りたい、いや、この場合は溺れる者は藁をも掴むかね」


 表情は固いままだが、知らないエリスは首を傾げる。知っていたら態度を硬化させたかも知れないと自分の言葉運びの失敗を内心で舌打ちする孝也。

 しかし、溺れる者は藁をも掴む、偽り無い心境としてはそれに近い気分で頭を掻きながら、孝也は続ける。


「あの馬鹿は、お前を信じてるそうだな」


 それはここ自警団本部に到着するまでに、言葉でも足でも駆け足で交わした、短い会話の内容。

 それは証言にしては直情に過ぎ、保証にしては曖昧であったが、あの馬鹿らしくはあると孝也は思った。

 返答の代わりに、エリスの瞳が揺れ、僅かに身動ぎした。

 手応えを感じた孝也は、ここぞとばかりに続ける。


「ならまあ、最低限そう酷いことにはならんだろう。その前提さえあれば、今最優先すべき防衛戦に全て傾けるべきだと」

「あんたらの言い回しは小難しすぎてよくわかんない」


 エリスは真っ直ぐに孝也を見て言い捨てた。

 孝也は目をしばたかせ、言葉を止める。突然何を言うのかと理解が出来ていない顔。


「えーと、何。要はあの気色悪い魚面とグロ巨人がたくさん来て、このままじゃ皆ヤバいから力を貸せ、って事、だよね?」


 その声にだけは凛々とした力があったが、言葉尻には自信が欠けていた。

 そこに来て孝也は、言葉少なく口を開けば刺々しかった、その真の輪郭を朧気ながら捉えつつあった。

 まさかこいつ、話の内容を理解出来てなかった?

 間抜けに過ぎる自らの憶測。その可能性に怖気と脱力感を覚えながら、孝也は口を開く。


「ああうん。そう言う感じ」

「それなら任せると良いわ。私がいれば魚面の百匹や千匹、物の数じゃないもの」


 心なしかぞんざいな肯定に、気を良くしたように金髪を揺らし胸を張ると、エリスは自慢気な笑みさえ浮かべて応えてみせた。


「いや、半魚人共の総数は万単位はあるそうだが」

「?」


 孝也としては軽い補足のつもりだったのだが、それにエリスは何言ってんだこいつとばかりに首を傾げた。

 ああやっぱしこいつ話の流れをあんま理解できてなかったよ畜生と孝也は胃の辺りを押さえた。


「だから、万だよ万。五桁以上」

「え。なんで魔物がそんなに押し寄せてきてるのよ?」


 知るか。そんなもん俺が知りたいわ。てかなんでここに至って原因レベルで問答せにゃならんのだ。時間が無いっつーただろ。

 喉から出かけた今更に過ぎる問いへのツッコミを喉元でこらえる孝也。

 ここで横道に逸れたらまた貴重な時間が無意味に失われるという確信に近い予想が産んだ忍耐だ。


「兎に角、状況を理解したならさっさと行動してもらいたいんだが」

「……それもそうね。それじゃ一つ聞きたいんだけど」

「何だ」

「ここらで一番高い所はどこ?」

「島のほぼ全体を見渡せる見張り台がある。ここから外に出て見回せば直ぐ判る場所だ」


 エリスの問い掛けに、孝也は予め予測していたようにすらすらと即答する。

 それにわかったとだけ答え、エリスは不敵に笑い踵を返す。

 孝也はその細い肩に微妙な不安を覚えたが、何かを聞き出す時間さえ惜しいと、口を開きかけて噤んだ。

 野性動物じみた足音の無さと機敏さで足早に去っていくエリス。それを見送り、続報を待ちながらの武装の手入れを始める孝也は、ぼそりと不安を溢す。


「……また、見張り台が壊れねえだろな?」


 それに応答するものはいない。

 ただ、遠く。しかし彼の耳には届く範囲で、銃声が響いた。











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