第四幕 方向転換
今自分がいる場所から、どう考えてもエリア9にいくには何時間にもなる
そのためには、飛行機が必要になるだろう。
だが、飛行機を使うことはできない。今は小波市は封鎖されていて、洛陽島へ向かうことすらできない。
それに飛行機で洛陽島に行く便があるかどうかすら怪しい。元々洛陽島は観光地などはなく、観光客などめったにおらず、洛陽島までの飛行機など需要がないのだ。
飛行機がだめなら、船で行ったらいいじゃないかと天音に言ったことがあるが、首は縦には動かなかった。
天音は言った。
『前に興味本位で洛陽島に行った人がいるんだけど、その人は船場で船乗りの人に頼んで乗せてもらったらしんだが』
なら船で行けばという考えが頭に浮かんだ。
だがその考えはあっさりと砕け散った。
『その船乗りの人、警察に密告したらしいのよ。でその行った人は向こうにいるところを警察に取り押さえられて逮捕。噂では、捕まって裁判も無しですぐに死刑が執行されたんだ』
逮捕という言葉はすぐにでも予想できたが、最後の言葉は予想できなかった。
死刑という2文字が頭の中で蹂躙する。
『多分その人は何らかの情報を掴んだ可能性があるから、政府は死刑を行ったんだと思う。逆に考えれば、そこにはやはり何らかの秘密があるってことだ』
頭の中で死刑を執行される二人の姿が浮かんだ。天音は一呼吸置き、続けた。
『多分、二人が求める真実もそのエリア9にあると・・・・・・』
真実と聞いて俺はついさっきみた、記憶のことを思い出していた。
あの時、自分に何があったのかは分からない、でもなにか・・・なにか胸に引っかかることが幾つも浮かんだ。
俺は行かなきゃ行けないという気持ちと行きたくない気持ちの二つが生まれたことに顔をしかめた。
それをみた天音は厳しい口調で言った。
『別に、来たくないなら無理する必要はない』
足手まといになるからという気持ちが含まれているんだろうな、と嘆息。
だが
『・・・・・・・・行かなかったらどうする?』
『きっと、裏切り者には相応しい結末―――』
『行くよっ!』
その言葉の続きを聞きたくなかったので、遮るように声を張り上げる。
どこか愉快そうに、笑いながら天音は言葉を続けた。
『まぁ、お前なら死刑の一つや二つどうってことないだろ?』
『俺はどんなやつだっ!ってかそれはもはや人ではないっ!!』
大きな声でツッコミをいれるが、それは虚しくも無視された。
確か、あの時・・・・・いつだったかは思い出せないがこんなことを二人で話していたんだよな。
「じゃあどうやって、エリア9に行くんだよ」
「?」
「だから、どうやってエリア9に行くって・・・・」
「・・・・・・・・どうせお前のことだから勝手にあの時のことでも思い出して、エリア9に行く手段が無いとか思ってるんだろ?」
「違うのか?だってあの時は・・・・・・・・・」
自分の心を見透かされたことに対する動揺を抑えながら聞き返す。
少しの間沈黙が続く。苛立ちを覚えながら、言葉を待つ。
「行けないのなら、行かなければいい」
唐突にその言葉は紡がれた。
「は?」
面食らったように、その場で硬直してしまう。俺たちの目的はそこにあるんだから、行かなくてはいけないのではないのだろうか?と目で訴えかける。
「私たちの敵になるのは、この事件と何?」
なにってなんだよと心の中でつっこむ。もったいぶってないで教えてくれればいいのに、と思う。
「エリア9・・・・小波市のあの事件は誰が、誰の手によって消されたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・!」
答えは一つしかなかった。エリア9を地図からも抹消した組織。いまの日本に巣食う害虫。
「政府・・・・・」
考えてみればすぐに分かることだった。確かにエリア9に行くことはできなくても、エリア9を封鎖させ、地図からも抹消させたのは政府であり、政府ならエリア9、そしてそこであった事件のこと。
すべては政府が握っている。