表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界自動翻訳魔法による弊害

作者: クルネルク

 壁も床も天井さえも石によって構築され、魔物が跋扈ばっこする謎の建造物――この世界に住むヒトはダンジョンと呼ぶ――その中で二人の男女が話し合っていた。


「えーと、つまりあんたは魔物じゃないと言いたいのか?」


 聞く相手によっては激怒させかねないその発言をしたのは池上いけがみゆう――男性の方である――名前の通り日本人だが、ここは日本ではないし日本から徒歩ではもちろん飛行機でも宇宙船を使ったとしてもたどり着くことが出来ない所――いわゆる異世界――である。


「この知性にあふれ!理性をもつ!ヒトたる私を魔物であると疑う何て失礼極まりないです!」


 どうやら彼女を怒らせてしまったようだ、事の発端はダンジョン内で優が彼女を魔物と間違えて攻撃したことにある。

 これには優の能力に原因があり、優の目は物を識別することが可能な《鑑定眼》を持っていた、そのため曲がり角から出てくる彼女を、姿を見る前に《自動人形オートマター》と認識して魔物だと思ってしまったのである。

 

「いくら私が!世界でも数えるほどしかいない!完全自立思考自立行動可能な完全独立型自動人形であり!見慣れないと言っても!出会い頭に!魔物と!勘違いして!襲い掛かって来るなど!在りえません!」


「すいませんでしたー!」


「私の見た目の何処が!魔物なんですか!?どこを如何見ても!普通の探索者でしょうが!能力か何かで種族が分かったにせよ!それだけで決め付けないでください!」


「ホントマジすいません」


「全く、分かっているんですか?知性を持ち、理性を持たないものを魔物と言うのです、理性を持つものはヒトであり、人間に近いものを人族、人間から見たら異形のものを魔族というのです。その境界はいまだ曖昧でありますが、少なくとも私は人族に属しているんですよ!」


「分かっているから!それは分かっているから!頭踏むのをやめてください!潰れてしまいます!」


「それもそうですね、ヒトは体重をかけるとすぐ潰れるんでしたね」


 あんたが重すぎるんだよ、とは口が裂けてもいえない優であった。彼女は優の両腕を捻り上げて地面にうつ伏せに倒して、右足で頭を踏んづけている体勢である。


「まあともかく、此処で会ったのも何かの縁名前を聞いておきましょう、あなたが出世したら、このネタで強請ゆすりに行きますから」


「おれは出世する気は無いんだけれど、俺の名前は優、池上優だ、あんたの名前は?」


「ふふん、良くぞ聞いてくれました!私はMA-16、通称はマキナです!MAでマ、16でキナ、だからマキナです!」


「は?」


 そのときの優の顔は、何言ってんだこいつ、とでも言いたげでもう一度踏んづけてやろうかと思ったと後にマキナは語っている。


「分からないんですか、MAは普通に読んで、16のほうはいわゆる語呂合わせですよ」


「いやMAのほうは分かるんだけれども、なんで16でキナって読めるんだよ、語呂合わせならヒロでマヒロになるだろうが!」


「なにを言っているのですか?こちらが聞きたいですよ、あなたも16と言っておきながら、何でそれがヒロなんてかすりもしないものになるんですか?」


「ひーふーみーのヒにいち、に、さん、し、ご、ろくのロでヒロだよ!」


「なんで2からヒを取っているんですか!1から取るならジです、ロなんてRもありませんよ!」


「ロは6だからだっての!」


「だからなんで6がロになるんですか!?」


「6の一音目だっての!」


「6は一音しかありません、後は延ばしています」


「いやお前思いっきり6って二音言ってんじゃねぇか!おまえはクは長音だってのかよ!」


「?どうしてまたクなんて・・・!もしやあなたは!」


 唐突にマキナは右手を開き左手は人差し指だけを立てて優に見せた。


「優、今立っている指の数はロクですか?」


「そうだよ!俺が数を数えられないとでも思ってんのかよ!」


「魔物とヒトの区別も付かないので」


「悪かったよ!だからあまり言わないでくれ!」


「まあ、冗談です。ところで優はこの大陸の出身ではありませんね?」


「え?ああ、そうだけど?いきなりなんで?」


「そして此方にくる時に自動翻訳魔法を掛けてもらったか、それに順ずる魔道具を持ってますね」


「何で分かったの?」


 この男性――と言っても高校生なので少年と言ったほうが良いかもしれない――は日本である人物が運命を捻じ曲げたときにその反動として死ぬはずのないときに死んでしまったために、本来あるべき余生――今まで生きていた時間より長いのだが――を過ごす世界を死因を説明してくれた天使に提示されたときにこの世界を選ぶことでここに来たのである。

 その際に異世界の言葉が分かるように自動で日本語として認識でき、かつ自分は日本語を発しているつもりでもその世界の言葉として発されるように魔法を掛けてもらったのである。


「私たちの会話の齟齬はそのために生じたものです、あなたの言葉での16と私の言葉での16は発音が異なります、私の言葉での発音はキナに繋がりますが、あなたの発音だとキナとは程遠いものとなった、そのためにこのような無駄な、そう!とても無意味で!非生産的で!時間ばかりを浪費する!しょうもない!言い争いになってしまったのです!」


「何で怒ってんだよ」


「もちろんあなたのしょうもない能力のせいで再び煩わしい事になったからですよ」


「しょうもない能力じゃ無いから!すごい便利どころか、無いと生きていけないから!」


「そう言っても、その能力のせいで時間を無駄にしたのですからしょうも無いと言いたくもなりますよ」


「時間の無駄ってなぁ、俺だって今日中に次の区画まで行きたいし」


「もうすぐ日没ですよ」


「は!?」


「あなたを倒したとき、しばらく気を失ってましたから」


「それしばらくじゃねーだろ!昼間ぐらいに出会ったんだからかなりの間じゃねーか」


「まあともかく、今日は帰ります、さようなら、また会いましょう!」


「二度と会いたくねーよ!くそっ!俺も帰るしかないか」


 こうして二人の探索はそれぞれ終了した。この二人をはじめ多くの仲間が世界を救うのは当分先のことである。

この世界の発音

1:ジー

2:ヒー

3:メー

4:ヤー

5:チー

6:ナー

10:キー

11:キージー

A:アー

M:ムー


MA-16:ムーアーキーナー(マキナ)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ