Ⅴ
圭介の死から一ヶ月が経った。僕も華も、あの日から何も変わらない日々を過ごしている。ただひとつ変わったことと言えば、僕が本屋のバイトをゴールデンウィークで辞めたくらいだ。
結局、僕は圭介の葬式も墓参りにも行くことが出来なかった。学校の行きと帰り、彼を轢いた跡をなぞるように、電車に乗って踏み切りを通り過ぎるだけだった。引き寄せられるように窓の外を流れる景色を見つめていた。いつだって、あの踏み切りは周りの景色に流されることなく存在しており、僕を責めるように苛めた。
踏み切りには、花束やジュースがうずたかく供えられていた。車が吐き出す排気ガスの風に煽られながら、それらは腐敗することなくいつまでも瑞々しい様を保っている。踏み切りの前で、手を合わせている人を、電車の窓から何度か見かけたことがあった。彼が愛されていた証拠だと、心のどこかで誇らしげに思っていた。
ある日、栗色の長い髪の女性が、踏み切りの前で俯きながら手を合わせていた。その姿を学校帰りの電車から見かけた僕は、それが華じゃないかと思った。はやる気持ちを抱えながら駅の改札を抜けて、彼女のアパートまで走った。
しかし、一度訊いて、訊いたことをすぐに後悔した。肯定も否定もせず、両眼を悲痛に歪ませて、押し黙ったまま涙を流す彼女に何も言えなくなってしまった。これ以上傷付きたくないのは、僕も同じだった。
圭介がなぜ自ら死を選んだのか、何一つ解かっていない。交友関係、大学の成績、家庭環境などといったあらゆる面において、彼はまったく模範的とも言えるほどの大学生だった。遅刻や欠席は多かったが、単位をひとつも落としたことがない。この夏から始める就職活動だって、要領の良い彼なら僕等三人のなかで一番に内定を取ってくるだろうと思っていた。不器用な僕と華が生き残って、器用な彼は死んでしまった。