第8話 1回戦・剣士
商会の屋敷の一室。
ミオは窓辺に立って、部屋を見回していた。
「すごいなあ……」
広い部屋だった。
厚い絨毯、重い木の机、大きなベッド。
ギルドで稼ぐようになってから生活には困らなくなっていたが、それでもここまでの豪華さではなかった。
ドアが軽く叩かれた。
「入っていいかな」
「はい!」
入ってきたのは、商会の主人だった。
主人は椅子に腰掛けると、少し笑って言った。
「さっそくだが、君に話がある」
「話?」
「闘技場だ」
ミオは目をぱちぱちさせた。
「闘技場?」
主人は頷いた。
「君に出てもらいたい」
ミオは少し考えてから、素直に聞いた。
「私、勝てるかな?」
主人はくすっと笑った。
「勝てるかどうかは、実は大して大事じゃない」
「え?」
主人は指を立てる。
「闘技場で一番大事なのはな」
「見せ場だ」
ミオは首をかしげる。
「見せ場?」
「そうだ」
主人は楽しそうに続けた。
「観客は“勝敗”を見に来ているわけじゃない」
「“面白い戦い”を見に来ているんだ」
ミオは少し考えて、ぱっと笑った。
「なるほど!」
「じゃあ、楽しい戦いをすればいいんだね!」
主人は満足そうに頷いた。
「その通りだ」
---
数日後。
闘技場の一回戦。
対戦相手は剣士だった。
鎧を着込み、長剣を持った、いかにも歴戦の戦士といった男。
その前に立つミオは――
格闘家の衣装だった。
軽い布の装束。
腕も脚もむき出し。
華奢な十六歳の少女が着るには、あまりにも頼りない格好だった。
観客席から笑い声が上がる。
「おいおい」
「子供じゃねえか」
「剣士の相手だぞ?」
ミオはきょろきょろと観客席を見上げていた。
「人、いっぱいだね」
そして、鐘が鳴った。
試合開始。
剣士が一気に踏み込む。
鋭い一撃。
だが――
当たらない。
ミオは身体をわずかに傾けただけだった。
次の一撃。
それも、当たらない。
数センチ。
ほんの数センチの差で、剣は空を切る。
ミオは軽くステップを踏みながら、すべての剣を避けていく。
ひらり。
くるり。
まるで踊っているようだった。
観客席のざわめきが変わる。
「……なんだ?」
「当たらねえ」
「おい、あの動き」
剣士の攻撃は続く。
だが剣は、かすりもしない。
次第に観客の視線が、剣士ではなく――
ミオに集まっていった。
剣士の息が荒くなる。
その瞬間だった。
ミオが踏み込んだ。
鋭い蹴り。
バン!
剣士の腕を打ち抜く。
剣が弾き飛ばされ、砂の上に転がった。
「くっ!」
剣士はとっさに拳で殴りかかる。
だがミオはその腕をつかんだ。
くるり。
柔術の投げだった。
剣士の身体が宙に浮き、闘技場の砂に叩きつけられる。
そのままミオは体勢を崩さず、相手を組み伏せた。
剣士は必死に抗う。
だが――
もう誰の目にも明らかだった。
この試合で
“見せ場を作ったのが誰か”。
審判の手が上がる。
「勝者――ミオ!」
歓声が上がった。
---
控室に戻ると、商会の主人が待っていた。
そして。
パチ、パチ、パチ。
「ブラボー!」
大きく拍手している。
「素晴らしい!」
ミオは少し照れながら笑った。
「うまくいった?」
「最高だ!」
主人は満面の笑みだった。
ミオは闘技場の方を振り返る。
歓声がまだ聞こえていた。
ミオは思った。
ここが――私の居場所なんだ。
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